退去強制手続の全体像|収容から在留特別許可まで、条文に沿って読み解く
2026/08/04
「入管に収容された」というご連絡をいただいたとき、ご家族が最初に直面するのは、これから何が起きるのか分からないという不安です。刑事手続であれば、逮捕、勾留、起訴、公判という流れが広く知られていますが、入管の手続はそうではありません。実際には、入管法は退去強制の手続を段階ごとに条文で定めており、各段階に反論の機会が設けられています。どの段階で、誰に対して、何を主張できるのか。その地図を持っているかどうかで、打てる手の数は大きく変わります。本記事では、違反調査から在留特別許可、そして訴訟に至るまでの流れを、条文に即して整理いたします。なお、条文の細部や施行の状況については、出入国在留管理庁の公表資料及びe-Gov法令検索でご確認ください。
本記事の要点
- 退去強制手続は、違反調査、違反審査、口頭審理、異議の申出という三段階の審査構造を採っています。
- 各段階で判断が覆らなければ次へ進みますが、逆に言えば、各段階が反論の機会です。
- 最終段階で法務大臣(実務上は地方出入国在留管理局長への委任)が在留を特別に許可し得ます(入管法50条)。令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により、申請手続が法定化され、考慮事情が同条5項に明示されました。
- 退去強制令書が発付された後も、仮放免(入管法54条)の申請、取消訴訟の提起と執行停止の申立てという手段が残されています。
- 出入国在留管理庁は在留特別許可の許可・不許可事例を公表しており、行政自身が許可相当と判断した先例として、平等原則(憲法14条1項)に基づく主張の基礎になり得ます。
1. 手続の入口|違反調査と収容
入国警備官は、退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当の理由がある外国人について、違反調査を行うことができます(入管法27条以下)。調査の結果、収容の必要があると判断されれば、主任審査官が発付する収容令書によって収容されます(同法39条。収容期間は原則30日、延長により30日以内の延長が可能とされています。同法41条)。収容された方は、入国警備官から入国審査官に引き渡されます(同法44条)。
ここで押さえておきたいのは、退去強制事由が入管法24条に号ごとに書き分けられており、その構造が一様ではないという点です。不法残留を捉える号、刑罰を受けたことを要件とする号(同条4号リ。無期又は1年を超える拘禁刑)、刑の軽重を問わずに有罪の言渡し自体を捉える薬物関係の号(同号チ)など、要件はそれぞれ異なります。ご自身の事案でどの号が主張されているのかを最初に特定することが、反論の出発点です。
2. 入国審査官の違反審査
引渡しを受けた入国審査官は、その外国人が退去強制事由に該当するかどうかを審査します(入管法45条)。該当すると認定した場合は、その旨を本人に通知します(同法47条)。該当しないと認定されれば、その時点で放免されます。
この段階で重要なのは、事実関係の認定がここで一応固まるという点です。刑事手続で作成された供述調書や判決が、そのまま資料として用いられることも多く、刑事段階でどのような記録を残したかが、ここに響いてきます。
3. 特別審理官の口頭審理
認定に不服がある場合、通知を受けた日から3日以内に、口頭審理を請求することができます(入管法48条)。口頭審理は特別審理官が行い、本人は代理人を選任し、証拠を提出し、証人の尋問を求めることができます。事実上、退去強制事由の該当性を争える最も実質的な場面です。期限が極めて短いため、収容の直後から準備を始める必要があります。
4. 異議の申出と在留特別許可
特別審理官の判定にも不服がある場合、3日以内に法務大臣に対して異議を申し出ることができます(入管法49条)。実務上、この権限は地方出入国在留管理局長に委任されています。
異議に理由がないと判断された場合であっても、法務大臣は、在留を特別に許可することができます(入管法50条)。令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により、この在留特別許可については、申請手続が法律上明確化され、考慮すべき事情が同条5項に明示されました。具体的には、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留の状況、内外の諸情勢、人道上の配慮といった事情です。また、拘禁刑1年を超える実刑等に処せられた者についても、特別の事情があると認めるときは許可し得る旨が、同条1項ただし書に明示されています。
すなわち、在留特別許可は「恩恵」として漠然と与えられるものではなく、法定された考慮事情に沿って主張立証すべき対象になったということです。書面の作り方が結論を左右します。
5. 公表事例と平等原則
出入国在留管理庁は、在留特別許可のガイドラインとともに、許可事例・不許可事例を公表しています。ここに掲載された許可事例は、行政庁自身が許可相当と判断した先例です。したがって、本件と本質的に同種の事情を有する事案について過去に許可実績があるにもかかわらず、本件についてのみ不許可とすることは、合理的な理由なく異なる取扱いをするものであって、法の下の平等を定める憲法14条1項の趣旨に反すると主張する余地があります。
公表事例は個人情報への配慮から記載が抽象化されているため、完全一致を求めるのではなく、違反態様、在日期間、家族関係、発覚の経緯、素行といった本質的事情の類似性を基準に対照していく作業になります。
6. 令書発付の後にできること
異議に理由がないとの裁決がなされ、在留特別許可も与えられなかった場合、主任審査官は退去強制令書を発付し、送還の手続が進みます。しかし、ここで全てが終わるわけではありません。
- 仮放免を申請することができます(入管法54条)。健康状態、家族の状況、身元保証人の有無、逃亡のおそれの程度が判断材料になります。医療上の必要性がある場合は、診断書等の疎明資料を早期に整えてください。
- 退去強制令書発付処分及び裁決の取消訴訟を提起することができます。送還が現実に迫っている場合には、執行停止の申立てを併せて行うことが不可欠です。訴訟には出訴期間の制限があり、時機を失すると争えなくなります。
- ご家族との連絡、通訳の確保、身元保証人の依頼は、収容の直後から並行して進めておいてください。手続の各段階の期限が短いため、資料集めが後手に回ると、主張する機会そのものを失います。
7. 退去強制事由に故意・過失は要らないのか
従来の入管実務では、退去強制事由の該当性は客観的な事実の有無で判断され、本人の故意・過失は問わないという運用が前提とされてきました。しかし、退去強制は、生活の基盤を失わせ、家族を引き離す重大な効果を伴う措置です。刑罰について責任主義が妥当するのであれば、これに匹敵する不利益を課す判断についても、本人の帰責性が問われるべきではないか。これが、松村大介弁護士が現在係争中の事案で正面から問うている論点です(事例D-2)。同事案は、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性を救済するための訴訟です。
係争中の論点であり、結論を予断することはできません。もっとも、この視点を持つかどうかは、口頭審理の段階での主張の組み立て方に現に影響します。刑事段階で故意の有無を丁寧に争っておくことは、その後の入管手続における主張の基礎にもなります。当事務所が、起訴を防ぐこと、すなわち不起訴処分の獲得を最優先の目標としているのも、この連続性を重視しているからです。
8. 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続に取り組んでおります。
在留特別許可の分野では、観光目的で来日された方が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案において、当局との交渉を通じて婚姻と認知の手続を実現し、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという困難な状況下でも、過去の許可事例の分析を踏まえて在留特別許可を獲得した事例がございます(事例D-1)。前記の公表事例との対照作業を、実際の書面に落とし込んだ例です。
また、行政の判断が司法審査の対象となることを正面から争った経験もございます。ストーカー規制法に基づく警告処分の取消し等を求めた控訴事件において、警告は単なる行政指導ではなく法的効果を伴うものであるとして、行政処分としての性質を認めた判決を得ました(令和6年6月26日大阪高裁判決。事例G-1)。退去強制令書発付処分の取消訴訟でも、行政の判断を当然の前提とせず、法的枠組みに立ち返って争う姿勢は共通しています。
当事務所の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、収容施設での面会や口頭審理の準備においてもご利用いただけます。手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
9. おわりに
退去強制手続は、外から見れば一直線に送還へ向かう流れに見えます。しかし条文を追っていくと、そこには複数の判断権者と、複数の反論の機会が組み込まれていることが分かります。問題は、各段階の期限が短く、地図を持たないまま時間が過ぎてしまうことです。収容されたその日から、どの段階で何を主張するかを設計できるかどうかが、結論を分けます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。条文の細部及び施行の状況については、出入国在留管理庁の公表資料及びe-Gov法令検索でご確認ください。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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