未必の故意をどう争うか|「かもしれない」と思ったことの法的評価と反証の方法
2026/08/13
闇バイト事件で検察官が立証しようとするのは、確定的な認識ではなく、違法な仕事かもしれないと思いながらあえて実行したという未必の故意です。この点が認められれば、詳細を知らなかったとしても詐欺罪や薬物犯罪の故意は肯定されます。他方、単に不注意で気付かなかったにすぎない場合は認識ある過失にとどまり、故意犯は成立しません。両者の境界は微妙であり、報酬額や指示の態様といった間接事実の評価にかかっています。ここでは、未必の故意の枠組みと、間接事実を一つずつ反証する具体的な方法を説明します。
本記事の要点
- 未必の故意は、結果の可能性を認識し、それでも構わないと受け入れた場合に認められます。
- 違法かもしれないと漠然と思っただけで直ちに故意が認められるわけではなく、容認の有無が問われます。
- 高額な報酬、匿名の依頼者、消去機能付きアプリの指定は、故意を推認する典型的な間接事実です。
- 間接事実は個別に反証するのではなく、当時の生活状況を含めた全体像として説明する必要があります。
未必の故意とは何ですか
未必の故意とは、犯罪事実が生じる可能性を認識しながら、それでもよいとして行為に及ぶ心理状態を指します。確定的に知っていた場合だけでなく、可能性の認識と容認があれば故意として扱われる点に特徴があります。これに対し、可能性は認識していたが生じないと信じていた場合は認識ある過失であり、故意犯は成立しません。闇バイト事件では、依頼内容の異常性から可能性の認識は認められやすい一方、容認の有無は評価の幅があります。したがって、防御の焦点は、当時の当事者が状況をどう理解し、なぜ危険を回避しなかったのかという説明の合理性に置かれます。抽象的に否定するのではなく、判断過程を具体的に語ることが必要です。
どのような事情から故意が推認されるのですか
実務で重視されるのは、作業内容に比して不自然に高額な報酬、依頼者の氏名や事業所の実体が不明であること、履歴が消えるアプリの使用指定、身分証や家族情報の提出要求、受渡し場所や時間の頻繁な変更、日中に人目を避ける行動の指示といった事情です。これらが複数重なると、通常人であれば違法性を疑うはずだという評価に傾きます。したがって、反証は個々の事情を打ち消す形で行います。たとえば、提示された報酬が日本の相場感として突出していたのか、当時の生活状況からその金額をどう受け止めたのか、来日直後で相場を知らなかった事情はないか、といった具体的な検討です。生活実態に即した説明が、抽象的な否認よりはるかに有効です。
言語や文化の違いは考慮されますか
結論として、事情によっては考慮されます。日本語での求人表現の含意、日本における賃金相場、宅配や集金の一般的な業務慣行についての理解は、在留期間や職歴によって差があります。来日間もない方が、中国語で書かれた勧誘文だけを見て応募した場合、そこに示された条件の異常性をどこまで認識できたかは、日本での就労経験がある方と同列に論じられません。もっとも、これは責任を免れる万能の主張ではありません。母国においても同種の手口が広く報道されている事情があれば、その点も検討されます。したがって、来日時期、職歴、日本語能力、情報接触の状況を客観資料で示し、認識の前提となる知識の有無を具体的に立証することが求められます。
故意が否定された場合、在留はどうなりますか
故意が否定されて不起訴となれば、詐欺や窃盗による退去強制事由には該当しません。別表第一の在留資格をお持ちの方にとって、これは在留を維持できるかどうかの分岐点となります。もっとも、刑事処分が不起訴であっても、逮捕勾留により在籍先を失っていれば、在留資格取消(入管法22条の4)の検討対象となる可能性が残ります。したがって、身柄解放と並行して、学校や勤務先との関係を維持する努力が必要です。なお、退去強制事由の判断において故意や過失をどこまで要するかについては入管実務上争いがあり、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を係属させています。刑事で故意が否定された事実を、入管手続でどう主張するかは重要な論点です。
よくあるご質問
怪しいとは思ったが確認しなかった場合はどうなりますか。
疑いを抱きながら確認を避けた経緯は、容認があったと評価されやすい事情です。もっとも、確認できない状況にあったのか、確認を試みたが説明を受けられなかったのかによって評価は変わります。当時の具体的なやり取りの再現が重要です。確認を避けるよう指示されていた場合には、その指示自体を主張の柱にできます。
報酬が高いというだけで故意が認められますか。
報酬額は有力な間接事実ですが、それ単独で故意が認定されるわけではありません。作業内容との均衡、当時の相場に関する知識、他の不自然な事情の有無が総合されます。相場を知らなかった事情は具体的に説明する価値があります。同時期に応募した他の求人の条件を示せれば、比較のための資料として有用です。
途中で気付いてやめた場合はどうなりますか。
気付いた後に中止したのであれば、それ以降の行為について故意が問題とならず、共謀からの離脱が認められる余地もあります。中止の時期と方法、組織への連絡状況を客観資料で示すことが重要です。中止後に報酬を受け取っていないこと、以後の連絡に応じていないことも示してください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
- 特殊詐欺の出し子とされた20代の依頼者について、指示役からの欺罔的・威圧的状況と犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得した事例。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
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