報酬を受け取っていない場合の刑事責任|無償でも犯罪は成立しますが情状になります
2026/08/13
特殊詐欺や闇バイトの事案で、まだ報酬を受け取る前に逮捕された、あるいは約束された金額が支払われないまま終わったというご相談が多くあります。結論から申し上げると、報酬の有無は犯罪の成否そのものを左右しません。詐欺罪(刑法246条)も窃盗罪(同235条)も、利益を得たかどうかを成立要件としていないためです。他方で、報酬の有無と金額は、関与の程度、組織内での位置付け、そして犯罪収益等収受罪(組織的犯罪処罰法11条)の成否に影響します。ここでは、報酬をめぐる事実が実務上どう評価されるかを整理します。
本記事の要点
- 報酬を受け取っていなくても、詐欺罪や窃盗罪の成立自体は否定されません。
- 報酬の不受領は、関与の程度と利得の有無を示す情状として、起訴・不起訴の判断に影響します。
- 犯罪収益であることを知って受け取れば、犯罪収益等収受罪(組織的犯罪処罰法11条)が別途成立し得ます。
- 報酬を受け取っていない場合でも、被害弁償の要否と資金の準備は別問題として検討が必要です。
報酬がなければ罪にならないのではないですか
結論として、報酬の有無は犯罪の成否と直結しません。詐欺罪は他人を欺いて財物を交付させることで成立し、行為者自身が利益を得たかどうかは要件ではありません。共犯者の一人として実行を分担していれば、自らの取り分がなくても正犯としての責任を負います。窃盗罪も同様で、取得した財物が組織に渡り、自分は何も受け取っていない場合でも成立します。したがって、「まだお金をもらっていないので犯罪ではない」という理解は誤りです。もっとも、この事実がまったく無意味というわけではなく、後述のとおり、関与の実態と利得の有無を示す情状として、処分の判断に確実に影響します。
報酬がないことは有利な事情になりますか
有利な事情として主張できます。検察官は、組織内での位置付けを判断するにあたり、誰がどれだけの利益を得たかを重視します。報酬を得ていないこと、あるいは約束額が支払われず騙された立場にあることは、末端で使い捨てにされた実態を示す事情です。特に、身分証の写真を送らされ、脅されて継続を強いられていた場合には、その経緯も併せて主張すべきです。ただし、報酬がないことのみを強調すると、責任の否定を図っていると受け取られかねません。被害弁償や再発防止の姿勢と併せて示すことで、初めて情状として機能します。無報酬であった事実は、送金記録や勤務実態の資料で裏付けることが望まれます。
報酬を受け取った場合は別の罪になりますか
詐欺による収益であることを知りながら受け取れば、犯罪収益等収受罪(組織的犯罪処罰法11条)が成立し得ます。同罪の法定刑は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金であり、詐欺罪とは別罪として扱われます。ただし、その者が犯罪の共犯である場合には、詐欺罪の中で評価されるため、実務上は共犯関係にない受領者が問題となることが多い類型です。たとえば、事情を知りつつ家族名義の口座で受け取った場合や、生活費として受け取っていた家族が問題となることがあります。したがって、報酬の受取方法と受領者の認識は、本人だけでなく周囲の人の刑事責任にも関わる重要な事実です。
在留への影響と、弁償の準備はどう考えますか
報酬の有無にかかわらず、詐欺や窃盗で拘禁刑に処せられれば、別表第一の在留資格をお持ちの方は入管法24条4号の2により、執行猶予でも退去強制事由に該当します。したがって、目指すべきは起訴前の不起訴処分であり、そのためには被害弁償が現実的な鍵となります。ここで、報酬を得ていない方ほど、弁償資金の準備が難題となります。母国のご家族からの援助を受ける場合には、送金の経路と原資を明らかにし、犯罪収益の還流ではないことを示す資料を整えることが必要です。弁償の申出は、金額の多寡だけでなく、誠実な履行計画を伴うかどうかが評価されますので、早期に方針を立てることが重要です。
よくあるご質問
約束された報酬を支払われませんでした。被害者ではないのですか。
組織に裏切られた立場であっても、被害者として扱われるわけではありません。もっとも、末端で利用された実態を示す事情として量刑上考慮されます。やり取りの記録を保全し、報酬未払の経緯を具体的に説明できるよう準備してください。未払を理由に組織へ連絡を続けていた場合、関与の継続と評価されることがあります。
受け取った報酬を返せば不起訴になりますか。
報酬の返還は誠意を示す事情ですが、被害者への弁償とは別問題です。被害回復に充てられるよう、弁護人を通じて適切な方法で返還・弁償を行う必要があります。返還先と方法を誤ると、かえって評価が下がることがあります。返還した事実と金額は、領収の記録を残して客観的に説明できるようにしてください。
家族が私名義の口座で報酬を受け取っていました。
家族が犯罪収益であると知って受け取っていた場合、犯罪収益等収受罪が問題となる可能性があります。認識の有無が分かれ目となりますので、送金の経緯と使途を確認し、家族についても早めに相談されることをおすすめします。家族と本人で説明が食い違う可能性がある場合は、別々に弁護人を立てる必要があります。
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舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
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- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
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- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
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