不法残留で摘発された場合と、自ら出頭した場合|同じ違反でも結論が分かれる理由
2026/08/07
在留期間が過ぎたまま日本に留まっている状態を、入管法は不法残留と呼びます。近時も、通報を端緒として神社に寝泊まりしていた外国籍の男性が現行犯逮捕された、あるいは警察署が合同で6人を摘発した、といった趣旨の報道が続いています。不法残留はいずれ必ず表面化する違反です。問題は、それが「摘発」という形で表面化するのか、「自ら出頭する」という形で表面化するのかによって、その後の手続の中身が相当程度変わってくる点にあります。ご本人にとっては同じ「オーバーステイ」でも、入管が見る景色は同じではありません。
本記事の要点
- 不法残留は入管法24条4号ロの退去強制事由であると同時に、同法70条1項5号の刑事罰の対象でもあります。
- 入管庁が公表する在留特別許可の事例では、自ら出頭したという経緯が積極的に評価されてきました。
- 摘発による発覚の場合でも在留特別許可の道が閉ざされるわけではなく、家族関係・在留期間・素行等が総合考慮されます。
- 令和6年6月10日施行の改正入管法により、在留特別許可の申請手続が法定され、考慮事情が入管法50条5項に明示されました。
- 出頭のタイミングと準備の順序を誤ると、収容と送還が先行し、主張の機会を実質的に失うことがあります。
不法残留とは何か、二つの効果
不法残留は、二つの異なる効果を同時に生じさせます。第一に、行政上の効果として、入管法24条4号ロの退去強制事由に該当します。第二に、刑事上の効果として、入管法70条1項5号により3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科の対象となります。刑事事件として立件されるか、入管手続のみで処理されるかは事案によりますが、警察に逮捕された場合は前者から始まり、刑事処分の後に入管へ引き継がれるのが通常の流れです。
退去強制手続は、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査、特別審理官の口頭審理、法務大臣への異議の申出という段階を踏みます。この最終段階で、法務大臣が在留を特別に許可することがあり、これが在留特別許可です。
「出頭申告」がなぜ評価されるのか
出入国在留管理庁は、在留特別許可の許可・不許可事例を年度ごとに公表しています。これらの事例を読み込むと、違反の態様、在日期間、家族関係と並んで、発覚の経緯が繰り返し言及されていることが分かります。自ら出頭して違反を申告した者と、摘発により発覚した者とでは、更生の意思や在留状況の透明性についての評価が異なるという考え方が背景にあります。
もっとも、これは摘発事案が救済されないという意味ではありません。公表事例には、摘発を端緒としながら、日本人配偶者との婚姻の実態、日本国籍の子の養育状況、長期にわたる平穏な在留といった事情が重視されて許可に至ったものも含まれています。重要なのは、発覚の経緯という一要素を、他の要素との総合の中でどう位置付けるかです。
令和6年施行の改正入管法と、主張の組み立て方
令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により、在留特別許可について申請手続が法定され、考慮すべき事情が入管法50条5項に明示されました。在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、法的地位、退去強制の理由となった事実、人道的な配慮の必要性といった事情が条文上の考慮要素とされたことにより、主張する側も、これらを逐条的にたどる形で書面を組み立てられるようになりました。
当事務所は、この逐条の枠組みに、入管庁公表事例との対比を重ねる方法をとっています。本件と本質的に類似する事情を有する事案について過去に許可の実績があるにもかかわらず、本件についてのみ異なる取扱いをすることは、合理的な理由のない差別的取扱いであり、憲法14条1項の平等原則に照らして相当ではない、という主張です。抽象的な情状論に終わらせず、行政自身が示した先例を基準として提示する点に、この方法の意味があります。
出頭の前にしておくべきこと
出頭申告が有利に働き得るとしても、準備なしに窓口へ行くことは勧められません。出頭後は収容の可能性があり、いったん収容されると、書類の収集も家族との打合せも著しく制約されます。婚姻関係の実態を示す資料、子の就学状況、住民税や国民健康保険の納付状況、雇用主や近隣からの上申書、本国の戸籍関係書類など、必要な資料は出頭前に揃えるのが原則です。
中国の公証書類の取寄せには数週間から数か月を要することがあります。仮放免の申請、身元保証人の確保、収容中の連絡体制の設計まで含めて、出頭の日程は逆算して決めるべきものです。
刑事事件として立件された場合の留意点
不法残留で逮捕された場合、刑事手続では罰金や執行猶予付きの判決で終わることが少なくありません。しかし、そこで安心してはなりません。刑事処分の軽重にかかわらず、不法残留という事実は入管法24条4号ロの退去強制事由に該当し、入管手続はその後に控えているからです。
したがって、刑事弁護の段階から、在留特別許可を見据えた活動を並行させる必要があります。被告人質問や証人尋問で、婚姻の実態、子との関係、在留期間中の生活状況を具体的に記録に残しておくことは、後の入管手続で使える資料になります。刑事と入管を切り離して考える弁護方針は、外国人事件では機能しません。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077)は、退去強制と在留特別許可を主たる注力分野の一つとしています。
観光目的で来日した相談者が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻と認知の手続が未了であったために当局から一旦不受理とされたところ、憲法的な観点から交渉して手続を実現させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行い、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下で有利な証拠を収集し、過去の許可事例の分析を通じて在留特別許可を獲得しました(事例D-1)。
また、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の救済について、退去強制事由の判断には故意・過失を要しないとする従来の実務そのものを問う訴訟を係争中です(事例D-2)。行政処分にも責任主義の射程が及ぶべきではないかという論点であり、現在も裁判所の判断を求めている段階にあります。
おわりに
不法残留の状態にある方の多くは、いつか整理しなければならないと考えながら、踏み出せずに年月を重ねておられます。摘発を受けてからでは選べる手が限られますが、時間の余裕があるうちであれば、資料を揃え、順序を設計し、最も条件の良い時期に手続を始めることができます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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