令和元年・人身取引被害者として保護され、自ら出頭して特定活動(1月)|在日約3月で国際機関の支援を受け早期帰国を希望した事例(D類型許可第6事例)
2026/08/06
事例の概要
在留特別許可が、在留の継続ではなく安全な帰国のために用いられることがあります。令和元年分事例集(出入国在留管理庁公表)のD類型(その他)許可第6事例は、その例で、結論は許可です。違反態様は不法残留、端緒は出頭申告で、在日約3月・違反約3月。刑事処分はありません。在留希望の理由の欄には具体的な記載がなく、原典では斜線が引かれています。事例集は、人身取引被害者として保護されたこと、国際機関の支援を受け早期の帰国を希望したことを特記しています。許可内容は特定活動(1月)です。被害の内容には立ち入りません。
ガイドラインのどの評価要素に当たるか
当てはめは令和6年3月改定の現行ガイドラインによります。本事例は改正入管法施行(令和6年6月10日)前の判断です。
- 積極要素・第2の7:人道上の配慮として列挙されるのは、難病等での治療の必要性、本国情勢による帰国困難、無国籍で送還できないことです。本件は列挙自体には当たりませんが、被害者として保護された経緯が考慮されたと読めます。
- 被害者性が認められる場合の評価は、自ら売春を行い又は他人に売春を行わせる等の行為(第2の3(エ))が特に考慮する消極要素として働く事案とは、全く異なります。置かれた場が外形として似ていても、被害を受けた立場と加害の側は、ガイドラインの上で別の扱いを受けます。本類型を理解する上で最も重要な点です。
- 積極要素・第2の9:自ら出頭したこと。
- 消極要素・第2の5と第2の6:不法在留は約3月と短期で、退去強制事由は不法残留です。どの号に当たるかは条文に当たって確認する必要があります。
結論を分けた一線はどこか
決定的だったのは、被害者としての保護と国際機関の支援という客観的な裏付けだと読めます。許可内容が特定活動(1月)であることからは、本邦での在留の継続ではなく、安全に帰国するための地位として在留特別許可が用いられたことがうかがえます。同じ令和元年D類型の不許可第1事例は、事業活動に関し複数の外国人に不法就労活動をさせたもので、他者を働かせた側の立場にありました。被害を受けた立場と他者を利用した立場とで、評価は正反対の方向に向きます。
弁護士のコメント
刑事処分がない事例です。2点を述べます。
第1に、初期の記録です。違反の外形だけを追う調査では、本人が置かれていた状況が記録に残らないことがあります。どのような経緯で本邦に来て、誰の管理の下にあったのかが早い段階で記録されることが、その後の評価を左右いたします。捜査機関が用意する通訳とは別に、ご本人のために動く通訳を確保する意味もここにあります。
第2に、保護の枠組みへの接続です。公的機関や国際機関による保護の記録は、退去強制手続での主張に客観的な裏付けを与えます。帰国を希望される場合であっても、その意思と安全の確保を手続に反映させる必要があります。
公表されていない事案でも許可はあり得ます
事例集は各年20件前後の抜粋です。人身取引の被害に関する事案は公表されにくく、公表事例の数が実情を表すものではありません。当事務所が担当した不法就労助長の事案は、公表事例では不許可が並ぶ類型でありながら在留特別許可を得ており、許可後もなお違反認定処分の取消しを争っております。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、中国籍の方を中心とする外国人事件の刑事弁護と入管手続を主に扱っております。
海外のSNSでの侮辱被害につき、日本の警察と国際刑事警察機構(インターポール)の捜査により刑事告訴が受理された事例も扱っております。
国際的な刑事事件、裁判員裁判の対象事件、世界的に報道された事件への対応実績も有し、中国籍の方の重大事件にも多数対応してまいりました。
執行猶予判決を得ても多くの罪名では結果として退去強制に至りますので、当事務所は起訴前段階での不起訴処分の獲得を最優先に据えております。接見の初動から公判の結審までの全工程を松村弁護士が直接担当し、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐して、依頼者ご本人の側で動きます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携する行政書士とワンストップで対応いたします。
結語
被害を受けた立場にある方の場合、その立場を手続の早い段階で記録に残すことが要点となります。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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