名誉毀損罪で告訴されたら|成立要件と真実性の抗弁、示談による解決と在留への影響
2026/08/13
交流サイトへの投稿、社内での発言、地域の集まりでの噂話が、名誉毀損罪(刑法230条1項)として告訴されることがあります。摘示した事実が真実であっても原則として成立する点が、この罪の特徴です。他方で本罪は親告罪であり、告訴が取り消されれば起訴されないという構造をもつため、示談による解決の意義がきわめて大きい類型でもあります。本稿では、公然性や事実の摘示の意味、真実性の抗弁の要件、そして在留資格への影響を整理します。
本記事の要点
- 名誉毀損罪の法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金であり、摘示した事実の有無を問わず成立し得ます。
- 公然性は不特定または多数の者が認識し得る状態をいい、限られた相手への発言でも伝播可能性があれば認められます。
- 公共の利害に関する事実を、専ら公益を図る目的で摘示し、真実であることの証明があれば処罰されません(刑法230条の2)。
- 本罪は親告罪であり(同法232条)、告訴が取り消されれば公訴を提起できないため、示談が解決の中心となります。
どのような発言が名誉毀損になりますか
要件は、公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させるおそれのある状態を生じさせたことです。刑法230条1項は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めています。ここでいう公然性は、不特定または多数の者が認識し得る状態を指し、交流サイトの公開投稿はもとより、参加者が限られたグループへの書き込みであっても、そこから伝播する可能性があれば認められます。事実の摘示とは、証拠によって真偽を判断し得る具体的な事柄を示すことをいい、単なる評価や罵倒にとどまる場合は後述の侮辱罪の問題となります。現実に社会的評価が低下したことまでは要件とされていません。
本当のことを書いた場合でも処罰されますか
原則として成立しますが、例外があります。刑法230条の2第1項は、摘示された事実が公共の利害に関する事実であり、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合において、事実が真実であることの証明があったときは罰しないと定めます。三つの要件がそろって初めて処罰が阻却される点に注意が必要です。私生活上の非難や個人的な報復の動機が主であれば、内容が真実でも公益目的が否定されます。また、真実であることの証明が尽くせなかった場合でも、確実な資料や根拠に照らして真実と誤信したことに相当の理由があれば故意が阻却されるとするのが判例の立場です。したがって、投稿の前提となった資料、情報源とのやり取り、確認の経過は、後の弁護活動において決定的な意味をもちます。
在留資格にはどのような影響がありますか
名誉毀損罪は刑法第34章の名誉に対する罪であり、入管法24条4号の2が列挙する罪には含まれていません。したがって、別表第一の在留資格の方が拘禁刑に処せられても、執行猶予が付されている限り、それだけで退去強制事由に当たるわけではありません。1年を超える実刑となれば同条4号リの問題となりますが、本罪でその量刑に至る例は多くありません。むしろ実務上重要なのは、在留期間の更新や在留資格の変更、永住許可の審査における素行の評価です。有罪判決が確定すれば、次回申請時に説明を求められることは避けられません。加えて、勤務先との関係が悪化して退職に至れば、在留資格に対応する活動が失われ、22条の4に基づく在留資格取消しの契機となり得ます。刑事と入管を一体として考える必要があります。
親告罪であることを踏まえた解決の進め方
最優先は、告訴の取消しを伴う示談です。刑法232条により本罪は告訴がなければ公訴を提起することができませんので、告訴が取り消されれば起訴されません。示談では、投稿や発言の撤回と削除、謝罪文の交付、賠償金の支払、再発防止の約束を具体的に定め、告訴取消しの意思を明確にしてもらうことが要点となります。もっとも、被害者が強い処罰感情を持つ段階で本人が直接連絡をとると、かえって関係が悪化し、証拠隠滅や威迫と評価されるおそれがあります。連絡は弁護人を通じて行うべきです。通訳を要する事案では、謝罪の趣旨が正確に伝わるよう、示談書の翻訳にも配慮が必要です。取調べにおける供述の方針も、示談の見通しを踏まえて定めてください。
よくあるご質問
名前を出さずに書けば名誉毀損になりませんか
実名を挙げていなくても、投稿の内容や文脈から特定の人物を指すと読み手が理解できる場合には、被害者の特定性が認められ成立し得ます。所属や役職、写真、過去の投稿との組み合わせによって特定される例も多く、匿名で投稿したからといって責任を免れるわけではありません。
告訴されてから示談してもよいのですか
可能です。本罪は親告罪ですので、起訴前に告訴が取り消されれば公訴を提起することができません。示談の成立が早いほど処分の見通しは良くなりますので、告訴されたことを知った段階で、弁護人を通じて謝罪と賠償の協議を始めることをお勧めします。示談の見通しは、供述の方針にも影響します。
刑事で不起訴になれば損害賠償も不要ですか
別問題です。不起訴は刑事責任を問わないという判断にすぎず、民事上の不法行為に基づく損害賠償請求は別途成立し得ます。示談の際に、刑事処分に関する点と民事上の清算をあわせて合意し、清算条項を設けておくことで、後日の紛争を避けることができます。清算条項の文言は慎重に検討してください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 海外SNS上での侮辱被害について、国際刑事警察機構(インターポール)を経由した捜査により刑事告訴が受理された事例。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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