マネーロンダリングと認定される基準|知情性の争い方と在留資格への波及
2026/08/13
資金洗浄という言葉は日常的に使われますが、刑事事件で問われるのは、組織的犯罪処罰法や麻薬特例法が定める具体的な構成要件です。他人の依頼で送金を繰り返した、名義を分けて出金した、換金してから現金で手渡したといった行為が、犯罪収益の隠匿や収受にあたるかが争われます。中心的な争点は、その資金が犯罪によって得られたものだと認識していたかという知情性です。ここでは、認定の枠組みと反証の方法、そして薬物由来の場合に在留へ及ぼす特有の効果を説明します。
本記事の要点
- 犯罪収益の取得や処分について事実を仮装し、または隠匿する行為が組織的犯罪処罰法10条の対象となる。
- 情を知って犯罪収益等を収受した場合は同法11条により処罰され得る。
- 知情性は未必の故意で足り、報酬の不自然さや取引の不合理さから推認されやすい。
- 薬物犯罪収益に関する麻薬特例法違反は、入管法24条4号チにより執行猶予でも退去強制事由となる。
どのような行為がマネーロンダリングとされますか
犯罪収益の出所や帰属を分かりにくくする行為が対象になります。組織的犯罪処罰法10条は、犯罪収益等の取得または処分につき事実を仮装し、あるいはこれを隠匿する行為を処罰し、5年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科を定めています。同法11条は、情を知って犯罪収益等を収受した場合を処罰します。実務では、他人名義の口座を経由させる、金額を分割して振り込む、暗号資産や貴金属に交換する、海外へ送金するといった行為が典型として扱われます。薬物取引に由来する資金の場合には、麻薬特例法6条・7条が適用され、より重い枠組みで処理されます。前提となる犯罪の内容が、適用条文と量刑を大きく左右します。
「知らなかった」という主張はどこまで通りますか
知情性は客観的事情からの推認によって認定されるため、主観の説明だけでは足りません。裁判所は、報酬の額と労務の内容が釣り合っているか、送金の理由について合理的な説明を受けていたか、名義や経路を分ける指示があったか、身分証の提示を避ける取扱いがあったか、といった事情を総合します。確定的な認識までは要せず、犯罪収益かもしれないと思いながら受け入れたという未必の故意で足りると解されているため、「詳しく聞かなかった」という説明が、かえって不利に働くこともあります。反証としては、依頼者との契約関係を示す書面、業務の実体、送金理由の説明を受けた記録などを収集し、通常の商取引として合理的であったことを具体的に示すことになります。
初動ではどのような対応が必要ですか
資金の流れを示す資料を、自ら加工せずに保全することが第一です。この類型は、通帳、送金明細、チャット、請求書といった客観資料が事件の骨格を作ります。捜査開始後に記録を削除したり口座を解約したりすると、隠匿行為そのものが新たな嫌疑を招きます。取調べでは、「送金した事実」と「犯罪収益だと分かっていたか」という二つの層を明確に区別して答える必要があり、前者を認めることが後者を認めることにならないよう、供述の整理が求められます。また通訳を介する場面では、「洗钱」という一般的な語感と、日本法の構成要件との違いが誤解を生みやすいため、弁護人を通じて争点を正確に伝えることが重要です。
在留資格にはどのような効果がありますか
前提犯罪が薬物であるか否かで、結論が大きく変わります。薬物犯罪収益に関する麻薬特例法違反で有罪となった場合、入管法24条4号チにより、執行猶予が付いても退去強制事由に該当します。これは在留資格の種類を問わないため、永住者や日本人の配偶者等であっても対象となる点に留意が必要です。他方、組織的犯罪処罰法違反にとどまる場合は24条4号の2の列挙に含まれず、1年を超える実刑であれば24条4号リが問題となります。なお、退去強制事由の判断において故意や過失をどこまで要するかは入管実務上議論があり、当事務所でも責任主義の射程を問う訴訟に取り組んでいますが、結論を予断すべきではありません。
よくあるご質問
頼まれて送金しただけでも罪になりますか
資金が犯罪収益であると認識していれば、組織的犯罪処罰法10条や11条の対象となり得ます。報酬の有無、送金理由の説明、名義を分ける指示の有無などが認識の推認材料となるため、経緯を示す資料の保全が重要です。送金の指示内容が残っている場合は、削除せずに保全しておくことが重要です。
少額を何回かに分けただけでも隠匿になりますか
分割送金は、出所を分かりにくくする典型的な態様として評価されることがあります。もっとも、送金限度額や手数料など合理的な理由があるときは、その説明と裏付け資料を示すことで、隠匿の意図がなかったことを主張できます。分割の理由を裏付ける通帳や手数料の記録は、早い段階で確保しておいてください。
薬物事件の資金だと後から知りました
行為時に認識がなかったのであれば、収受罪や隠匿罪の故意は否定される余地があります。ただし、後に判明した後の資金の扱いが問題となるため、費消や移動をせず、速やかに弁護人へ相談して対応を決めてください。資金の所在を明らかにしたうえで、返還や供託の可否を検討することになります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
- 特殊詐欺の出し子とされた20代の依頼者について、指示役からの欺罔的・威圧的状況と犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得した事例。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
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中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
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