オーバーステイ(不法残留)になった場合の対処法 帰国か在留かというゴールから逆算する
2026/08/12
在留期間を過ぎて日本に滞在してしまった。この状態を放置すると、選べる手段は時間とともに確実に減っていきます。逆に言えば、まだ摘発されていない段階であれば、こちらから打てる手は残っています。本記事では、オーバーステイ(不法残留)になった場合に何をどの順序で考えるべきかを、実務の流れに沿って整理します。
1 まず決めるべきは「帰国したいのか、日本に残りたいのか」
オーバーステイのご相談で最初にすべきなのは、条文の確認でも、罰則の心配でもありません。最終的にどこに着地したいのかを決めることです。この制度は、ゴールが違えば取るべき手続がまったく別のものになるからです。
- 日本に残りたい場合 → 在留特別許可(入管法50条)を目指す。在留資格を得て適法に滞在できる
- 早く帰国し、将来また日本に来たい場合 → 出国命令(入管法24条の3)を目指す。収容されず、上陸拒否期間は原則1年
- 何もせず摘発を待つ場合 → 退去強制。収容の可能性があり、上陸拒否期間は原則5年
ここを曖昧にしたまま入管に出頭すると、本来使えたはずの選択肢を自分で潰してしまうことがあります。とりわけ出国命令は「過去に退去強制されたこと、または出国命令により出国したことがない」ことが要件であり、一生に一度しか使えないものです。順序を誤れば取り返しがつきません。
最初にやるべきは出頭ではなく、ゴールの確定と、そこから逆算した手続の選択です。
2 オーバーステイ(不法残留)の概要と罰則
在留期間の満了日を過ぎて本邦に残留した場合、退去強制事由(入管法24条4号ロ)に該当します。同時に、不法残留罪(入管法70条1項5号)という犯罪も成立します。
つまりオーバーステイは、行政手続(退去強制)と刑事手続の二本立てで問題になります。この二つは別のトラックで進み、一方の結論が他方を自動的に決めるわけではありません。ここを混同しておられる方は非常に多いところです。
- 刑事で不起訴になっても、退去強制事由が消えるわけではない
- 逆に、刑事処分の内容(起訴されたか、有罪か、実刑か)は、在留特別許可の判断で重い意味を持つ
罰則は、入管法70条1項5号により、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科です。なお2025年6月1日施行の刑法改正により、従来の「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されています。
退去強制手続は、入国警備官による違反調査から始まり、入国審査官による違反審査(退去強制対象者に該当する旨の認定)、特別審理官による口頭審理(判定)、法務大臣に対する異議申出という順に進みます。認定に対する口頭審理の請求、判定に対する異議申出には、いずれも通知を受けた日から3日以内という短い期限があります。
2024年6月10日施行の改正入管法により、収容に代わる監理措置制度が導入されました。監理人(親族・知人・元雇用主・弁護士など)の監理の下で、収容されずに社会内で生活しながら手続を進める道が開かれています。収容を当然の前提とお考えになる必要はありません。
3 残留期間によって、不起訴の見込みはある程度読める
実務上、不法残留事件の刑事処分は、残留期間の長短が大きな分かれ目になります。加えて、次のような事情が処分を左右します。
不起訴の方向に働く事情
- 残留期間が短いこと
- 単純な在留期間の徒過であり、不法就労・偽造文書の使用などの付随する事案がないこと
- 前科・前歴がないこと
- 摘発されたのではなく、自ら入管に出頭申告していること
- 帰国の意思が明確で、渡航費用・航空券の手当てができていること
- 身元引受人がいること
起訴の方向に働く事情
- 残留期間が長期にわたること
- 偽造在留カードの使用、不法就労助長への関与、他人名義での稼働などを伴うこと
- 過去に退去強制歴・出国命令歴があること
- 同種の前科があること
残留期間と処分の対応関係には実務上の相場観がありますが、事件の類型・地域・捜査状況によって幅があります。ご自身のケースがどこに位置するかは、必ず弁護士にご確認ください。一般論をご自身に当てはめて楽観することも、悲観して行動が遅れることも、どちらも不利益につながります。
ここで押さえておくべきは、刑事処分の結論がその後の在留特別許可の判断に直結するという点です。刑事段階で不起訴を獲得できるかどうかは、前科がつくかどうかの問題にとどまりません。在留の途を残せるかどうかの問題です。だからこそ、刑事段階から入管手続を見据えた弁護活動が必要になります。
4 出国命令制度(収容されずに帰るための制度)
出国命令(入管法24条の3)は、一定の要件を満たす不法残留者について、収容することなく、簡易な手続で出国させる制度です。次の要件をすべて満たす必要があります。
- 速やかに出国することを希望して、自ら地方出入国在留管理局に出頭したこと
- 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
- 入国後、窃盗罪その他一定の罪により拘禁刑に処せられたものでないこと
- 過去に退去強制されたこと、または出国命令により出国したことがないこと
- 速やかに出国することが確実と見込まれること
効果は退去強制と大きく異なります。出国命令では収容されず、15日を超えない範囲で出国期限が指定され、上陸拒否期間は原則1年です。これに対し退去強制では、収容される可能性があり、上陸拒否期間は原則5年(2回目以降は10年)となります。1年か5年かで、人生設計が4年ずれます。
なお、違反調査の開始後に出頭した場合など、「短期滞在」での再入国を予定する場面では、上陸拒否期間が5年となる取扱いがあります。自ら、早い段階で出頭したかどうかが、ここでも効いてきます。
出国命令は便利な制度に見えます。しかし、これを選ぶことは「日本に残る」という選択肢を自ら手放すことを意味します。したがって、出国命令を活用すべきなのは、現在の事情だけでなく、将来的な事情変更を踏まえてもなお、在留特別許可が認められる見込みがない場合に限られます。
「将来的な事情変更を踏まえて」というのは、たとえば次のような視点です。
- 現在交際中の日本人配偶者予定者との婚姻が、近い将来に成立し得るか
- 日本人・特別永住者との間の実子について、認知・養育の関係が形成され得るか
- 子が日本の初等中等教育機関に就学し、定着が深まっていく段階にあるか
- 本国情勢の変化により、帰国が困難となる事由が生じ得るか
- 治療を要する疾病の経過
これらの見込みを検討せずに「とりあえず出国命令で帰る」と決めてしまうと、本来なら在留特別許可が得られた事案を、自ら手放すことになりかねません。しかも、上陸拒否期間が明けても、いったん不法残留歴が付いた方の再入国審査は決して甘くありません。
順序は明快です。まず在留特別許可の可能性を尽くして評価する。その上で見込みがないと判断されたときに、出国命令を選ぶ。
5 在留特別許可の概要(出頭申告は有利な事情として働く)
在留特別許可(入管法50条)は、退去強制事由に該当する外国人に対し、法務大臣が特別に在留を認める制度です。2024年6月10日施行の改正入管法により、本人からの「申請」による手続が創設されました(従来は職権による発動のみでした)。不許可の場合に理由が示されるようになった点も、改正の重要な変更点です。
法務大臣が考慮すべき事情は、改正法により法定化されました(入管法50条5項)。すなわち、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間および法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性、内外の諸情勢および本邦における不法滞在者に与える影響、その他の事情です。
ここが本記事で最も強調したい点です。出入国在留管理庁の「在留特別許可に係るガイドライン」(令和6年6月改定)は、積極要素として「当該外国人が、不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を明記しています。これは解釈論ではなく、当局自身が公表している審査基準に書かれていることです。公表された許可事例・不許可事例を通覧しても、自発的な出頭申告が有利な事情として考慮されるのが入管の傾向であることは明らかです。
裏を返せば、次のことが言えます。
- 摘発されてからでは、この積極要素は手に入らない
- 摘発による発覚は、それ自体が「素行」の評価に響く
- 時間の経過は、消極要素である「不法に滞在する期間が長期であること」を積み上げていく
待つことに利益はありません。時間は一方的に不利に働きます。
ガイドラインが挙げる主な積極要素は次のとおりです。日本人・特別永住者との間に出生した実子がいる、またはこれを扶養していること。日本人・特別永住者と法的に婚姻し、夫婦として相当期間共同生活し、婚姻が安定かつ成熟していること。別表第二の在留資格をもって在留する者との同様の家族関係。本邦の初等中等教育機関に相当期間在学し、地域社会に定着していること。地域社会において相当程度活動していること。社会・経済・文化等の各分野において本邦に貢献し、不可欠な役割を担っていること。難病等により本邦での治療が必要であること。本国情勢の不安により帰国が困難な状況が客観的に明らかであること。そして、自ら不法滞在を申告して出頭したこと。
他方、主な消極要素は次のとおりです。過去に退去強制手続・出国命令手続をとられたことがあること。入管法50条1項ただし書に該当するもの以外の刑罰法令違反があること。仮放免・監理措置中の逃亡や条件違反があること。納税義務を履行していないこと。集団密航への関与、他の外国人の不法入国の容易化、不法就労や在留資格偽装への関与。公的書類の偽変造・不正受交付。反社会的勢力への所属。密航・偽造旅券の使用・在留資格の偽装といった不正な入国。不法に滞在する期間が長期であること。虚偽の申告。本国との顕著な結び付きがあること。
積極要素と消極要素は機械的に足し引きされるものではなく、総合考慮です。だからこそ、どの事実をどの考慮事情に位置づけ、どのように主張し立証するかで、結論が変わり得ます。
6 出頭申告は、弁護士と一緒に設計して使う
出頭申告が積極要素になることは、上記のとおり明らかです。しかし、ただ出頭すれば有利になるわけではありません。出頭は一度しかできない一回性の行為であり、そこから先の手続はこちらのペースでは進みません。出頭の前に、次の準備を整えておく必要があります。
第1に、ゴールの確定と手続の選択です。在留特別許可を目指すのか、出国命令を目指すのか。将来的な事情変更まで織り込んだ上で決めます。ここを決めずに出頭するのは、目的地を決めずに乗車するようなものです。
第2に、主張の骨格と証拠の準備です。出頭の時点で、なぜ在留を認めるべきなのかという主張と、それを支える資料が揃っている状態を作ります。婚姻の実質を示す資料、子の就学・養育の資料、地域社会での活動、納税の記録、疾病の診断書。これらは出頭してから集め始めるのでは遅い場面が多いところです。
第3に、消極要素への先回りした手当てです。長期の不法滞在、不法就労、税の未納といった消極要素は、多くの事案で存在します。重要なのは、これらを隠すことではなく(虚偽の申告は、それ自体が独立した消極要素です)、位置づけを整理し、消極事情として機能しない形に構成することです。
第4に、刑事手続への備えです。出頭申告は、刑事事件としての立件を伴い得ます。刑事処分の結論は在留特別許可の判断に影響します。刑事弁護と入管対応を同一の方針の下で連動させることが不可欠です。刑事は刑事、入管は入管と切り分けて別々に対応すると、一方での対応が他方で不利に働くことがあります。
第5に、収容・監理措置への備えです。監理措置制度がある以上、収容を当然の前提とする必要はありません。監理人の確保、就労許可の要否を含め、出頭の前に段取りしておくべき事項です。
弁護士が関与する意味は、具体的には次の点にあります。出頭のタイミングと、その時点で提出すべき資料の設計。違反調査・違反審査・口頭審理の各段階における供述の一貫性の確保。在留特別許可の申請書および理由書の作成、とりわけ法定考慮事情(入管法50条5項)に正面から対応した構成。刑事段階での不起訴の獲得、または処分の軽減。監理措置の申請および監理人としての就任。そして、不許可となった場合の取消訴訟・執行停止の申立てです。
改正法により不許可の理由が示されるようになったことは、その後の争い方を組み立てやすくなったことを意味します。行政手続の段階から、訴訟を見据えた記録を残しておくことに実益があります。
まとめ
- 最初にゴールを決める。残るのか、帰るのか。ここからすべてが逆算される
- オーバーステイは行政と刑事の二本立て。一方の結論が他方を自動的には決めない
- 残留期間は刑事処分の見込みを大きく左右する。ただし個別の評価が必須である
- 出国命令は一生に一度のもの。将来の事情変更まで踏まえて在留特別許可の見込みがないと判断したときに使うべきである
- 出頭申告は、当局のガイドラインが明記する積極要素。摘発されてからでは手に入らない
- 出頭は設計してから行う。主張・証拠・刑事対応・収容対応を整えた上で臨むべきである
時間は味方をしません。不法滞在の期間が延びるほど消極要素は積み上がり、摘発の可能性は高まり、選べる手続は減っていきます。まだ選択肢がある段階でご相談ください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士を中心に、外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)事件での無罪判決の獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分の獲得、難関とされた在留特別許可の獲得など、刑事と入管の双方にまたがる解決の実績を有しています。不法就労助長が問題となった事案において在留特別許可を獲得した例もあり、公表事例では不許可が並ぶ類型であっても、事案の構成次第で許可の余地があることを実務で確認しています。
中国語の通訳を備え、接見・取調べの立会い・打合せに対応いたします。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更等についても、提携の行政書士とともにワンストップで対応いたします。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
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