示談金に相場はあるのか 金額の考え方と相場論に頼ることの危うさ
2026/08/13
示談金にいくらという決まった相場はありません。示談は法律に定められた制度ではなく、被害者と加害者の合意によって成立する民事上の契約ですから、金額は事案ごとに定まります。それにもかかわらず、罪名ごとの相場という情報が独り歩きし、その額を提示したのに断られたという相談が絶えません。金額の根拠を示せない提示は、かえって被害者の感情を害します。本稿では、示談金を構成する要素、金額を組み立てる考え方、そして相場論に頼ることの危うさを整理します。
本記事の要点
- 示談は民事上の合意ですから、罪名ごとに一律の相場が存在するわけではありません。
- 金額は、実損害の賠償と精神的損害の慰謝、そして宥恕を得るための解決金という要素から組み立てます。
- 支払能力を超える金額での合意は、不履行により示談が意味を失う危険があります。
- 外国籍の方は在留がかかるため足元を見られることもあり、交渉は弁護人を通すべきです。
示談金はどのように決まるのですか
事案ごとの損害と被害感情を踏まえた個別の合意によって決まります。傷害の事案であれば、治療費、通院交通費、休業損害といった実損害に加え、慰謝料が考慮されます。窃盗や詐欺の事案では、まず被害額の全額弁償が出発点となり、これに迷惑料の趣旨が加わることがあります。器物損壊であれば修理費が基礎になります。もっとも、刑事事件の示談は、民事の損害賠償の算定だけで決まるものではありません。加害者の処罰を望まないという意思を示していただくための解決金という性格が加わるため、民事の基準額と一致しないことがしばしばあります。
相場という情報に頼ってよいのですか
頼るべきではありません。相場と称する金額は、過去の事例の断片が伝聞として広まったものにすぎず、被害の内容も被害者の状況も異なる事案に当てはまる保証はありません。実務上の危険は二つあります。第一に、相場だからという理由で提示された金額は、被害者に対して、この程度の被害だと決めつけられたという印象を与え、交渉そのものを打ち切られる原因になります。第二に、逆に相場より高い金額を無理に提示し、支払えなくなる例もあります。金額は、実損害の裏付けと本人の資力から積み上げて説明できる形にすることが、結局は早期の合意につながります。
支払能力を超える約束をするとどうなりますか
示談そのものが意味を失う危険があります。分割払いの合意をしたものの途中で支払えなくなると、被害者との関係は交渉前よりも悪化し、示談書に定めた期限の利益喪失条項により残額の一括請求を受けることもあります。刑事手続との関係でも、示談の履行が滞れば、宥恕の趣旨が失われたと評価されかねません。したがって、家族からの援助を含めて実際に用意できる金額を確認し、可能であれば一括で支払う形を整えることが望ましいといえます。用意できる金額に限りがある場合は、その事情を率直に説明し、支払方法の工夫によって合意を目指すことになります。
外国籍の方が特に注意すべき点は何ですか
在留資格がかかっているという事情を、交渉の場で不利に利用されないよう注意が必要です。別表第一の在留資格の方は、窃盗や詐欺、傷害等で拘禁刑に処せられると、執行猶予が付いても入管法24条4号の2により退去強制事由に該当し得ますので、示談の成否は生活の基盤に直結します。この切迫した事情を背景に、通常では考えられない金額を求められることもあります。だからこそ、交渉は弁護人を通じて行い、金額の根拠を確認しながら進めるべきです。本人や家族が直接交渉に当たることは、金額の面でも手続の面でも不利益が大きいといえます。
よくあるご質問
痴漢事件の示談金の相場を教えてください
一律の相場はありません。被害の態様、被害者の年齢や状況、被害届の提出時期、加害者の資力などにより大きく異なります。相場を前提に交渉を始めるのではなく、実損害と被害感情に即した提示を組み立てることをお勧めします。根拠を説明できる金額であることが重要です。
分割払いでも示談は成立しますか
被害者が同意すれば可能ですが、不履行のリスクを考えると慎重な検討が必要です。刑事手続の期間内に全額を支払えるかどうかが判断の分かれ目になります。親族の援助を含め、資金の見通しを立ててから交渉に入るべきです。途中で滞れば、かえって不利な状況を招きます。
会社のお金を使ってしまいました。返せば不起訴になりますか
全額の弁償は重要な事情ですが、それだけで不起訴が決まるわけではありません。被害額、期間、常習性、勤務先の処罰意思なども考慮されます。弁償と併せて、宥恕の意思を得られるかどうかが鍵になります。返済の原資や再発防止の体制についても、併せて説明してください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 盗撮被害の事案において、刑事告訴と示談交渉を担当し、300万円の慰謝料の支払を内容とする示談を成立させた事例(被害者代理人)。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
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