会社の名義を貸しただけのつもりが|法人を使った犯罪と共犯認定の境界
2026/08/07
日本で会社を設立し、その代表者や役員の名義を他人に貸す。あるいは、設立された会社の口座開設や事務所の賃借契約に名前を貸す。報酬は数万円から数十万円で、「書類にサインするだけ」と説明される。近時、警視庁がアジア最大級とされる国際犯罪組織の関係者を摘発した際にも、法人の設立や虚偽の届出が手口として用いられていたと報じられました。名義を貸した側は、自分は犯罪に関与していないと考えていることが少なくありません。しかし、日本の刑事法における共犯の枠組みは、そこまで単純ではありません。
本記事の要点
- 名義を貸す行為は、それ自体が公正証書原本不実記載罪等に該当し得るほか、後続の犯罪の幇助・共同正犯と評価されることがあります。
- 共謀共同正犯の認定では、実行行為への関与よりも、認識の程度と役割の重要性が重視されます。
- 報酬の額と不自然さ、繰り返しの回数、質問しなかった経緯は、認識を推認する事情として扱われます。
- 経営・管理の在留資格をお持ちの方の場合、事業の実体が否定されると在留資格取消しの問題が併発します。
- 事案の重さによっては1年を超える拘禁刑となり得るため、入管法24条4号リとの関係で不起訴の獲得が重要です。
「名前を貸しただけ」がどう評価されるか
会社の設立登記に虚偽の内容を記載させれば、公正証書原本不実記載・同供用の問題が生じます。実体のない会社を使って口座を開設し、詐欺の被害金の受皿とすれば、詐欺の共犯や組織的犯罪処罰法上の犯罪収益等隠匿の問題に接続します。名義人は、これらの各段階で名前が使われることを、程度の差はあれ認識していることが多いのです。
日本の刑事実務では、実行行為を分担していなくても、共謀に基づいて他人の実行行為を利用したと認められれば共同正犯となります。名義を提供する行為は、組織にとって代替の効かない役割を果たすことが多く、この点が関与の重要性として評価されます。「言われるままにサインしただけ」という説明が、そのまま従属的関与の証明になるわけではありません。
認識をめぐる攻防
争点になるのは、何をどこまで知っていたかです。捜査機関は、報酬の額が業務の内容に比して不自然に高いこと、複数回にわたり同様の依頼を受けていること、依頼者の素性を確認していないこと、質問を避けた形跡があることといった事情から、少なくとも犯罪への利用を疑いながら受け入れた、すなわち未必の故意があったと主張します。
これに対する反論は、抽象的な否認では成り立ちません。依頼を受けた具体的な経緯、依頼者との従前の関係、当時の生活状況、説明された事業内容の合理性、他の同種の取引との比較といった事情を積み上げ、なぜ疑いを持たなかったといえるのかを説明する必要があります。通信記録の全体を精査すると、捜査機関が抜き出した断片とは異なる文脈が現れることもあります。
故意・過失を争うことの、その先
この類型で故意を争うことには、刑事事件の勝敗を超えた意味があります。従来の入管実務では、退去強制事由の判断にあたって故意・過失は要件とされないと説明されてきました。すなわち、刑事事件で故意を争って無罪となっても、入管手続では客観的な事実のみで退去強制事由該当性が判断され得るという構造です。
当事務所は、この実務そのものに疑問を持ち、責任なくして刑罰なしという責任主義の射程が行政処分にも及ぶべきではないかという論点を、不法就労助長罪に問われた依頼者の事案において正面から争っています(事例D-2)。この論点は現在も係争中であり、結論を先取りすることはできません。しかし、少なくとも実務上確かなことは、刑事段階で故意を徹底して争い、その過程で得られた証拠と認定を記録に残しておくことが、後の入管手続における主張の基礎になるということです。刑事で争わずに終えた事案では、入管手続で持ち出せる材料自体が存在しません。
在留資格への波及
経営・管理の在留資格で在留されている方の場合、名義貸しの発覚は二重の問題を生みます。刑事責任の問題に加え、当該会社に事業の実体がないと判断されれば、在留資格に対応する活動を行っていないとして、在留資格取消し(入管法22条の4)や更新不許可の問題が生じるからです。
また、量刑が1年を超える拘禁刑に達した場合、入管法24条4号リの退去強制事由に該当します。組織的な犯罪の一端として評価されると、単独の事案よりも量刑が重くなる傾向があるため、この水準は決して遠いものではありません。だからこそ、当事務所は起訴前の不起訴処分の獲得を最優先目標に置きます。
初動で押さえておきたいこと
取調べでは、「よく分からないまま署名した」という説明を安易に繰り返さないことが重要です。この説明は、状況によっては、疑いを持ちながらあえて確認しなかったという未必の故意の認定に接続します。事実関係を時系列で正確に述べ、記憶にない部分は記憶にないと述べる姿勢が必要です。
また、契約書、メッセージの履歴、報酬の受領記録といった資料は、ご家族の側で保全しておくことが有用です。捜査機関に押収された後では、こちらの側から全体像を示すことが難しくなります。
通訳についても留意が必要です。「頼まれて名前を出した」と「会社を作ることに協力した」では、関与の程度についての含意が異なります。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関側の通訳とは別に、ご本人の立場で訳す通訳をご利用いただけます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
法人をめぐる紛争の経験としては、虚偽の株主総会決議による代表取締役解任事件において、決議の不存在を主張し、東京地方裁判所・東京高等裁判所のいずれにおいても勝訴した事例(事例H-1)、外資系企業の支配権紛争において依頼者側の勝訴を得た事例(事例H-2)があります。会社の内部関係や登記の経緯が争点となる事案では、会社法上の枠組みの理解が刑事弁護の中身を左右します。
否認事件における取調べ対応としては、特殊詐欺の受け子で複数回の再逮捕を受けた事案について、全件の不起訴処分を獲得した事例があります(事例B-2)。
おわりに
名義を貸すという行為は、行為の時点では書類上の作業に見えます。しかし、その名義が後にどう使われるかによって、責任の評価は大きく変わります。既に事件が始まっている場合には、どの段階で何を認識していたのかを、できる限り早い段階で整理しておくことが必要です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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