侮辱罪で捜査を受けたら|法定刑引上げ後の実務と名誉毀損との違い、在留への影響
2026/08/13
交流サイトへの短い書き込みや、言い争いの中での罵倒が、侮辱罪(刑法231条)として立件されることがあります。令和4年の改正により法定刑が引き上げられ、拘禁刑を選択できるようになったほか、公訴時効も1年から3年に伸長されました。事実を示さない罵倒であっても処罰の対象となる点で、名誉毀損罪とは要件が異なります。本稿では、改正後の法定刑、公然性の判断、名誉毀損罪との区別、そして在留資格への影響を順に整理します。
本記事の要点
- 改正後の侮辱罪の法定刑は、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。
- 公訴時効は1年から3年に伸長されており、過去の投稿が後から立件される可能性があります。
- 事実を摘示しない点で名誉毀損罪と区別され、罵倒や蔑称の書き込みが典型例となります。
- 本罪は親告罪であり、告訴の取消しを伴う示談が処分を左右します。
改正で何が変わりましたか
変更点は法定刑と公訴時効です。従前の侮辱罪の法定刑は拘留または科料のみでしたが、令和4年の刑法改正により、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料と定められました。これに伴い公訴時効も1年から3年に伸長されています。実務上の意味は小さくありません。第1に、法定刑に拘禁刑と罰金が加わったことで、逮捕や勾留といった身体拘束を伴う捜査が制度上可能となりました。第2に、時効が3年となったことで、数年前の投稿について被害者が資料を整えて告訴する例が現実に生じています。第3に、発信者情報開示の手続と組み合わせることで、匿名の投稿者が特定される事案が増えています。短い一言だから問題にならないという理解は、改正後の実務には当てはまりません。
名誉毀損罪とはどこが違いますか
違いは、具体的な事実を示したかどうかにあります。名誉毀損罪(刑法230条1項)は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損する場合であり、証拠によって真偽を判断し得る具体的事柄の指摘を要します。これに対し侮辱罪(同法231条)は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立します。したがって、能力や容姿を貶める抽象的な罵倒、蔑称の反復、人格を否定する表現が典型となります。両者に共通するのは公然性の要件であり、不特定または多数の者が認識し得る状態が必要です。なお、名誉毀損罪には公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)がありますが、事実の摘示を前提としない侮辱罪では、この特例が直接に働く場面は限られます。表現の目的や文脈は、起訴の要否や量刑の判断において考慮されます。
在留資格への影響と、外国人特有の注意点
侮辱罪は刑法第34章の罪であり、入管法24条4号の2が列挙する罪には含まれていません。法定刑の上限も1年以下の拘禁刑ですので、同条4号リが定める1年を超える実刑に至ることは想定しにくく、退去強制事由に直結する類型ではありません。もっとも、在留期間の更新や永住許可の審査では素行が評価されますので、有罪となれば説明を求められます。外国人の方に特有の注意点として、出身国や民族に関わる表現が問題となる事案では、被害感情が強く、示談が難航しやすいことが挙げられます。また、日本語での微妙な語感の違いが評価を分けるため、自らの投稿の意味を弁護人が正確に把握することが不可欠です。翻訳された文面のみで判断されないよう、原文の文脈を丁寧に示す必要があります。
初動対応と、示談を成立させるための工夫
取るべき手順は、投稿の保全、削除、そして告訴取消しを含む示談交渉です。まず、削除の前に投稿の全体と前後の応酬を保全します。相手方からの挑発や先行する投稿がある場合、量刑や起訴の判断で有利に働くことがあるためです。次に、被害の拡大を防ぐために削除と拡散の停止を行います。そのうえで、弁護人を通じて謝罪と賠償を申し入れ、告訴の取消しを求めます。本罪は親告罪ですので、告訴が取り消されれば起訴されません。取調べでは、相手が先に悪口を言ったという説明が、反省の欠如と受け取られることがあります。事実経過の主張と、被害者に与えた影響への向き合い方は、分けて述べることが重要です。供述の順序は弁護人と相談して決めてください。
よくあるご質問
一言書いただけでも逮捕されますか
改正により法定刑に拘禁刑が加わったため、制度上は身体拘束を伴う捜査も可能となりました。実際には、投稿の反復性、被害の程度、身元の確かさ、証拠隠滅や逃亡のおそれによって判断されます。一言であっても、反復や拡散があれば軽微な事案としては扱われません。
何年も前の投稿でも罪に問われますか
改正により公訴時効が3年となりましたので、3年以内の投稿であれば立件され得ます。改正前の行為については従前の時効期間が問題となりますので、投稿の日時を特定することが出発点となります。まずは投稿の記録と日時が分かる資料を保全してご相談ください。
相手も同じように書いていた場合はどうなりますか
双方が侮辱的な投稿をしていた場合には、それぞれについて成否が判断されます。相手方の先行行為や挑発は、起訴するか否かの判断や量刑において考慮され得ます。ただし相互に相殺されるわけではありませんので、やり取りの経過を時系列で記録し、具体的に主張する必要があります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 海外SNS上での侮辱被害について、国際刑事警察機構(インターポール)を経由した捜査により刑事告訴が受理された事例。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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