金の無許可輸入で税関の犯則調査を受けたら|通告処分と告発の分かれ目、そして在留資格への影響
2026/08/06
空港で金製品を止められた。あるいは後日になって自宅に税関職員が訪れ、許可状を示して携帯電話を差し押さえていった。近年、金(きん)の無許可輸入をめぐる税関の調査が相次いでいます。財務省の公表によれば、令和6事務年度に税関が処分した犯則事件300件のうち186件が金地金に関するもので、脱税額では全体の約9割を占めました。しかもこの手続は、警察の捜査とは別の「犯則調査」という独自の仕組みで進みます。何が起きているのか分からないまま日が過ぎていく、という状況に置かれたご本人・ご家族に向けて、手続の構造と在留資格への影響を整理しました。
本記事の要点
- 金の無許可輸入は関税法111条1項1号の罪で、法定刑は5年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科です。未遂も同じ扱いです(同条3項)。
- 税関の調査は「犯則調査」であり、税関職員に逮捕の権限はありません。中心となるのは裁判官の許可状に基づく臨検・捜索・差押えです(関税法121条)。
- 税関長の通告処分(関税法146条1項)を履行すれば公訴は提起されず(同条5項)、前科はつきません。ここを守れるかが最大の分岐点です。
- 情状が拘禁刑に処すべきものと判断されると、通告処分ではなく直ちに検察官に告発されます(同条2項1号)。
- 在留資格の観点では、通告処分なら退去強制事由に該当しません。他方、1年を超える実刑に至ると、入管法24条4号リにより在留資格の種別を問わず退去強制事由に該当します。
そもそも何の罪に問われているのですか
関税法67条は、貨物を輸入しようとする者は品名・数量・価格その他必要な事項を税関長に申告し、必要な検査を経て許可を受けなければならないと定めています。この許可を受けずに輸入すると、関税法111条1項1号の無許可輸入罪が成立します。実行に着手して遂げなかった場合も同じ扱いです(同条3項)。
法定刑は5年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科です。ただし、犯罪に係る貨物の価格の5倍が1000万円を超えるときは、罰金の上限は当該価格の5倍まで引き上げられます。この罰金額は、もともと500万円が上限でした。金密輸の急増を受けた平成30年度の関税改正で1000万円に引き上げられ、あわせて倍数規定が導入されたものです(財務省関税局「金地金密輸の現状とその対策について」平成30年10月24日)。
金の密輸は、輸入時の消費税を免れることに動機があるとされます。そのため関税法違反だけでなく、消費税法64条・地方税法72条の109の各ほ脱罪も同時に成立し、観念的競合として最も重い刑により処断されます(同資料)。
指輪やイヤリングの形をしていても対象になりますか
なります。摘発された手口は年々巧妙になっており、報道で確認できるだけでも、粉末状にした金を下着に縫い付ける、等身大の人形の骨格部分を金塊に置き換える、ゴルフクラブのヘッドや機械部品の形に加工する、といった例があります。装身具の形をとっていても、実質が金地金であって申告せずに持ち込んだのであれば、問われる罪は変わりません。
税関の統計では、金地金密輸の摘発は令和6年(暦年)が493件・約1218kg、令和7年が192件・約425kgでした。件数だけを見れば減少していますが、令和7年11月27日には臨時関税局長会議において金密輸の更なる取締強化が決定されており、当局の姿勢が緩んだわけではありません。近時は、金を国外へ持ち出す方向の密輸も新たな問題として指摘されています。
逮捕されてしまうのでしょうか
税関の犯則調査そのものに、逮捕の権限はありません。財務省税関研修所の教材も、対物的な強制調査以外である犯則嫌疑者の逮捕については関税法に規定がなく、刑事訴訟法213条による通常人の現行犯逮捕をなし得るにとどまり、その場合も直ちに検察官または司法警察職員に引き渡さなければならない、と明記しています。
税関が行うのは、裁判官があらかじめ発する許可状に基づく臨検・捜索・差押えです(関税法121条)。同教材は、これらは行政手続でありながら実質的に刑事手続上の強制処分と変わらないため許可状を必要とする、と説明しています。自宅に税関職員が来て携帯電話やタブレットを持っていった、という場面は、まさにこの手続です。
ここで一点、見落としてはならないことがあります。差し押さえられたのが金そのものではなく通信機器であるとき、当局が見ようとしているのは物ではなく、やり取りの相手方と回数です。単発の持込みなのか反復されたものなのか、単独なのか組織的なのかを解明しようとしている、と考えておくのが実際に近いでしょう。
通告処分と告発は、何がどう違うのですか
決定的に違います。ここが本記事で最もお伝えしたい点です。
税関長は、犯則事件の調査により犯則の心証を得たときは、罰金に相当する金額・没収に該当する物件・追徴金に相当する金額等を納付すべき旨を書面により通告しなければなりません(関税法146条1項)。これが通告処分です。そして同条5項は、犯則者が通告の旨を履行した場合においては同一事件について公訴を提起されない、と定めています。つまり、起訴されず、前科もつきません。
他方、同条2項1号は、情状が拘禁刑に処すべきものであるときは、通告処分をせず直ちに検察官に告発しなければならないとしています。反復性や組織性が認められれば、この告発ルートに乗ります。通告を受けた日の翌日から20日以内に履行しないときも、同じく告発です(同法147条1項)。
告発されると、差し押さえられていた物件は調書とともに検察官へ引き継がれ、刑事訴訟法の規定により検察官が押収したものとみなされます(同法148条2項・4項)。刑事事件としての本番は、そこから始まります。
なお、通告処分における「罰金に相当する金額」がどのように算定されるのか、その基準は公表されていません。外部から確定的な金額を計算することはできない、というのが正直なところです。この点を明確に説明せず金額を断言する情報には、注意が必要です。
実際の裁判では、どの程度の刑が言い渡されていますか
公表されている裁判例から、いくつか挙げます。なお、令和4年改正刑法の施行前の判決であるため、判決当時の表記に従い「懲役」と記します(現行法では拘禁刑に相当します)。
金地金205kg余を船舶で運び陸揚げした事案では、懲役2年6月・執行猶予5年、罰金150万円とされ、控訴は棄却されました(福岡高判平成30年9月5日・平成30年(う)第166号)。金地金約120kgを航空便で運んだ運搬役の事案では、第一審が懲役3年・執行猶予5年としたのに対し、控訴審は、被告人が組織内で相当上位の地位にあったとして破棄自判し、懲役2年6月・罰金200万円の実刑としています(福岡地判平成30年8月8日、福岡高判平成31年2月20日)。
他方、金地金5kgを携行して未遂に終わった運搬役の事案では、懲役1年6月・罰金50万円の執行猶予付き判決でした(名古屋地判平成30年5月11日)。また、輸入者名義とされた会社の代表者について、役職が名目的で業務を統括していたとは認められないとして無罪とした例もあります(大阪地判令和4年3月16日)。
数量や税額だけで機械的に決まるものではなく、組織内での地位、反復性、前科の有無が量刑を大きく左右していることが読み取れます。「運び屋だから軽い」と単純に考えるのは危険です。
押収された金は返ってくるのですか
条文の構造を丁寧に読む必要があります。
関税法118条1項は犯罪貨物等の没収を定めていますが、その括弧書きで、111条の犯罪に係る貨物については「輸入制限貨物等に限る」と限定しています。そして同条3項によれば、輸入制限貨物等とは、酒類、製造たばこ、国の専売品、および輸入割当てを要する非自由化品目です。金製品はいずれにも当たりません。したがって、関税法118条による必要的没収の対象ではないことになります。
もっとも、告発されて刑事事件になれば、刑法19条2項による任意的没収の対象となり得ます。前記の120kgの事案では、第一審が没収を認めなかったのに対し、控訴審はこれを論理則・経験則に反する判断であるとして没収を認めています。ここは争える論点であり、また争うべき論点です。没収されなかった場合には、関税および輸入消費税が正規に徴収されることになります。
在留資格にはどのように影響しますか
外国人当事者にとって、ここが最も重い問題です。刑事上の結論と入管上の結論は、必ずしも一致しません。
まず、通告処分を履行して終わった場合です。前科はつきませんから、入管法24条の刑事罰関係の退去強制事由には該当しません。これらの号は、いずれも「刑に処せられた者」または「有罪の判決を受けた者」を要件としているためです。上陸拒否事由(入管法5条1項4号)にも触れません。
次に、告発され有罪となった場合です。関税法違反は、入管法24条4号の2が列挙する罪(住居侵入、偽造、窃盗・強盗、詐欺・恐喝、傷害等)には含まれていません。したがって、別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、留学、家族滞在等)であっても、執行猶予付きの拘禁刑では、この号による退去強制事由には該当しません。罰金でも有罪判決であれば該当してしまう薬物事犯(同号チ)とは、構造が異なります。
問題は入管法24条4号リです。無期または1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者は、在留資格の種別を問わず退去強制事由に該当します。永住者であっても定住者であっても同じです。先に挙げた懲役2年6月の実刑判決は、まさにこの領域に入ります。金密輸事案で実刑判決が出ている以上、これは抽象的な危険ではありません。
さらに、退去強制事由に該当しなかったとしても、在留期間の更新や在留資格の変更が不許可となって在留を失う経路が別にあります。出入国在留管理庁のガイドラインは考慮要素の一つとして「素行が不良でないこと」を掲げ、退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為や、出入国在留管理行政上看過することのできない行為を素行不良の例として示しています。初犯であっても該当し得るとされている点に、注意が必要です。
なお、当事務所は、退去強制事由の判断にあたって故意・過失を要件としないとする従来の入管実務に対し、責任主義の射程を正面から問う訴訟を現在係争中です。刑事段階で認識の有無を徹底して争っておくことは、それ自体が防御であると同時に、後の入管手続における主張の基礎を作る作業でもあります。
初動で押さえておきたい3つのこと
第一に、取調べへの対応です。犯則調査における質問調書は、告発された後は刑事手続における証拠として機能します。記憶にないことを流されるまま認めない。黙秘権の行使を含め、どこまで話すかを弁護人と決めてから臨む。これに尽きます。
第二に、早期の弁護人選任です。通告処分になるか告発されるかの分岐は、税関が犯則の心証を固めていく過程で事実上決まっていきます。告発された後に動き出しても、取り返せる幅は小さくなります。
第三に、通訳です。捜査機関や税関が指定する通訳人は、依頼者ご本人のために動く立場にはありません。訳出の微妙なニュアンスが調書に不利な形で残る危険は、現実に存在します。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、ご本人のために動く立場の通訳を、手続の全般にわたってご利用いただけます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。
輸入をめぐる刑事事件については、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得した実績があります。密輸類型の事件では、貨物の中身についての認識、共犯者との意思連絡の有無といった主観面が最大の争点になります。ここを丁寧に崩していく作業は、まさにこの種の事件の中核です。また、裁判員裁判対象事件や国際的に報道された重大事件にも数多く対応してまいりました。
組織的犯行の末端に位置づけられた依頼者については、指示役からの働きかけの状況や犯意の不存在を総合的に主張し、特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案で全件について不起訴処分を獲得した実績もあります。金密輸事件で運搬役とされた方の弁護においても、同じ発想が生きます。
入管手続についても一貫して対応いたします。婚姻・認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされた事案において、憲法的観点から当局と交渉して手続を成立させ、入管当局の過去の許可事例を分析することで、難関とされた在留特別許可を1回の申請で獲得した事例がございます。また、不法就労助長罪の認定事件において、退去強制事由の判断における故意・過失要件論を正面から主張し、前例のない在留特別許可を獲得した実績も有しております。
接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行は行いません)。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等についても、提携の行政書士とともにワンストップで対応が可能です。
※ 過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
おわりに
金の無許可輸入事件は、水際で止められて終わるとは限りません。後日に居宅の捜索が行われ、通信記録から反復性や組織性が洗われていくことがあります。そして、通告処分で終わるか告発されるかによって、前科の有無も、在留資格の帰趨も、まったく違う結果になります。分岐が決まってしまう前の段階で手を打てるかどうかが、結論を分けます。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
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