還付金詐欺で逮捕されたら|詐欺罪の成否と在留資格への影響を解説
2026/08/13
医療費や保険料の還付があると偽り、高齢者にATMを操作させて送金させる還付金詐欺は、刑法246条1項の詐欺罪として立件されます。中国籍の方が電話の掛け手や口座の名義提供者として関与を疑われる例も見られます。本稿では、還付金詐欺の構成要件と法定刑、受け子・出し子として関与した場合の共犯関係、そして有罪判決が在留資格に及ぼす影響を整理し、起訴前の段階で不起訴処分を目指すことがなぜ在留の観点から決定的なのかを説明します。捜査の初期対応を誤ると、後の入管手続で取り返しがつかなくなります。
本記事の要点
- 還付金詐欺は刑法246条1項の詐欺罪にあたり、法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めがありません。
- 被害者がATMを操作して送金した時点で既遂となり、送金に至らなくても未遂罪(刑法250条)が成立します。
- 別表第一の在留資格の方は、詐欺罪で拘禁刑に処せられると執行猶予付きでも入管法24条4号の2の退去強制事由に該当します。
- 在留の維持を考えるなら、執行猶予判決ではなく起訴前の不起訴処分を最優先の目標とすべき類型です。
還付金詐欺はどの罪にあたり、刑はどれくらいですか
還付金詐欺は刑法246条1項の詐欺罪であり、法定刑は10年以下の拘禁刑です。罰金刑の選択肢がないため、有罪となれば実刑か執行猶予付き拘禁刑のいずれかになります。市区町村や年金事務所の職員を装って電話をかけ、還付手続が必要だと誤信させ、ATMの操作を指示して自己の口座に送金させる行為は、欺く行為・錯誤・交付行為・財産上の損害という詐欺罪の要件をすべて満たします。被害者が送金ボタンを押し、金員が指定口座に着金した時点で既遂です。着金前に警察が介入した場合でも、電話をかけた段階で実行の着手が認められれば未遂罪(刑法250条)が成立します。組織的な指揮命令のもとで反復された場合は、組織的犯罪処罰法3条1項13号の組織的詐欺として、1年以上20年以下の拘禁刑という重い法定刑が適用されることもあります。
口座を貸しただけ、現金を引き出しただけでも詐欺になりますか
結論として、詐欺の共同正犯や幇助犯として処罰される可能性が高い類型です。捜査機関は、口座名義人や現金の引出役についても、詐欺の被害金であることを未必的にでも認識していたかを重点的に取り調べます。高額の報酬、身分証の写真送付の要求、指示役との匿名アプリでのやり取りといった事情は、認識を推認させる間接事実として扱われます。日本語に不慣れなために内容を理解しないまま口座を渡したという弁解は、通訳の質が低い取調べでは正確に調書化されず、後に不利に働きます。また、預貯金通帳やキャッシュカードを他人に譲り渡す行為自体が、犯罪収益移転防止法28条2項の罪に問われることもあります。取調べでは、記憶にない事実を認める供述をしないことが何より重要です。
詐欺罪で有罪になると在留資格はどうなりますか
別表第一の在留資格をお持ちの方は、詐欺罪で拘禁刑に処せられると、執行猶予が付いていても入管法24条4号の2の退去強制事由に該当します。技術・人文知識・国際業務、技能実習、留学、家族滞在などが別表第一です。詐欺罪は刑法第2編第37章の罪であるため、同号の対象犯罪に含まれます。他方、永住者・定住者・日本人の配偶者等といった別表第二の在留資格には同号の適用がなく、この場合は1年を超える拘禁刑の実刑を対象とする24条4号リや、在留資格取消しを定める22条の4、更新時の素行要件が問題となります。仮に24条4号の2に該当しても、入管法50条の在留特別許可の余地は残りますが、詐欺という財産犯の性質上、家族関係や在留歴を丁寧に主張立証しなければ許可は容易ではありません。
不起訴処分を目指すために最初に何をすべきですか
最優先すべきは、起訴前の早い段階で弁護人を選任し、被害弁償と示談の交渉に着手することです。還付金詐欺は被害者が特定されており、被害額も明確であるため、全額弁償と宥恕を得られれば、末端の関与者について起訴猶予となる余地があります。執行猶予判決を得ても、別表第一の在留資格では退去強制事由に該当してしまうため、判決で争うのではなく処分前に決着させることが在留維持の鍵になります。初動では、供述の意味を正確に理解できないまま署名しないこと、黙秘権を行使して弁護人と方針を固めてから話すこと、そして中国語の通訳人が法律用語を正確に訳しているかを確認することが重要です。逮捕後72時間は家族も面会できないため、弁護人の接見が唯一の連絡手段になります。
よくあるご質問
被害金を全額返せば必ず不起訴になりますか
必ずとは言えません。被害弁償と示談は極めて重要な事情ですが、組織における役割、関与した回数、前科の有無なども考慮されます。末端で1回限りの関与であれば起訴猶予の可能性が高まる一方、指示役に近い立場では起訴されることが多いのが実情です。被害者が複数に及ぶ事案では、判明した全員との示談を求められることもありますので、資金と時間の見通しを早期に立てておく必要があります。
執行猶予判決なら日本に住み続けられますか
別表第一の在留資格の場合は難しいと考えるべきです。入管法24条4号の2は執行猶予付きの拘禁刑も対象としているため、判決確定後に退去強制手続が始まる可能性があります。別表第二の在留資格であれば同号の適用はありませんが、更新時の素行要件で不利に扱われます。在留の可否を左右する分岐点ですので、判決前に見通しを立てておく必要があります。
内容を知らずに口座を貸した場合も退去強制になりますか
詐欺罪で有罪となり拘禁刑に処せられれば、認識の程度にかかわらず条文上は該当し得ます。退去強制事由の判断における故意や過失の要否は入管実務上争いがあり、当事務所も責任主義の射程を問う訴訟を係属中です。まずは刑事手続で不起訴を得ることが最善の防御です。刑事と入管の双方を見据えた初期方針の確定が欠かせません。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
- 特殊詐欺の出し子とされた20代の依頼者について、指示役からの欺罔的・威圧的状況と犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得した事例。
- 在留資格を失って不法残留で逮捕・起訴された依頼者について、婚姻と認知の手続を実現させたうえで、公的書類がほとんど存在しない状況下でも有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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