裁判での通訳と供述の食い違い|調書の信用性を争う方法と在留への影響
2026/08/13
中国籍の方の刑事事件では、取調べ段階の通訳を介して作成された供述調書と、法廷でのご本人の説明が食い違うことがしばしばあります。方言や専門用語の訳し方、質問の趣旨の伝わり方によって、意図しない内容が調書に残ってしまうためです。調書の内容は量刑だけでなく、事実の成否そのものを左右し、判決の内容次第では在留資格にも直結します。本稿では、通訳を介した供述がどのように記録されるのか、食い違いが生じたときにどう争うのか、そして在留を守る観点から初動で何をすべきかを整理します。
本記事の要点
- 取調べの供述調書は日本語で作成され、通訳人が読み聞かせて署名押印を求める運用のため、訳の精度が調書の内容を決めます。
- 法廷で調書と異なる供述をした場合、検察官は刑事訴訟法322条や328条により調書の取調べを求めてくることがあります。
- 普通話以外の方言を話される方については、通訳人の言語適合性そのものが争点になり得ます。
- 供述内容は故意や共謀の認定に直結し、詐欺・窃盗等で拘禁刑となれば別表第一の在留資格の方は入管法24条4号の2に該当します。
取調べの供述調書はどのように作られますか
調書は日本語で作成され、通訳人が中国語に訳して読み聞かせ、内容に間違いがなければ署名と指印を求める、という手順で作られます。ここで注意すべきは、調書が発言の逐語録ではなく、取調官が要約し文章にしたものである点です。日本語の法律用語には、中国語に一対一で対応しない語が多く、たとえば故意と過失、共謀、認識といった概念は、訳し方によって受け取り方が変わります。ご本人が知っていたという趣旨で答えたつもりが、はじめから承知していたという記載になれば、故意や共謀の認定に直結します。したがって、読み聞かせの際に少しでも違和感があれば、その場で訂正を申し立てることが重要です。訂正の申立ては調書に記載されるため、後の争いにおいて有力な手がかりになります。
法廷で調書と違う説明をするとどうなりますか
調書が証拠として法廷に出てくる可能性が高まります。被告人の供述調書は、刑事訴訟法322条1項により、不利益な事実の承認を内容とするものなどについて、任意性が認められる限り証拠とすることができます。また、公判での供述の信用性を争う目的で、328条により弾劾証拠として用いられることもあります。したがって、法廷で説明を変えるだけでは足りず、なぜ調書の記載と異なるのかを合理的に説明できなければなりません。弁護人は、取調べ時の通訳人の資格や経験、通訳の方式、取調べの時間と休憩の有無、読み聞かせの実際の様子といった作成過程を具体的に立証し、任意性や信用性を争います。録音録画が実施されている事件では、その記録の開示を求めることが決定的な意味を持ちます。
通訳人の適格性を争うことはできますか
できます。刑事訴訟法175条は、国語に通じない者に陳述させる場合に通訳人に通訳させると定めており、通訳人には正確に訳す職責があります。もっとも、通訳人の資格は国家資格として一元的に定められているわけではありません。そこで、福建語や上海語、東北方言など普通話と隔たりのある言語を日常的に用いる方については、通訳人がその言語に対応できるかが実質的な争点になります。弁護人は、通訳人の使用言語と経歴を明らかにするよう求め、必要に応じて別の通訳人による録音録画の検証や、翻訳の是非についての意見を提出します。公判の途中で通訳の交代を求めることも制度上は可能です。争点となる語が限られている場合は、その語に絞って正確な訳語を示すほうが、裁判所に伝わりやすいことが多いといえます。
供述の食い違いは在留にどう影響しますか
調書の内容次第で、在留の帰趨が変わります。たとえば、荷物の中身を知らずに運んだのか、知りながら運んだのかという一点で、無罪となるか有罪となるかが分かれます。薬物に関する事犯であれば、執行猶予が付いても入管法24条4号チにより退去強制事由に該当し、上陸拒否も期間の定めなく及びます。詐欺・窃盗・傷害・住居侵入・偽造等であれば、別表第一の在留資格の方は執行猶予付きでも同法24条4号の2に該当します。他方、永住者・定住者・日本人の配偶者等の別表第二の在留資格には同号の適用がありません。なお、退去強制事由の判断に故意や過失を要するかについては入管実務上争いがあり、当事務所も責任主義の射程を問う訴訟に取り組んでいます。だからこそ、初動では中国語に確実に対応できる弁護人を選任し、通訳の質を含めて取調べに臨むことが重要です。
よくあるご質問
調書に署名してしまいましたが、後から争えますか
争えます。署名があっても、任意性や信用性は別途審理の対象です。読み聞かせの状況、通訳の正確性、取調べの長さなどを具体的に主張し、録音録画があればその開示を求めます。署名の一事で結論が決まるわけではありません。
取調べに知人を通訳として連れて行けますか
取調べの通訳人は捜査機関が手配するため、私的な同行は原則として認められません。ご家族や知人が事件関係者である場合はなおさらです。弁護人接見の際に中国語対応の体制を確保し、伝えたい内容を事前に整理しておくことが現実的です。
法廷での通訳が不正確だと感じたらどうすればよいですか
その場で弁護人に伝えてください。弁護人が裁判所に指摘し、確認や訳し直し、場合によっては通訳人の交代を求めます。後日の主張よりも、その場での指摘のほうが記録に残り、後の争点整理においても有効に機能します。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
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- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠の分析と被告人質問・反対尋問を尽くし、無罪判決を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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