配偶者の在留資格で在留特別許可の見込みはどう変わるか|日本人・永住者・就労資格の配偶者を公表事例で比べる
2026/09/18
在留特別許可の審査では、配偶者がいることそのものよりも、その配偶者が日本でどのような地位にあるかが大きな意味を持ちます。出入国在留管理庁が毎年公表している在留特別許可の事例集も、「配偶者が日本人の場合」「配偶者が正規在留外国人の場合」といった区分で事例を並べています。本記事では、平成26年分から令和7年分までの公表事例を当事務所で整理した結果をもとに、刑事処分がある方について、配偶者の在留資格ごとに許可・不許可の傾向を比べます。
本記事の要点
- 配偶者が日本人の場合、執行猶予付きの判決があっても、他に消極的な事情が重ならなければ許可された例があります。
- 配偶者が永住者・定住者の場合も、執行猶予付きの判決で許可された例がありますが、罪名は不法残留や道路交通法違反が中心です。
- 配偶者が就労資格や留学などの別表第一の在留資格の場合、本人に刑事処分がある事例は、確認できた8件すべてが不許可でした。
- 配偶者の帰化や永住申請が進んでいる場合は、その手続がいつ完了するかによって、審査の類型そのものが変わり得ます。
- 公表事例は個人情報の関係で記載が簡略化されており、個別の事情によって結論は変わります。
以下の公表事例の刑は、事例集の表記どおり「懲役」「禁錮」と記載します(現行法の拘禁刑に相当します)。
配偶者が日本人の場合
日本人の配偶者であることは、ガイドラインで「特に考慮する積極要素」とされています。公表事例でも、刑事処分がない方の許可例が毎年並んでいます。刑事処分がある方についても、次のような許可例があります。
- 令和5年分:覚醒剤取締法違反で懲役3年・執行猶予5年。本人は永住者で、未成年の子2人。「日本人の配偶者等」で許可。
- 令和6年後半分:不法就労助長で罰金20万円。配偶者と別居中。「日本人の配偶者等」で許可。
- 令和7年分(入管法50条1項ただし書の事例):窃盗で懲役1年2月の実刑。婚姻約33年。「日本人の配偶者等」で許可。
一方、不許可となった事例を見ると、執行猶予付きの判決に加えて、退去強制歴や在留特別許可歴がある、ほかに前科がある、不法就労助長や売春に関わるなど入管行政の根幹に関わる違反である、婚姻や同居の実態に疑いがある、といった事情が重なっています。日本人の配偶者であっても、消極的な事情が複数重なると許可は難しくなります。
配偶者が永住者・定住者の場合
配偶者が永住者や定住者である場合も、家族の日本への定着性が評価され、許可例が多く見られます。刑事処分がある方の許可例には、次のものがあります。
- 令和6年前半分:不法残留で懲役2年6月・執行猶予3年。配偶者は永住者。「永住者の配偶者等」で許可。
- 令和7年分:不法残留で懲役1年・執行猶予3年。配偶者は永住者。「永住者の配偶者等」で許可。
- 令和6年後半分:出頭申告、道路交通法違反で懲役1年2月・執行猶予3年。配偶者と子は定住者。「定住者」で許可。
他方で、令和4年分には、出頭申告をし配偶者が永住者であっても、入管法違反と無免許運転で懲役2年・執行猶予3年の判決を受けた方が不許可とされた例があります。許可例の罪名は不法残留や交通事犯が中心で、窃盗や文書偽造などの刑法犯で執行猶予付き判決を受けた方の許可例は、この類型では多くありません。
配偶者が就労資格・留学などの場合
最も厳しいのが、配偶者が「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」「留学」「特定活動」など、別表第一の在留資格である場合です。この類型で許可された3件は、いずれも刑事処分のない事案でした。刑事処分がある事案は、確認できた8件すべてが不許可です。主なものは次のとおりです。
- 令和7年分:偽造在留カード行使で懲役1年6月・執行猶予3年。在日約16年、婚姻約13年9月。配偶者は技術・人文知識・国際業務。不許可。
- 令和6年前半分:詐欺・電子計算機使用詐欺等で懲役1年6月・執行猶予3年。配偶者は技術・人文知識・国際業務。不許可。
- 令和6年後半分:出頭申告、在日約12年、婚姻約12年、未成年の子2人。過失運転致死で禁錮3年・執行猶予4年。配偶者は技術・人文知識・国際業務。不許可。
- 令和4年分:有印公文書偽造で懲役2年・執行猶予3年。配偶者は特定活動。不許可。
長い在日期間、長い婚姻期間、未成年の子、出頭申告、過失犯であること。こうした有利な事情があっても、この類型では刑事処分の存在を覆せていません。刑事処分がない事案でも、配偶者が技術・人文知識・国際業務で、婚姻約1年、出頭申告の方が不許可とされた例があります(令和6年前半分)。
当事務所の事例:審査の時点で類型が変わった
2026年9月に当事務所が在留特別許可を得たベトナム国籍の男性は、有印私文書偽造・同行使の罪で懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受けていました。本人は「技術・人文知識・国際業務」の在留資格でした。妻もベトナム出身で、帰化の手続を進めていました。判決が2026年2月に確定した後、3月に妻の帰化が完了して日本国籍を取得し、在留特別許可の審査は「配偶者が日本人の場合」の類型で行われました。
仮に妻が外国籍のままで、その在留資格が別表第一であったなら、上の8件と同じ類型で判断されることになり、見込みは相当に低かったと考えられます。配偶者の地位の変化が、審査の出発点を変えた事例です。ご本人の同意を得て紹介しています。
ご自身の事案を考えるときに
公表事例は、処分の理由や個人の事情が簡略化されて記載されています。事例と完全に一致する事案はありません。見るべきなのは、罪名、刑の種類と重さ、発覚の経緯(出頭か摘発か)、配偶者と子の在留上の地位、婚姻と同居の実態、退去強制歴などの組合せです。当事務所では、ご相談の時点で公表事例の中から近いものを抽出し、有利な点と不利な点をお示ししています。
配偶者が帰化申請中、あるいは永住許可を申請中である場合は、その手続がいつ終わる見込みかを必ず確認してください。刑事手続や入管手続の時期との関係で、取るべき方針が変わることがあります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が、入管庁の公表事例を類型ごとに整理した資料をもとに、ご相談の段階から見込みと対策をご説明します。刑事事件から入管手続まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、他の言語は事案に応じて通訳を手配します。在留資格の更新・変更は、提携の行政書士と連携して対応します。
このほか、不法就労助長に問われた女性について、退去強制事由にも故意・過失が必要であるとして上訴審まで争い、その後、在留特別許可が認められた事例があります。
結語
在留特別許可の見込みは、本人の事情だけでは決まりません。配偶者と子がどのような在留上の地位にあるかで、審査の出発点が変わります。家族全体の手続を一つの表に並べて見通すことが、方針を立てる第一歩です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士/第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)/舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)/中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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