中国の出国制限(辺控)で帰国できないとき 日本での在留と送還の実務
2026/08/13
中国の出入国管理法は、刑罰の執行が終わっていない者、刑事事件の被告人や被疑者、裁判所が出国を認めないと決定した民事事件の当事者などについて、出国を認めない旨を定めています。実務では辺控と呼ばれる措置により、空港で出国を止められる、あるいは在外公館での手続が進まないという形で表れます。日本に在留する方にとっては、帰国できないという私的な不都合にとどまらず、退去強制手続における送還可能性や、在留特別許可の判断にも関わる問題です。本稿では制度の概要と、日本側の手続でこれをどう位置付けるかを整理します。
本記事の要点
- 中国の出入国管理法は、服役中の者や刑事事件の被疑者・被告人、裁判所が出国を認めない民事事件の当事者などの出国を制限しています。
- 辺控は本人に事前告知されないことが多く、空港で初めて判明する例が少なくありません。
- 本国が受け入れないと退去強制令書の執行が事実上できず、監理措置や仮放免による社会内での処遇が問題となります。
- 帰国できない事情は、入管法50条の在留特別許可の判断において考慮を求めるべき事情になり得ます。
辺控とはどのような措置ですか
中国の出入国管理法に基づき、特定の者の出国を認めない取扱いを国境管理の現場に反映させる措置です。同法は、有効な出入国証件を持たない者、刑罰の執行が終わっていない者又は刑事事件の被告人・被疑者である者、裁判所が出国を認めない旨を決定した未了の民事事件の当事者、国境管理を妨害する行為により処罰を受けた者などを、出国させない対象として定めています。実務上は公安機関等の要請により手配が登録され、本人には事前に通知されないことが多いため、空港のカウンターで初めて知るという事態が生じます。刑事事件の被疑者として登録されている場合は、事件が終結し、又は措置が解除されない限り、在外公館での手続にも影響が及ぶことがあります。
帰国できないことは日本の在留手続にどう関わりますか
退去強制手続では送還可能性という形で正面から問題になります。退去強制令書が発付されても、本国が渡航文書を発給せず受け入れない場合、送還は事実上実施できません。この場合、収容を続けることの当否が問題となり、令和5年改正で導入された監理措置(入管法44条の2以下)や、従前からの仮放免による社会内での処遇が検討されることになります。監理措置では監理人が選任され、届出義務等の条件が付されますので、要件を満たす監理人候補を早期に確保することが実務上の鍵になります。単に帰れないと述べるだけでは足りず、本国の措置の存在を示す資料や、在外公館とのやり取りの経過を記録として残しておくことが必要です。
在留特別許可の主張材料になりますか
考慮を求めるべき事情の一つになります。入管法50条は、退去強制事由に該当する場合であっても在留を特別に許可することができる旨を定め、同条の考慮事情には、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、人道的な配慮の必要性などが挙げられています。本国が出国も帰国も認めない状態に置かれ、送還が現実には見込めないという事情は、退去強制を維持することの実際上の意味を問う材料になります。もっとも、これのみで許可に至る性質のものではありませんから、日本での生活実態、家族の状況、就労や納税の履行状況といった積極事情を、資料に基づいて具体的に積み上げることが不可欠です。
刑事事件の局面ではどこに注意すべきですか
日本で刑事処分を受けないことが、この類型では特に重要になります。本国に帰れない方が退去強制事由に該当すると、送還されないまま在留資格を失い、不安定な地位が長期化するという最も苦しい状態に陥りやすいからです。別表第一の在留資格の方は、窃盗や詐欺、傷害等で拘禁刑に処せられれば執行猶予でも入管法24条4号の2に該当し得ますので、起訴前の段階から不起訴処分を目標に据えます。取調べでは、本国での事件の存在を尋ねられることがありますが、その説明が中国側の手続に波及する可能性も踏まえ、何をどこまで話すかは弁護人と相談して決めてください。
よくあるご質問
辺控がかかっているか事前に調べられますか
本人が直接照会する制度は限られており、確実に確認する方法はありません。実務では、在外公館での旅券手続の可否や、親族を通じた現地代理人への照会によって推測することが多いです。出国予定がある場合は、早めに確認の手立てを検討し、出国できない事態に備えて日本での在留資格を維持しておくことが実務的な備えになります。
帰国できない場合、収容はいつまで続きますか
一律の期限はありませんが、送還の見込みがない状態での収容には批判があり、監理措置や仮放免による社会内処遇が検討されます。監理人候補や住居、生活の見通しを示す資料を早期に準備することが、判断を動かすうえで有効です。収容が長期に及ぶ場合は、健康状態に関する資料も併せて提出してください。
中国のパスポートが失効したら在留手続はどうなりますか
在留期間の更新等では旅券の提示が求められるため、失効は手続上の支障になります。在外公館での再発給が進まない事情を疎明し、入管に経過を説明することが必要です。旅券の失効によって在留カードが直ちに無効となるわけではありませんが、更新の期限は待ってくれませんので、失効前から準備を始めてください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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