「日本人と結婚しているから強制送還はされない」という誤解|配偶者の在留資格と退去強制事由の関係
2026/08/07
日本人の配偶者等の在留資格をお持ちの方から、「日本人と結婚しているのだから、何かあっても送還されることはない」というお話を伺うことがあります。婚姻関係が在留の基礎である以上、その理解には一定の根拠があります。しかし、婚姻の存在は退去強制事由の該当性そのものを打ち消すものではありません。婚姻は、退去強制事由に該当した後の段階で、在留を特別に許可するかどうかの判断において重く考慮される事情です。この違いを取り違えると、対応の順序を誤ることになります。
本記事の要点
- 婚姻の存在は、入管法24条各号の退去強制事由への該当性を否定するものではありません。
- 婚姻は、在留特別許可の判断において考慮される事情の一つであり、入管法50条5項に明示されています。
- 婚姻の実態が失われていると判断されれば、在留資格取消し(入管法22条の4)の問題が生じます。
- 薬物関係の犯罪は入管法24条4号チにより、刑の重さを問わず退去強制事由となり得ます。
- 日本国籍の子の存在と養育の実態は、判断において特に重視される要素の一つです。
退去強制事由の該当性と、在留特別許可は別の段階の判断である
入管法の構造は、二段階になっています。第一段階は、退去強制事由に該当するかどうかの判断です。入管法24条各号が定める事由に該当すれば、退去強制手続の対象となります。ここでは、婚姻の有無は原則として考慮されません。
第二段階は、退去強制事由に該当することを前提として、なお在留を特別に許可するかどうかの判断です。この段階で、婚姻の実態、日本国籍の子の有無と養育状況、在日期間、素行、人道的な配慮の必要性といった事情が考慮されます。令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により、これらの考慮事情は入管法50条5項に明示されました。
つまり、婚姻は強力な事情ではあるものの、それは第二段階で効いてくるものです。「結婚しているから退去強制手続にならない」のではなく、「退去強制手続に入ったうえで、婚姻を含む事情により在留が特別に許可され得る」という関係にあります。
どのような場合に問題が生じるか
典型的なのは、刑事事件を起こした場合です。1年を超える拘禁刑に処せられれば入管法24条4号リに該当し得ます。薬物関係の犯罪であれば、同条4号チにより、執行猶予が付いていても、罰金であっても、退去強制事由となり得ます。この点は繰り返し強調しなければなりません。「執行猶予が付いたから大丈夫」という説明は、薬物事案では成り立ちません。
もう一つは、婚姻の実態が問題とされる場合です。入管法22条の4は、日本人の配偶者等の在留資格をもって在留する者が、配偶者としての活動を継続して6か月以上行っていないと認められる場合を、在留資格の取消事由としています。別居が続いている、生活の実態が伴っていないと判断されれば、事件の有無にかかわらず在留資格そのものが問題となります。
婚姻の実態をどう示すか
入管の審査では、婚姻が形式のみのものではなく、実態を伴うものであることを、資料により示す必要があります。同居の状況、家計の共同、日常的な交流の記録、親族との交際、共同での意思決定の実績といった事情が対象となります。
事件により身柄が拘束されている期間は、同居が物理的に不可能になるため、この点の説明が特に必要になります。拘束中の面会や手紙のやり取り、釈放後の生活設計、配偶者による支援の実態を、資料とともに示していく作業が求められます。
日本国籍の子がいる場合
日本国籍の子がいる場合、判断はより慎重になります。子の養育環境、就学状況、日本語での生活の定着、親の送還が子に与える影響といった事情は、在留特別許可の判断において重視されてきました。入管庁が公表している許可事例においても、日本国籍の子の存在と養育の実態が言及される例が多く見られます。
もっとも、子の存在があれば必ず許可されるというものではありません。他の考慮事情との総合判断であり、違反の態様や素行の評価が重い場合には、結論が異なることもあります。安易な見通しを述べることは差し控えなければなりません。
当事務所の考え方
当事務所は、在留特別許可の主張を組み立てるにあたり、入管法50条5項の考慮事情を逐条的にたどる方式を基本としています。そのうえで、入管庁が年度ごとに公表してきた許可事例を横断的に分析し、本件と本質的に類似する事情を有する事案について過去に許可の実績があることを示します。行政自身が許可相当と判断した先例が存在するにもかかわらず、本件についてのみ異なる取扱いをすることは合理的な理由を欠き、憲法14条1項の平等原則に照らして相当ではない、という構成です。
加えて、刑事事件を伴う事案では、刑事段階での防御が入管段階の主張の基礎になります。故意・過失を争った記録、無罪や不起訴に至った経緯は、後の入管手続で使える材料です。当事務所は、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務そのものについても、責任主義の射程という観点から訴訟で争っております(事例D-2、係争中)。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077)は、退去強制と在留特別許可を主たる注力分野の一つとしています。
観光目的で来日した相談者が在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知の手続が未了であったため当局から一旦不受理とされたところ、憲法的な観点から当局と交渉して手続を実現させ、刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行い、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下で有利な証拠を収集して、在留特別許可を獲得いたしました(事例D-1)。
当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、ご本人・ご家族との打合せも中国語で対応いたします。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士と連携し、ワンストップで対応いたします。
おわりに
婚姻は、在留を守るうえで極めて重要な事情です。しかし、それは自動的に働く盾ではなく、適切な段階で、資料とともに主張して初めて効果を持つものです。事件が起きたとき、あるいは在留資格の更新が近づいたときに、何をどの順序で準備するかを早めに確認しておくことをお勧めいたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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