GPS・位置情報から共謀を推認されたとき|通信記録と共謀共同正犯の争い方
2026/08/13
特殊詐欺や組織的窃盗の事案では、携帯電話の位置情報や基地局の記録、地図アプリの履歴が、共謀の存在を示す証拠として提出されることがあります。同じ時間帯に近接した場所にいた、指定された地点を訪れていたといった事実から、意思の連絡があったと推認する構成です。しかし、位置情報が示すのは端末の所在であって、人の内心ではありません。本稿では、位置情報の取得方法と証拠上の限界、共謀共同正犯の認定における位置情報の位置づけ、そして在留資格への波及を整理します。
本記事の要点
- 位置情報には、GPS測位、基地局記録、Wi‑Fi接続履歴、アプリの利用履歴など性質の異なる複数の種類があり、精度も意味も異なります。
- 捜査機関によるGPS端末を用いた継続的な位置把握については、最高裁大法廷平成29年3月15日判決が令状主義との関係を判示しています。
- 共謀共同正犯の成立には意思の連絡と正犯意思が必要で、単なる近接や同行から直ちに共謀を認めることはできません。
- 共謀が認められれば全体の被害額について責任を問われ、量刑が重くなり、在留資格への影響も一段と深刻になります。
位置情報はどのように取得され、どこまで正確ですか
取得方法によって精度が大きく異なり、この違いを踏まえずに議論することはできません。衛星測位による座標は比較的精度が高い一方、屋内や高層建築物の間では大きな誤差が生じます。携帯電話の基地局記録は、どの基地局と交信したかを示すにとどまり、市街地でも数百メートル、地域によってはそれ以上の範囲を示すにすぎません。Wi‑Fi接続履歴やアプリの利用履歴は、端末の設定や通信状況に左右されます。したがって、捜査報告書が地図上に点を打って移動経路を描いていても、その点の意味は一様ではありません。弁護人は、まず記録の種類と取得元を特定し、誤差の程度に関する資料の開示を求めます。誤差の幅が数百メートルに及ぶのであれば、指定場所を訪れたという主張の前提が崩れることがあります。
同じ場所にいたことから共謀を認めてよいのですか
近接という客観的事実だけでは、共謀の認定に足りません。共謀共同正犯が成立するには、犯罪の実現に向けた意思の連絡と、自己の犯罪として実現しようとする意思が必要とされます。位置情報が示すのは端末の所在であって、当事者間にどのような話がされたかを直接示すものではありません。都心の駅前や商業施設のように多数の人が集まる場所では、近接それ自体の証明力は乏しくなります。弁護人は、位置情報から共謀を導く推認の過程を段階に分解し、各段階に他の説明可能性があることを示します。たとえば、単に同じ路線を使っていた、アルバイトの集合場所が偶然近かった、といった具体的な代替説明を裏づける資料を集めることが有効です。抽象的な否認ではなく、代替説明の提示が鍵になります。
捜査機関のGPS捜査には制約がありますか
あります。最高裁大法廷平成29年3月15日判決は、車両に無断でGPS端末を装着して位置情報を継続的に把握する捜査について、個人の意思を制圧して私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ許されない強制の処分に当たると判示しました。同判決は、現行の令状によることにも問題があるとして、立法的措置が望ましい旨にも言及しています。この判示は捜査機関が端末を取り付ける場面に関するものですが、位置情報という情報の要保護性を正面から認めた点で重要です。実務では、通信事業者の記録の取得や、端末の解析による履歴の抽出が問題になります。弁護人は、取得の根拠となった令状の範囲と、解析の対象範囲が令状の記載を超えていないかを確認し、逸脱があれば証拠能力を争うことになります。
共謀が認められると在留はどうなりますか
責任の範囲が拡がり、在留への影響も重くなります。共謀共同正犯として全体の被害額について責任を問われれば、量刑は当然に重くなり、実刑となる可能性が高まります。1年を超える拘禁刑の実刑となれば、入管法24条4号リにより退去強制事由に該当します。全部執行猶予が付いた場合は同号からは外れますが、別表第一の在留資格の方が詐欺や窃盗で拘禁刑に処せられれば、執行猶予でも同法24条4号の2により退去強制事由となります。別表第二の永住者・定住者・日本人の配偶者等には同号の適用がありません。位置情報という間接証拠のみで共謀が構成されている事案では、起訴前に推認の弱さを検察官に示し、不起訴処分を得る余地が残されています。初動での説明の仕方が結果を左右します。
よくあるご質問
スマートフォンのロックを解除するよう求められたら応じるべきですか
応じる義務があるかは場面によって異なりますので、まず弁護人にご相談ください。任意の協力として求められている場合と、令状に基づく差押えの場合とでは対応が異なります。その場で判断せず、対応を保留する旨を述べることも選択肢です。
地図アプリの履歴を自分で消したらどうなりますか
証拠隠滅と評価されるおそれがあり、勾留や保釈の判断にも不利に働きます。かえって不利な推認を招きますので、消去は避けてください。有利な履歴が含まれていることもありますので、まず弁護人に状況を伝えてください。
位置情報だけで起訴されることはありますか
位置情報単独で起訴される例は多くなく、通常は共犯者の供述、防犯カメラ、送金記録などと組み合わされます。したがって、位置情報の限界を指摘するとともに、他の証拠との結び付きを個別に切り離す主張が必要になります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
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