在留特別許可を求める主張はどう組み立てるか|入管法50条5項の考慮事情に沿った構成
2026/08/13
退去強制事由に該当すると判断された場合でも、在留特別許可が認められれば、日本での生活を続けられる可能性があります。令和5年改正入管法により、在留特別許可の申請手続が整備され、考慮すべき事情が法律に明示されました。もっとも、条文に列挙された事情を並べるだけでは足りず、事案の具体的な事実に落とし込んで主張しなければ説得力を持ちません。本稿では、入管法50条5項が定める考慮事情に沿って、どのような事実をどのように主張し、どの資料で裏づけるべきかを、実務の順序に従って整理します。
本記事の要点
- 入管法50条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、法的地位、退去強制の理由、人道上の配慮などを考慮事情として定めています。
- 考慮事情ごとに、抽象的な事情ではなく、日付・期間・金額を伴う具体的事実で主張することが要点です。
- 同種の事情について過去に許可された事例があるにもかかわらず異なる取扱いをすることは、平等取扱いの観点から問題となり得ます。
- 拘禁刑1年超の実刑等の類型についても、特別の事情があると認められる場合には許可の余地が残されています。
在留特別許可はどのような手続で判断されますか
退去強制手続の中で、異議の申出に対する判断の場面などにおいて検討されます。入管法50条は、法務大臣が異議の申出に理由がないと認める場合であっても、在留を特別に許可することができる旨を定めており、令和5年改正により、申請の手続と考慮事情が整理されました。判断は個別具体的な事情の総合考慮によりますので、形式的に要件を満たせば許可されるという構造ではありません。したがって、主張の側では、なぜこの方について特別の配慮が必要なのかを、他の事案と区別できる具体的事実によって示す必要があります。書面の構成としては、考慮事情ごとに節を分け、それぞれに対応する資料を明示して、判断者が確認しやすい形に整えることが有効です。
家族関係はどのように主張しますか
同居の実態と、退去による具体的な影響を示すことが中心になります。婚姻届や戸籍の記載といった形式だけでなく、同居の期間、生活費の負担、日常の家事や育児の分担、家族の健康状態と介護の必要性といった実質を、時系列に沿って述べます。お子さんがいる場合には、生年月日、在籍する学校、使用言語、日本での就学期間を具体的に示し、本国に移った場合に教育をどのように継続するのかという困難を、抽象論ではなく具体的に説明します。日本語しか話せないお子さんが本国の学校に編入する場合の負担は、学齢や滞在期間によって全く異なりますので、個別の事情に即して述べる必要があります。ご家族の陳述書は、形式的な文面ではなく、日常の具体的な場面を書いていただくほうが説得力があります。
素行や反省をどう位置づけますか
退去強制の理由となった行為と、その後の是正の努力を、正面から述べることが必要です。事実を小さく見せようとする主張は、かえって信用を損ないます。むしろ、被害者への弁償の状況、謝罪の経緯、再犯防止のために具体的にどのような環境を整えたのかを、資料とともに示します。納税や社会保険料の納付状況、これまでの在留状況における違反の有無も、素行に関する重要な要素です。過去に納付の遅れがあった場合は、その後の完納を示す資料を添えて、現在の状況を明らかにします。なお、退去強制事由の判断に故意や過失を要するかについては入管実務上争いがあり、当事務所も責任主義の射程を問う訴訟に取り組んでいます。事案によっては、この論点を主張に組み込むことも検討します。
同種事例との均衡はどう主張しますか
公表されている事例と本件の事情を対照し、取扱いの一貫性を求める形で主張します。出入国在留管理庁は、在留特別許可に関するガイドラインと事例集を公表しており、許可された事例と許可されなかった事例の概要が示されています。これらは個人情報の関係で抽象化されていますので、完全な一致を求めるのではなく、違反の態様、在留期間、家族構成、発覚の経緯、素行といった本質的な要素の類似性で対照します。同種の事情について許可された実績があるにもかかわらず、本件についてのみ異なる取扱いをするのであれば、その理由が合理的に説明される必要があります。もっとも、事例の抽象性には限界がありますので、断定的な結論を述べるのではなく、対照の視点を丁寧に提示する構成が適切です。
よくあるご質問
前科があると在留特別許可は不可能ですか
不可能ではありません。刑の内容と時期、その後の生活状況、家族関係、被害回復の状況などが総合的に考慮されます。改正法では、重い刑に処せられた類型についても、特別の事情がある場合の許可の余地が示されています。
日本人配偶者と別居している場合はどうなりますか
別居の理由が重要です。単身赴任や介護、就労の事情による別居であれば、婚姻の実質が失われたとは限りません。連絡の頻度、生活費の送金、往来の記録などを示し、実質的な婚姻関係の継続を具体的に主張します。
許可されなかった場合、争う方法はありますか
退去強制令書の発付処分等について、行政訴訟による取消しを求める方法があります。あわせて、送還を停止するための手続も検討します。出訴期間の制限がありますので、結論を受け取ったら速やかにご相談ください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
- 不法就労助長罪に問われて退去強制の危機にある依頼者について、「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた入管実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を係属中の事例。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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