宥恕文言とは何か。示談書に入れる意味と刑事処分・在留資格への効果
2026/08/13
宥恕とは、被害者が加害者を許すという意味の法律用語です。示談書に、被害者は被疑者を宥恕し、その刑事処罰を求めない、と記載する条項を宥恕文言と呼びます。金銭の支払だけを定めた示談書と、宥恕文言のある示談書とでは、検察官や裁判官が受け取る意味が大きく異なります。もっとも、宥恕文言があれば必ず不起訴になるというものではなく、罪名や被害の程度によって重みは変わります。ここでは宥恕文言の法的な位置付けと、外国籍の方の在留資格に及ぶ影響を整理します。
本記事の要点
- 宥恕文言は被害者が処罰を望まない意思を明示する条項で、起訴猶予(刑事訴訟法248条)の判断で重視されます。
- 法的な拘束力はなく、宥恕があっても検察官は起訴でき、裁判所は有罪判決を出すことができます。
- 親告罪では告訴の取消しが別途必要であり、宥恕文言だけでは公訴の提起を妨げられません。
- 不起訴となれば拘禁刑に処せられず、別表第一の在留資格の方は入管法24条4号の2の適用を受けません。
宥恕文言があると処分はどう変わりますか
結論として、宥恕文言は起訴猶予の判断において最も重く扱われる事情の一つです。検察官は、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重および情状、犯罪後の情況を考慮して起訴しないことができます(刑事訴訟法248条)。被害者が処罰を望まないという意思は、このうち犯罪後の情況として直接に働きます。実務上も、被害弁償のみが済んでいる事案と、宥恕まで得られている事案とでは、処分の見通しに差が生じます。ただし、被害が重大な事案、同種前科がある事案、社会的な影響が大きい事案では、宥恕があっても起訴されることがあります。宥恕は決定打ではなく、有力な一要素だとご理解ください。
宥恕文言に法的な拘束力はありますか
拘束力はありません。公訴を提起する権限は検察官に専属し(刑事訴訟法247条)、被害者の意思によってその権限が消滅するわけではないからです。したがって、宥恕文言のある示談書を提出しても、検察官が起訴を選択することは制度上あり得ます。また、いったん宥恕した被害者が後に処罰感情を戻したとしても、示談書自体の効力が失われるものではありません。逆に、被害者が示談金を受け取りながら宥恕文言を拒む場合もあり、その場合は、被害弁償が完了した事実と、被害者が処罰を強く求めていない事情とを分けて主張することになります。文言の有無だけで一喜一憂しない姿勢が必要です。
親告罪では宥恕文言だけで足りますか
足りません。親告罪では告訴が訴訟条件ですので、告訴を取り消す意思表示を明確に得る必要があります。器物損壊(刑法261条、264条)や名誉毀損(同230条、232条)が典型です。告訴の取消しは起訴前に行われ(刑事訴訟法237条1項)、取消し後に同一事件について再び告訴することはできません(同条2項)。したがって、示談書には宥恕文言に加え、告訴を取り消す旨とその手続に協力する旨を記載します。他方、傷害や窃盗などの非親告罪では、告訴の有無は起訴の条件ではありませんから、宥恕文言と被害弁償の完了が中心的な意味を持ちます。罪名の確認が出発点になります。
宥恕を得られた場合、在留資格にはどう影響しますか
宥恕そのものに入管法上の効果はなく、影響は処分の結果を通じて現れます。宥恕が不起訴につながれば、拘禁刑に処せられませんので、別表第一の在留資格の方について入管法24条4号の2の退去強制事由は問題になりません。薬物事犯では執行猶予付きでも同法24条4号チに該当し、1年を超える拘禁刑の実刑は同号リに該当しますが、いずれも不起訴であればそもそも生じません。永住者や日本人の配偶者等の別表第二の在留資格の方には24条4号の2の適用がありませんが、在留期間の更新や在留資格取消し(同法22条の4)の場面では、宥恕を得た事実を素行の説明として提出することになります。
よくあるご質問
宥恕文言はどのような文章になりますか
実務では、被害者は本件について被疑者を宥恕し、その刑事処罰を求めない、という趣旨の一文が用いられます。付随して、捜査機関に対し寛大な処分を求める旨を書き添えることもあります。被害者に無理に署名を求めた形跡があると効果が減じますので、あくまで任意の意思として記載します。
宥恕文言のない示談書でも意味はありますか
あります。被害弁償が完了した事実は、被害の回復という点で独立の価値があり、起訴猶予の判断でも考慮されます。被害者は金銭を受領したが処罰を求めないとまでは述べていないといった経緯を、弁護人が意見書で正確に説明することが重要になります。金銭の授受を裏付ける資料も併せて提出します。
起訴後に宥恕を得た場合も意味がありますか
あります。公判では量刑上の情状として考慮され、執行猶予の判断に影響します。もっとも、別表第一の在留資格の方は、執行猶予付きの拘禁刑でも入管法24条4号の2に該当する類型がありますので、刑事処分の軽減が在留の維持に直結しない点は押さえておく必要があります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
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