被害者が多数いる事件の被害弁償|配分と優先順位の実務、在留への影響
2026/08/13
投資詐欺や特殊詐欺の受け子など、被害者が数十人に及ぶ事件では、全員に全額を弁償することは現実にはほとんど不可能です。それでも、限られた資力をどのように配分し、どの被害者から交渉を始めるかによって、処分と量刑は大きく変わります。また、弁償の実績は、後の入管手続における在留特別許可の判断でも、更生の意思を示す資料として意味をもちます。ここでは、多数被害者事案における弁償の進め方と、避けるべき対応を具体的に説明します。
本記事の要点
- 被害者の連絡先は検察官を通じて弁護人限りで開示されるのが通例で、直接接触は避ける。
- 全額弁償が難しい場合でも、一部弁償・分割・供託・贖罪寄付が量刑上考慮される。
- 自らが直接関与した被害と、組織全体の被害総額とを区別して主張する必要がある。
- 詐欺で拘禁刑となれば、別表第一の在留資格者は執行猶予でも入管法24条4号の2に該当し得る。
被害者が多数の場合、誰から弁償すべきですか
起訴された、または起訴が見込まれる事実の被害者を優先します。検察官が公訴事実として選択する被害は、通常、証拠が明確で被害額の大きいものです。これらについて示談または一部弁償が成立すれば、量刑に直接反映されます。次に、被害感情が強く、意見陳述や被害者参加が見込まれる方への対応を検討します。配分にあたっては、公平性への配慮も必要で、特定の被害者にのみ突出した支払をすると、他の被害者との交渉が困難になることがあります。弁護人は、資力の総額を明らかにしたうえで、按分による弁償案を提示し、検察官と調整しながら進めるのが実務的な手順です。
組織の被害総額まで責任を負うのですか
自己の関与した範囲を超える被害まで、当然に責任を負うわけではありません。共同正犯として認定されれば、共謀の射程内にある被害について責任を問われますが、いつから関与したか、どの案件に関わったか、指示系統のどこに位置していたかによって、責任範囲は限定され得ます。受け子や出し子として関与した方の場合、自らが受領・出金した金額と、グループ全体の被害総額とは大きく異なることが通例です。この区別を証拠に基づいて主張することは、量刑上も弁償計画上も重要です。関与時期を示す交通系ICカードの記録、通信履歴、勤務先の出勤記録などが、範囲を画する資料となります。
資力が乏しい場合はどうすればよいですか
できる範囲の誠実な対応を、客観的資料で示すことが要点です。全額弁償ができないことをもって、量刑上の考慮が一切されなくなるわけではありません。一部弁償、分割弁済の合意、被害者が受領を拒む場合の供託、被害者の特定が困難な場合の贖罪寄付といった方法があります。また、家族による援助を受ける場合は、その資金の出所を明らかにしておくことが必要です。犯罪収益をそのまま弁償に充てることは、没収・追徴との関係で問題を生じます。加えて、釈放後の就労見込みを示す資料を添えて、将来的な弁済計画を具体的に提出することも、更生可能性の主張として有効です。
弁償は在留手続にも意味がありますか
刑事処分だけでなく、入管の判断においても意味をもちます。詐欺で拘禁刑に処せられた場合、別表第一の在留資格をもつ方は入管法24条4号の2により退去強制の対象となり得ますが、その後の手続では、入管法50条の在留特別許可の可否が判断されます。この判断では、同条5項が定めるとおり、家族関係、素行、在留の状況、人道上の配慮などが総合的に考慮され、被害弁償の状況や反省の具体的な現れは、素行に関する評価の一要素となります。もっとも、弁償の事実があれば許可されるという関係にはありません。まずは不起訴処分を得て、退去強制事由自体の発生を避けることが最も確実です。
よくあるご質問
家族が被害者に直接謝罪に行ってもよいですか
避けてください。被害者の連絡先は弁護人限りで開示されるのが通例であり、直接の接触は被害感情を悪化させ、罪証隠滅を疑われる原因にもなります。謝罪の意思は、弁護人を通じて書面で伝えるのが適切です。被害者の意向は検察官を通じて確認できますので、まず弁護人にご相談ください。
示談ができた被害者の分だけ不起訴になりますか
事案によってはあり得ます。被害額が小さく、関与が限定的な事実については、示談成立を理由に起訴猶予となる例があります。ただし全体として起訴される場合も多く、量刑上の有利な事情として扱われるのが一般的です。示談が成立した事実については、示談書を速やかに検察官へ提出することが重要です。
贖罪寄付はどのように評価されますか
被害者が特定できない、または受領を拒否している場合に、反省の具体的な表れとして考慮され得ます。ただし被害弁償の代替として同等に評価されるわけではないため、まず被害者への弁償の可能性を尽くすことが前提となります。寄付を行う場合は、受領証明書を保管し、判決前に提出できるよう準備してください。
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舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 盗撮被害の事案において、刑事告訴と示談交渉を担当し、300万円の慰謝料の支払を内容とする示談を成立させた事例(被害者代理人)。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
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