任意同行を求められたら|断れるのか、応じる場合の注意点と在留への影響
2026/08/13
警察官から署まで来てほしいと言われる、いわゆる任意同行は、逮捕とは法的性質が全く異なります。任意である以上、応じる義務はなく、途中で帰ることもできるのが建前です。しかし現実には、断りにくい状況が作られ、そのまま長時間の取調べに入り、夜になって逮捕状が出るという流れも珍しくありません。外国籍の方の場合、言葉の壁から状況を正確に把握できないまま、内容を理解しないで書面に署名してしまう危険もあります。この記事では、任意同行の法的な位置づけ、応じるかどうかを判断する視点、応じる場合に守るべき最低限のこと、そして入管の職員から出頭を求められた場合との違いを説明します。
本記事の要点
- 任意同行に応じる法的義務はなく、いつでも退去できるのが原則です(刑事訴訟法198条1項ただし書)。
- 断ること自体が犯罪になることはありませんが、その場の状況によっては逮捕状の請求につながる場合があります。
- 同行に応じる前に、家族に行き先を伝え、弁護人に連絡することが最も実効的な備えです。
- 警察の任意同行と、入管職員による違反調査のための出頭要請は別の手続ですので、混同しないでください。
任意同行は断ることができますか
法的には断ることができます。刑事訴訟法198条1項は、捜査に必要があるときに被疑者の出頭を求めて取り調べることができると定めつつ、そのただし書で、被疑者は、逮捕または勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、または出頭後いつでも退去することができると明記しています。つまり、逮捕されていない段階では、行かない自由も、途中で帰る自由もあります。もっとも、断れば捜査が終わるわけではありません。断ったことをもって逃亡や罪証隠滅のおそれがあると評価され、逮捕状が請求されることもあります。したがって実際の判断は、二者択一ではなく、まず弁護人に連絡し、いつ、どのような形で事情を聴かれるかを調整するという第三の道を探ることになります。その場で即答せず、日を改めて弁護人同行のうえで出頭したいと述べることは、正当な対応です。
応じる場合に最低限守るべきことは何ですか
応じると決めた場合でも、最低限の備えをしてから向かってください。第一に、家族や友人に、どの警察署に、何時に、誰と行くのかを伝えることです。第二に、弁護士に連絡し、取調べが長引いた場合の連絡方法を決めておくことです。第三に、取調べの場では、認識のない事実について、その場の雰囲気で認めないことです。取調べでは、供述を録取した調書への署名押印を求められますが、内容に誤りがあれば増減変更を申し立てることができ、署名押印そのものを拒むこともできます(刑事訴訟法198条3項から5項まで)。とりわけ外国籍の方の場合、通訳を介した調書は、微妙なニュアンスが日本語の定型表現に置き換えられがちです。読み聞かせの際に納得できない部分があれば、その場で明確に指摘してください。
入管から出頭を求められた場合はどう違いますか
警察の任意同行と入管の出頭要請は、根拠となる法律も目的も異なります。入管の職員は、退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときに違反調査を行い、出頭を求めることがあります。この調査の結果、収容令書が発付されて身柄を確保される場合があり、刑事手続の任意同行とは進み方が違います。近年は、収容に代えて監理人の監督のもとで生活する監理措置の制度が入管法44条の2以下に設けられており、身柄の処遇にも選択肢が生まれています。もっとも、いずれの手続でも、事実に反する内容を認めた供述が残ると、後の在留特別許可の判断にまで影響します。刑事と入管のどちらの手続で呼ばれているのかを最初に確認し、両方の見通しを立てられる弁護人に相談してください。
任意同行の段階でも在留への配慮が必要ですか
必要です。任意同行の段階は、まだ何の処分も決まっていない時期であり、この時期の対応が最終的な在留の可否を左右します。仮に事件が起訴され有罪となれば、別表第一の在留資格の方は、窃盗や傷害、住居侵入などで拘禁刑に処せられた場合、執行猶予でも入管法24条4号の2に該当し得ますし、薬物事犯であれば同法24条4号チにより執行猶予でも退去強制事由になります。したがって、初期段階の目標は執行猶予ではなく不起訴処分です。この目標から逆算すると、任意の取調べで何をどこまで述べるかは、単なる刑事弁護の問題ではなく、在留戦略そのものになります。なお、退去強制事由の判断に故意や過失を要するかについては入管実務上争いがあり、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を係属中です。
よくあるご質問
断ったら不利になりますか
断ること自体は権利の行使ですが、事案によっては逮捕状の請求につながることがあります。単純に拒否するのではなく、弁護人を通じて出頭の日時や方法を調整する形をとると、逃亡や罪証隠滅の疑いを生じさせにくくなります。また、断る場合でも、連絡先を伝え、逃げ隠れする意思がないことを明確にしておくことが有用です。
同行した日に帰れますか
逮捕されていなければ、いつでも退去できるのが原則です。ただし、実務では長時間になることもあります。あらかじめ帰宅予定時刻を家族に伝え、連絡が途絶えた場合には弁護士に連絡してもらう段取りを決めておいてください。所持品や携帯電話の提出を求められた場合の対応も、あらかじめ確認しておくと落ち着いて臨めます。
通訳は付けてもらえますか
日本語での取調べが困難な場合、通訳が手配されます。ただし、通訳人の専門性には幅がありますので、法律用語や事実関係の細部で理解が曖昧なときは、その場で通訳のやり直しを求め、分からないまま署名しないでください。通訳人の氏名や所属を控えておくと、後に翻訳の正確性を検証する際の手がかりになります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区・高田馬場駅から徒歩約5分)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の方を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野として取り扱っております。刑事事件と在留の問題を別々の専門家に分けて依頼するのではなく、同一の弁護士が最初の接見から入管手続まで一貫して担当いたします。
当事務所には外国人事件専属の中国語通訳が在籍しており、接見、取調べへの立会い、ご家族との打合せに対応いたします。中国国内にいらっしゃるご家族からのご連絡も、微信(WeChat)で直接お受けしております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士とともに対応いたします。
これまでの解決実績の一部をご紹介いたします。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べへの対応と主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得した事例。
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- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠の分析と被告人質問・反対尋問を尽くし、無罪判決を獲得した事例。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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