有印私文書偽造・同行使で立件されたら|成立要件と在留資格の危険
2026/08/13
他人名義の契約書や申請書を作成し、これを相手方に提出する行為は、刑法159条1項の有印私文書偽造罪と、同161条の偽造私文書行使罪にあたります。在留や就労に関する書類、賃貸借契約、金融機関への提出書類などで問題となることが多く、外国籍の方にとっては刑事責任にとどまらず在留資格の帰趨に直結します。本稿では、偽造と作成権限の限界、行使罪との関係、そして文書偽造の罪が入管法上どのように扱われるのかを説明します。
本記事の要点
- 有印私文書偽造罪は刑法159条1項により、3月以上5年以下の拘禁刑と定められています。
- 偽造した文書を相手方に提出すれば、別に偽造私文書行使罪(刑法161条)が成立します。
- 文書偽造の罪は刑法第17章にあり、入管法24条4号の2の列挙対象に含まれています。
- 別表第一の在留資格では、執行猶予付き判決でも退去強制手続に移行する可能性があります。
どのような行為が私文書偽造にあたりますか
作成権限のない者が、他人の署名や押印を用いて権利義務または事実証明に関する文書を作成する行為が偽造です。刑法159条1項の有印私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑であり、下限が定められている点に特徴があります。名義人の承諾があれば原則として偽造にはなりませんが、承諾があっても本人が作成することに意味がある文書、たとえば入学試験の答案や交通反則切符の供述書などでは、なお偽造とされます。また、実在しない人物の名義でも、一般人が実在すると誤信するような文書であれば偽造にあたり得ます。内容が虚偽であるにすぎず名義人と作成者が一致する場合は、私文書については原則として処罰されず、虚偽診断書等の限られた場合のみ罪となります。
偽造した書類を提出するとどうなりますか
偽造罪とは別に、刑法161条の偽造私文書行使罪が成立し、法定刑は偽造罪と同じく3月以上5年以下の拘禁刑です。両罪は通常、牽連犯として一罪として処理されますが、行使の相手方をだまして財物や利益を得れば詐欺罪も成立し得ます。在留手続に関連する書面では、行使の相手方が入管である場合に、入管法上の不正行為として在留資格の取消しや今後の申請への影響も生じます。就労先の在職証明書や納税証明書を偽って作成し更新申請に用いた場合には、偽りその他不正の手段によって許可を受けたとして、入管法22条の4に基づく在留資格の取消しが検討されます。刑事と入管の手続が並行して進む点に注意が必要です。
文書偽造の罪は在留資格にどう影響しますか
入管法24条4号の2は、刑法の文書偽造の罪が置かれた第17章を列挙対象に含んでいます。したがって、別表第一の在留資格をお持ちの方が有印私文書偽造罪や同行使罪で拘禁刑に処せられた場合、執行猶予付きであっても退去強制事由に該当します。留学、技術・人文知識・国際業務、家族滞在などの在留資格の方は、判決の内容にかかわらず在留の継続が困難になる可能性を前提に方針を立てる必要があります。永住者や日本人の配偶者等といった別表第二の在留資格には同号の適用がありませんが、24条4号リや22条の4、更新時の素行要件は別途問題となります。退去強制された場合、入管法5条1項9号により原則5年間は上陸が拒否されます。
起訴前に取るべき対応を教えてください
最優先は不起訴処分の獲得であり、文書の使用によって生じた損害の回復と、名義人および提出先への謝罪を早期に行うことが中心となります。財産的な被害が生じていない事案では、名義人の宥恕が得られれば起訴猶予となる余地があります。有印私文書偽造罪は法定刑の下限が3月と定められており、罰金刑がないため、起訴されれば拘禁刑の判決を避けられない構造である点を踏まえ、処分前の活動に力を注ぐべきです。初動としては、書類の作成経緯について、誰の指示で、どこまで名義人の了解があったのかを、時系列で整理してください。名義人の承諾があったという主張は偽造の成否を左右する重要な争点であり、通訳を介した取調べで曖昧に記録されないよう注意が必要です。
よくあるご質問
名義人の許可を得ていた場合も偽造になりますか
原則として承諾があれば偽造にはなりません。ただし、本人自身が作成することに意味がある文書では、承諾があっても偽造とされます。承諾の有無と範囲は争点になりやすいため、やり取りの記録を保存しておくことが重要です。書面の作成をめぐるメッセージの履歴は、後に承諾の範囲を立証する資料となります。
在留申請に使う書類を偽った場合の影響は
刑事責任に加え、偽りその他不正の手段による許可として入管法22条の4に基づく在留資格の取消しが検討されます。取消しに際しては意見聴取の手続がありますので、事実関係と経緯を整理して主張する機会を活用してください。意見聴取では、経緯と関与の程度を裏づける資料を併せて提出することが有効です。
執行猶予でも帰国しなければなりませんか
別表第一の在留資格では、文書偽造の罪が入管法24条4号の2の対象であるため、執行猶予付きでも退去強制事由に該当します。入管法50条の在留特別許可を求める余地はありますが、家族関係や在留歴の主張立証が不可欠です。収容の回避については、入管法44条の2以下の監理措置の活用を検討します。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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