余罪の追起訴を防ぐ起訴前弁護|外国人の刑事事件で「起訴される罪の数」が在留を左右する理由
2026/09/18
逮捕された事件とは別に、ほかの行為についても捜査が続き、後から追加で起訴されることがあります。これを追起訴といいます。日本人の事件であれば量刑が少し重くなるという問題にとどまることもありますが、外国人の事件では、追起訴の有無が、執行猶予か実刑か、ひいては日本に残れるかどうかを分けることがあります。2026年9月に当事務所が在留特別許可を得た事例でも、出発点は起訴前の段階で追起訴を防いだことでした。
本記事の要点
- 複数の罪で有罪となる場合、併合罪として刑が加重され、最も重い罪の刑の長期にその2分の1を加えた範囲で刑が決まります(刑法47条)。
- 1年を超える実刑となれば、在留資格の種類を問わず入管法24条4号リの退去強制事由に当たり、在留特別許可も入管法50条1項ただし書の制限を受けます。
- 公表事例では、ただし書により許可された事例の量刑はおおむね1年2月から1年6月の範囲で、2年6月の実刑は日本人の子を養育していても不許可とされています。
- 余罪については、起訴の判断がされる前に、嫌疑不十分や起訴猶予を求める意見書を検察官に提出することができます。
- 当事務所の事例では、窃盗の追起訴を防いだことで、執行猶予付き判決と在留特別許可につながりました。
追起訴とは
逮捕・勾留された事件で起訴された後も、関連する別の行為について捜査が続くことがあります。捜査の結果、検察官が起訴相当と判断すれば、同じ裁判の中に追加で起訴されます。詐欺、窃盗、文書偽造などの財産に関わる事件では、同じような行為が複数回あったとして余罪の捜査が行われやすい傾向があります。
余罪が起訴されれば、併合罪として一つの刑が言い渡されます。刑法47条により、最も重い罪の刑の長期にその2分の1を加えた範囲で刑が決まるため、罪の数が増えるほど量刑は重くなりやすく、被害額の合計も量刑に影響します。
外国人の事件で追起訴が重い理由
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を、在留資格の種類を問わず退去強制事由としています(刑の全部の執行猶予の場合を除く)。そして在留特別許可についても、1年を超える実刑を受けた方は、在留を認めないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情がある場合に限って許可されます(入管法50条1項ただし書)。
入管庁が公表している事例集を当事務所で整理したところ、令和6年後半分と令和7年分でただし書により許可された6件の量刑は、いずれも拘禁刑1年2月から1年6月(当時の表記では懲役)の範囲でした。一方、令和7年分では、詐欺・有印私文書偽造等による懲役2年6月の実刑の方について、日本人の子を養育し在日約22年であっても不許可とされています。また、許可された6件の方は、いずれも永住者や定住者の家族、日本人の配偶者など、日本との結び付きが強い方でした。就労資格や留学の在留資格の方が実刑判決を受け、ただし書により許可された公表事例は見当たりません。
つまり、追起訴によって量刑が1年を超える実刑の側に振れると、在留特別許可の見込みは大きく下がります。執行猶予付きの判決にとどまるかどうかは、起訴される罪の数に左右されます。
起訴前にできること
余罪について起訴するかどうかは、検察官が判断します。その判断の前に、弁護人は次のような活動をすることができます。
- 意見書の提出:証拠関係や法律上の問題点を整理し、嫌疑不十分や起訴猶予による不起訴処分を求めます。
- 故意の有無の検討:本人の認識を丁寧に聴き取り、犯罪の故意がないことを示す事情や資料を集めます。
- 制度上の根拠の提示:行為が法令や制度の上で予定されているものであれば、その根拠を示します。
- 示談と被害弁償:被害者がいる事件では、示談や弁償の意思を示し、被害者の情報の開示を求めます。
- 取調べへの対応:余罪の取調べでは、不用意な供述が起訴の根拠になりかねません。黙秘を含めて方針を決めます。
当事務所の事例
2026年9月に在留特別許可を得たベトナム国籍の男性は、他人名義の委任状を作って課税証明書を取得しようとしたとして、有印私文書偽造・同行使の罪で起訴されていました。さらに、帰国した知人の税の還付金を口座から引き出した行為について、窃盗の追起訴が検討されていました。
当事務所は起訴の判断の前に、不起訴処分を求める意見書を検察官に提出しました。帰国する外国人が還付金の受領を国内の知人に委ねることは、納税管理人の制度上も予定されていること、男性には他人の財物を盗む故意がなかったことを、国税庁の届出書式を添えて示しました。あわせて、公判となれば無罪を主張する予定であること、実質的な被害者との示談の用意があることも伝えました。結果として窃盗は起訴されず、有印私文書偽造・同行使の罪だけで審理され、懲役1年6月(現行法の拘禁刑に相当)、執行猶予3年の判決となりました。
執行猶予付き判決であったため、入管法50条1項ただし書の制限を受けずに在留特別許可を申請することができ、判決確定後に配偶者が日本国籍を取得したこともあって、日本人の配偶者として許可を得ました。ご本人の同意を得て紹介しています。
ご家族にお願いしたいこと
余罪の捜査は、本人が勾留されている間に進みます。ご家族が気付かないうちに、取調べで説明が重ねられていることもあります。逮捕の段階で、ほかにどのような行為が問題とされているのかを弁護人が早く把握できれば、起訴前の活動に使える時間が増えます。本人から聞いている事情や、関係する書類、口座の記録などがあれば、早めに弁護人に渡してください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から起訴前の意見書、公判、入管手続まで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、他の言語は事案に応じて通訳を手配します。
起訴前弁護の事例として、特殊詐欺の受け子として繰り返し逮捕された方について、全件で不起訴処分を得た事例があります。入管手続では、不法就労助長に問われた女性について、退去強制事由にも故意・過失が必要であるとして上訴審まで争い、その後、在留特別許可が認められた事例があります。刑事手続後の在留資格の更新・変更は、提携の行政書士と連携して対応します。
結語
外国人の刑事事件では、起訴される罪が一つ増えるだけで、在留の見通しが大きく変わることがあります。余罪の捜査が続いていると分かった段階が、弁護人が動くべき時期です。起訴された後では、できることが限られます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年9月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士/第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)/舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)/中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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