犯罪収益移転防止法違反(口座売買)で捜査されたら|法定刑と詐欺への発展・在留リスク
2026/08/13
使わなくなった銀行口座を有償で譲り渡す、あるいは他人名義の口座を買い集めるという行為は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)違反として明確に処罰されます。留学や技能実習を終えて帰国する方に声を掛け、通帳とキャッシュカードをまとめて買い取る手口が繰り返されており、その口座が特殊詐欺の受け皿として使われると、詐欺の共犯として捜査が拡大します。本稿では、犯収法の条文と法定刑、詐欺への発展の分かれ目、在留資格への影響を整理します。
本記事の要点
- 他人になりすまして預貯金の役務提供を受ける目的等での通帳・カードの譲受け、交付、提供の受領は、犯収法28条1項により1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金またはその併科の対象です。
- 相手方にその目的があることを知りながら譲り渡す行為も同条2項で同じ刑に問われ、業として行えば同条3項により3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはその併科となります。
- 犯収法違反そのものは入管法24条4号の2の列挙罪ではありませんが、詐欺罪で拘禁刑に処せられれば、執行猶予付きであっても同号に該当します。
- 口座は速やかに凍結され、被害回復分配金の手続が進むため、刑事と民事の双方で同時に対応が必要です。
口座の売買はどの条文で処罰されるのですか
根拠は犯収法28条です。同条1項は、他人になりすまして特定事業者との間の預貯金契約に係る役務の提供を受けることまたはこれを第三者にさせることを目的として、預貯金通帳やキャッシュカードなどの譲受け、交付を受けること、提供を受けることを禁じ、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科としています。同条2項は、相手方にその目的があることを知りながら譲り渡し、交付し、または提供する行為を同じ刑で処罰します。さらに同条3項は、これらを業として行った場合を3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科に引き上げています。買い手だけでなく売り手も処罰対象であること、実際に詐欺に使われたかどうかを問わず成立し得ることが、この罪の特徴です。
詐欺の共犯になるのはどのような場合ですか
分かれ目は、口座が詐欺に使われることの認識と、犯行への関与の程度です。単に不要な口座を売っただけであれば犯収法違反にとどまることが多い一方、口座名義人として振込先を指定させた、引き出しや送金を担当した、複数回にわたり口座を提供して報酬を受け取ったといった事情があれば、詐欺罪(刑法246条)の共同正犯または幇助犯として構成される可能性が高まります。捜査機関は、報酬額、勧誘者とのやり取り、口座開設の時期と態様、入出金の関与状況を積み上げて認識を推認します。ここで重要なのは、詐欺罪は入管法24条4号の2の列挙罪であり、別表第一の在留資格者が拘禁刑に処せられれば執行猶予付きであっても退去強制事由に当たる点です。犯収法違反にとどめられるかどうかは、在留の帰趨を直接左右します。
在留資格と今後の再入国にはどう影響しますか
犯収法違反のみで終わる限り、同法は24条4号の2の列挙罪ではありませんので、執行猶予付きの拘禁刑や罰金であれば直ちに退去強制事由とはなりません。ただし1年を超える実刑であれば同条4号リに該当します。これに対し、詐欺罪で処断された場合は、別表第一の在留資格であれば刑の重さを問わず4号の2に該当し、退去強制手続に進みます。退去強制令書が発付されて送還されると、入管法5条1項9号により上陸拒否期間が生じ、退去強制歴が1回目であれば5年、2回目以降は10年、出国命令による出国であれば1年とされています。なお、永住者や日本人の配偶者等の別表第二の在留資格には4号の2の適用がないため、詐欺で執行猶予付き判決を受けても直ちに退去強制事由とはならず、4号リの成否が問題となります。
初動でしておくべきこと
最優先は、詐欺の共犯としての立件を避け、不起訴処分を得ることです。そのためには、口座を渡した経緯、勧誘の態様、受け取った金額、その後の関与の有無を、記憶が新しいうちに時系列で整理し、メッセージの履歴を保全しておくことが有効です。取調べでは、詐欺に使われると思っていたのではないかという点が集中的に問われます。通訳を介する場合、名義貸し、口座の提供、報酬といった語のニュアンスが変わりやすく、認識を認めたかのような調書が作られる危険がありますので、弁護人が立ち会える環境を早期に整えるべきです。被害者が判明している場合の被害弁償、報酬の返還、口座の解約と再発防止の誓約は、起訴猶予の判断において具体的な考慮要素となります。
よくあるご質問
帰国するので口座を友人に譲るだけでも罪になりますか
有償か無償かにかかわらず、相手方が他人になりすまして口座を利用する目的であることを知りながら譲り渡せば、犯収法28条2項により処罰され得ます。帰国前に不要となった口座は、譲渡ではなく金融機関で解約するのが原則です。既に譲渡してしまった場合は、時間が経つほど口座が悪用される危険が高まりますので、速やかにご相談ください。
詐欺に使われるとは知りませんでした。それでも処罰されますか
詐欺の共犯とされるには詐欺への認識が必要ですが、犯収法28条の成立には、相手方が他人になりすまして口座を使う目的であることの認識で足ります。報酬額や勧誘の内容、渡した口座の数などから認識が推認されることも多いため、勧誘者とのやり取りを保全し、経緯を客観資料とともに示すことが重要です。
口座が凍結されました。解除できますか
振り込め詐欺救済法に基づく凍結は、金融機関と預金保険機構の手続により被害回復分配金の支払へと進みます。無関係であることを疎明できれば、公告期間内の権利行使の届出により争う余地はありますが、刑事手続と並行して進むため、主張の内容は弁護人と一体で決めるべきです。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
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