国際郵便・宅配便で薬物を受け取ってしまったら|税関の犯則調査と「知らなかった」の争い方
2026/08/07
税関は、令和8年に入ってからも、航空小口急送貨物や国際郵便を利用した麻薬密輸入事件について、地方厚生局麻薬取締部や所轄警察署と共同で調査を行い、関税法違反として検察庁に告発した旨を公表しています。液状の大麻成分を含む製品が複数回にわたり海外から送られてきた事案も含まれます。こうした事案では、送り主ではなく、荷物を受け取る側の名義人が捜査対象になります。「知人に頼まれて受け取っただけ」という方が、ある日突然、自宅で取り押さえられるという構図です。
本記事の要点
- 税関は関税法上の犯則調査権限を有し、調査の結果を検察庁に告発する形で刑事手続に移行させます。
- 薬物の輸入は、麻薬取締法等の実体法違反と関税法違反(輸入禁制品の輸入)が同時に問題となります。
- 争点は多くの場合「中身が薬物であることを知っていたか」という故意の有無に集約されます。
- 薬物犯罪は入管法24条4号チにより、刑の重さを問わず退去強制事由となり得る点で他の犯罪と決定的に異なります。
- 故意を争う姿勢は、刑事段階の防御にとどまらず、その後の入管手続における主張の基礎にもなります。
税関の犯則調査から刑事手続へ
国際郵便物や国際宅配貨物は、輸入の際に税関の検査を受けます。X線検査や現物確認で薬物が発見されると、税関は関税法に基づく犯則調査を行います。この段階では警察の捜査とは別の枠組みですが、実務上は麻薬取締部や警察と共同で進められることが多く、調査の結果は検察官への告発という形で刑事手続に接続します。
発見された荷物をそのまま届けて受取人を確定させる、いわゆるコントロールド・デリバリーの手法が用いられることもあります。受取行為そのものが記録され、開封の状況、受領時の言動、事前のやり取りが証拠として押さえられます。したがって、受け取った時点で「何も知らなかった」と述べても、その言葉だけで捜査が終わることはありません。
問われる罪名と法定刑の重さ
薬物の輸入事案では、麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、覚醒剤取締法といった実体法上の輸入罪と、関税法上の輸入禁制品輸入罪が同時に問題となります。営利の目的が認定されると法定刑は著しく重くなり、覚醒剤の営利目的輸入では無期又は3年以上の拘禁刑と1000万円以下の罰金の併科という水準に達します。
ここで実務上の分水嶺となるのが、営利目的の有無と、そもそも中身の認識があったかという故意の点です。報酬の約束、複数回の受取、荷物の量、送付元との関係、SNS上のやり取りの内容といった間接事実から、認識と目的が推認されていきます。
故意を争うということ
「中身が何かは知らなかった」という弁解は、それ自体としては珍しいものではありません。捜査機関もその弁解を織り込んで、周辺事実を積み上げます。したがって、単に否認するだけでは足りず、なぜ知らなかったといえるのかを、客観的な事情によって説明する作業が必要になります。
たとえば、依頼者との関係性、依頼を受けた経緯、報酬の有無と金額の合理性、荷物の外形、受取を隠す挙動がなかったこと、通信記録の全体像といった要素です。捜査機関が抜き出した一部のメッセージだけを見れば不自然に映るやり取りが、前後の文脈を含めて読めば別の意味を持つ、ということは実際に起こります。
当事務所は、薬物事犯について、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者につき、証拠の徹底的な分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得した経験を有しています(事例A-1)。所持や輸入という外形が動かない事案であっても、認識と目的の立証が十分でなければ有罪とはならない、という当然の原則を、法廷で実際に機能させる作業が弁護の中身です。
薬物事件が在留に与える影響の特殊性
外国人の方にとって、薬物事件は他の犯罪類型と質的に異なります。入管法24条4号チは、薬物関係の法令違反により有罪とされた者を退去強制事由としており、ここには4号リのような「1年を超える拘禁刑」という限定がありません。つまり、執行猶予が付いても、罰金であっても、退去強制の対象となり得ます。
「執行猶予が取れたから日本に残れる」という説明は、薬物事案では成り立ちません。だからこそ、当事務所は起訴前の段階で不起訴処分を獲得することを最優先目標とします。嫌疑不十分による不起訴を目指す場合、勾留期間中に、通信記録の保全、依頼の経緯を裏付ける関係者の陳述、送付元との関係を示す資料の収集を進める必要があります。20日間という制約の中で、何を優先するかの判断が結果を分けます。
初動対応で押さえておきたいこと
取調べでは、記憶が曖昧な部分を推測で埋めないことが重要です。「たぶん3回くらい」といった曖昧な回数の供述が、後に回数の認定の根拠として使われます。分からないことは分からないと述べる姿勢が、結果として防御に資します。
通訳の正確性も、この類型では特に重要です。「頼まれた」と「引き受けた」、「中身は聞いていない」と「中身は知らない」では、故意の認定に関わる意味合いが異なります。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関側の通訳とは別に、ご本人の側に立つ通訳を刑事手続全般でご利用いただけます。
また、当番弁護士の初回接見を受けた後、継続的な弁護活動をどう確保するかを、ご家族が早い段階で判断する必要があります。薬物事案では捜査が広域に及ぶことも多く、接見等禁止が付されてご家族が面会できない状態が続くこともあります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護を主たる注力分野とし、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
薬物事犯では、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について無罪判決を獲得した事例があります(事例A-1)。また、否認事件における取調べ対応の実績として、特殊詐欺の受け子で複数回の再逮捕を受けた事案において、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議を通じ、全件について不起訴処分を獲得した事例があります(事例B-2)。長期の身柄拘束下で供述を維持する場面では、接見の頻度と助言の質がそのまま結果に反映されます。
刑事手続の後に在留資格の問題が残る場合には、提携の行政書士とも連携し、更新・変更の手続まで一貫して対応いたします。
おわりに
国際郵便を用いた薬物事案は、受け取った側から見れば、ある日突然始まる事件です。しかし捜査機関から見れば、荷物が国境を越えた時点から積み上げられた記録の延長線上にあります。この非対称を埋める作業を、できるだけ早い段階から始めることが必要です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------