示談書に必ず入れておきたい条項と、外国籍の方が注意すべき記載の工夫
2026/08/13
示談書は、被害者との間で紛争を終わらせる民事上の合意であると同時に、検察官が起訴・不起訴を判断する際の中心的な資料になります。書式に決まりはありませんが、入れるべき条項が抜けていると、金銭を支払ったのに刑事処分では十分に評価されない、あるいは後日改めて請求を受けるといった事態が起こります。外国籍の方の場合は、これに加えて、在留資格の審査で提出することを想定した記載や、帰国の可能性を踏まえた履行条項の設計が必要になります。実務で標準的な条項を順に見ていきます。
本記事の要点
- 示談書の柱は、事件の特定、金額と支払方法、清算条項、宥恕文言の四つです。
- 被害届の取下げや告訴の取消しは罪名によって意味が変わるため、条項の書き方を分ける必要があります。
- 被害者の氏名や住所の扱い、口外禁止条項の範囲は、後の紛争を避けるために具体的に定めます。
- 不起訴となれば拘禁刑に処せられず、別表第一の在留資格の方は入管法24条4号の2の退去強制事由を避けられます。
示談書に最低限入れるべき条項は何ですか
結論として、事件の特定、示談金額と支払方法、清算条項、宥恕文言の四つが柱になります。事件の特定は、発生日時、場所、行為の概要を、当事者間で誤解が生じない程度に記載します。金額と支払方法は、振込先、期限、振込手数料の負担まで書きます。清算条項は、本件に関し当事者間に本示談書に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する条項で、後日の追加請求を防ぐ意味があります。宥恕文言は、被害者が被疑者を許し、刑事処罰を求めない旨の記載です。これに加えて、被害者の連絡先や氏名を第三者に開示しないこと、当事者が相互に接触しないことを定めることが多くあります。
被害届の取下げや告訴の取消しはどう書きますか
罪名が親告罪かどうかで書き方を変えます。器物損壊(刑法261条。264条により親告罪)や名誉毀損(同230条。232条により親告罪)のように告訴がなければ起訴できない罪では、告訴を取り消す旨の条項が決定的な意味を持ちます。告訴の取消しは起訴前に限られ(刑事訴訟法237条1項)、いったん取り消すと同一事件について再び告訴することはできません(同条2項)。これに対し、傷害や窃盗のような非親告罪では、被害届の取下げがあっても検察官は起訴できますので、条項としては処罰を求めない意思の表明という位置付けになります。いずれの場合も、被害者に取下げを義務付ける表現ではなく、被害者自身の意思として記載します。
外国籍の当事者に固有の記載として何が必要ですか
帰国や在留資格の変動を織り込んだ条項を置くことが重要です。まず、示談金の支払を分割とする場合は、本人が退去強制や自主的な出国により日本を離れる可能性を考え、一括での支払や、日本に居住する親族の連帯保証を検討します。次に、示談書は入管の手続でも提出することがあるため、提出先をあらかじめ限定する条項の文言を調整し、被害者の氏名を伏せた抄本を作成できるようにしておきます。また、当事者双方が日本語を母語としない場合には、中国語訳を添付し、内容を理解したうえで署名した旨を記載しておくと、後に合意の効力が争われる余地を減らせます。署名は本人の自署が原則です。
示談書は入管手続でどのように使われますか
在留資格の審査では、示談書は素行と再発防止を裏付ける資料として扱われます。不起訴処分となった場合、拘禁刑に処せられていない以上、別表第一の在留資格の方について入管法24条4号の2の退去強制事由には該当しません。もっとも、在留期間の更新や変更は別の審査であり、示談の成立や被害弁償の完了は、更新を許可すべき相当の理由の判断において積極的な事情として説明することになります。退去強制手続に進んだ場合も、在留特別許可(入管法50条)の判断資料として提出します。なお、薬物事犯(入管法24条4号チ)のように被害者が想定されない類型では、示談という手段自体が存在しない点に注意が必要です。
よくあるご質問
示談書は日本語で作らなければなりませんか
日本語で作成するのが原則です。捜査機関や裁判所に提出する書面だからです。ただし、当事者の一方が日本語を十分に理解できない場合は、中国語訳を添付し、通訳を介して内容を確認したうえで署名した旨を本文に記載しておくと、合意の成立や内容の理解について後日の争いを避けやすくなります。
示談金の相場はどのくらいですか
罪名、被害の程度、治療期間、被害者の処罰感情によって幅が大きく、一律の相場を示すことはできません。治療費や修理費などの実損が算定できる場合は、それを基礎に慰謝の趣旨を加えて協議します。相場という言葉に引きずられず、本件の被害内容に見合う説明ができる金額を組み立てることが大切です。
示談書に署名したのに起訴されることはありますか
あります。非親告罪では、示談は起訴猶予を判断する重要な事情の一つにとどまり、前科前歴、被害の重大性、態様の悪質性によっては起訴されることがあります。示談だけに頼らず、再発防止の環境調整や監督者の確保を併せて示すことが、処分の見通しを改善する現実的な方法です。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
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これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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