関税法違反(密輸)で逮捕されたら|金地金・薬物で異なる処罰と退去強制のリスク
2026/08/13
空港での輸入申告をめぐる摘発は、対象物によって適用条文も在留への影響も大きく変わります。金地金を申告せずに持ち込んだ場合は消費税等のほ脱として関税法110条が、覚醒剤や大麻を隠して持ち込んだ場合は同法109条とあわせて薬物法規が適用されます。中国籍の方の事案では、知人から「荷物を運ぶだけ」と依頼され、中身の認識を欠いたまま税関検査を受けたと説明される例が少なくありません。ここでは、罪名ごとの法定刑の違い、故意の争い方、そして退去強制事由への当てはめの差を、実務に即して整理します。
本記事の要点
- 金地金の無申告輸入は関税法110条のほ脱犯として、薬物の隠匿輸入は同法109条と薬物法規の併合罪として処理され、重さが大きく異なります。
- 薬物事犯は入管法24条4号チに該当し、執行猶予判決であっても退去強制事由となります。
- 薬物関係で退去強制された場合、入管法5条1項の上陸拒否は期間の定めがなく、再入国は極めて困難になります。
- 「中身を知らなかった」との弁解は、報酬額、渡航経路、荷物の授受状況といった間接事実の検討抜きには通りません。
密輸といっても罪名はどう違うのですか
対象貨物によって適用条文が分かれます。覚醒剤・大麻・コカイン等の輸入は、関税法109条(輸入してはならない貨物の輸入)に加え、覚醒剤取締法や大麻取締法の輸入罪が成立し、法定刑は極めて重いものとなります。他方、金地金を申告せずに持ち込む行為は、関税法110条のほ脱犯として、消費税相当額を免れた点が処罰対象です。さらに、単純な無許可輸入は同法111条で処理されます。いずれも未遂が処罰され、税関検査で発見された時点でも罪責を免れません。また、貨物の価格や重量は量刑を左右する中心的要素ですので、鑑定書や分析結果の内容を早期に確認し、数量の前提が正しいかを検証することが重要です。
「中身を知らなかった」と言えば無罪になりますか
結論として、認識の欠如は有力な主張になり得ますが、それだけで無罪となるものではありません。捜査機関は、渡航費用の負担者、報酬の金額と支払方法、依頼者との関係の希薄さ、荷物の受渡しの不自然さ、渡航の短さといった間接事実を積み上げ、少なくとも違法薬物かもしれないという未必の故意を立証しようとします。したがって弁護活動では、依頼された経緯を時系列で具体的に固め、通信履歴や送金記録によって説明の裏付けを取ることが必要です。取調べの初期に曖昧な供述を残すと、後の弁解が変遷と評価されます。通訳人を介した取調べでは、微妙な表現の差が調書に反映されにくいため、署名前の読み聞かせの段階で異議を述べる姿勢が求められます。
起訴されると在留資格はどうなりますか
薬物事犯であるか否かで結論が分かれます。覚醒剤・大麻等の輸入で有罪となれば、入管法24条4号チにより、執行猶予付き判決であっても退去強制事由に該当します。この場合、退去強制されると入管法5条1項の規定により上陸拒否に期間の定めがなく、将来の再入国は事実上閉ざされます。これに対し、金地金のほ脱事案は特別法犯であり、24条4号の2が列挙する刑法各章の罪には当たりません。したがって、1年を超える実刑でなければ4号リにも該当しない可能性がありますが、在留期間更新の素行要件では明確に不利に働き、経営・管理などの在留資格では活動の適法性そのものが問われます。罪名の選択は在留の帰趨に直結します。
初動で何をすべきですか
税関検査の現場で任意の事情聴取を受けた段階から、供述の在り方を慎重に決める必要があります。特に薬物事案では、自らの認識に関する説明は、後日の公判で最も精密に検討される証拠となります。記憶が不確かな部分について推測を交えて述べることは避け、まずは弁護人と方針を協議したうえで説明する順序が安全です。また、中国語通訳の質は事案の帰趨を左右します。地名や方言表現、送金アプリの操作に関する用語は誤訳が生じやすく、依頼内容の理解度を左右します。逮捕後は速やかに接見を求め、押収された携帯端末の解析範囲や、共犯とされる人物との関係の説明方法を整理しておくことが有効です。
よくあるご質問
金地金の密輸で罰金になれば在留は維持できますか。
罰金であれば拘禁刑を前提とする退去強制事由には直ちに当たりませんが、在留期間更新の審査では素行が問題とされます。特に経営・管理や技術・人文知識・国際業務では、事業の適法性への疑義として審査に影響しますので、更新申請の準備を早期に始める必要があります。
薬物の運び屋とされましたが、頼まれただけです。
依頼を受けたにすぎないという事情は量刑で考慮され得ますが、輸入罪の成立自体は否定されません。争点は薬物であることの認識の有無に移ります。依頼の経緯、報酬の相場との乖離、荷物の外観といった具体的事情を早期に整理することが重要です。依頼者との連絡手段や、渡航費を誰が負担したかも、認識を判断する材料になります。
空港で在宅のまま帰されました。もう終わりですか。
在宅で捜査が続いている可能性が高く、後日の呼出しや書類送検が想定されます。手続が進行中でも出国できるとは限らず、在留資格の更新時期と重なると審査が保留されることもあります。捜査状況の確認と並行して入管対応を検討してください。押収された物の鑑定結果と、任意提出に至った経緯も確認しておく必要があります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
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- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠の分析と被告人質問・反対尋問を尽くし、無罪判決を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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