外国人を雇った側・紹介した側の責任|不法就労助長罪(入管法73条の2)と、退去強制における故意・過失
2026/08/04
飲食店、建設現場、人材派遣、小売店。外国人の方が働く現場が広がるにつれて、雇う側・紹介する側が不法就労助長罪に問われる事案も、各地で継続的に報じられています。報道によれば、在留資格のない方や資格外活動の許可を受けていない方を働かせたとして、経営者本人だけでなく、現場の責任者、名義を貸した方、人を紹介しただけの方までが摘発の対象になる例があるとされています。ご相談の場で私どもが最も多く伺うのは、「在留カードのコピーは受け取っていた。それなのになぜ自分が捕まるのか」というお言葉です。本記事では、雇用する側・紹介する側の責任がどのような条文構造で問われるのか、そしてそれが経営者ご自身の在留資格にどう跳ね返るのかを整理いたします。
本記事の要点
- 不法就労助長罪(入管法73条の2)は、事業活動に関して外国人に不法就労活動をさせた者、不法就労活動をさせるために自己の支配下に置いた者、業としてあっせんした者を処罰の対象とします。
- 法定刑は5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科です。法人に対する両罰規定も置かれています。
- 「知らなかった」という弁解は、同条2項により、過失があれば免責されません。裏を返せば、過失がなかったといえる事情を積み上げれば、責任を免れる余地が残されています。
- 経営者ご自身が外国籍である場合、有罪認定は経営・管理等の在留資格の更新審査に直結し、退去強制事由(入管法24条3号の4)の問題にもつながります。
- 退去強制事由の判断に故意・過失を要するのかという論点は、松村大介弁護士が現在係争中の論点です(後記の事例D-2)。
1. 不法就労助長罪は誰を処罰するのか
入管法73条の2第1項は、三つの類型を処罰の対象としています。第一に、事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者。第二に、外国人に不法就労活動をさせるために、これを自己の支配下に置いた者。第三に、業として、これらの行為に関しあっせんした者です。法定刑は5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科とされています(条文の詳細はe-Gov法令検索でご確認ください)。
見落とされやすいのは、処罰の対象が直接の雇用主に限られない点です。名義を貸した方、実際に指揮命令を行っていた現場責任者、人材を紹介した方も、関与の態様によっては同項の射程に入り得ます。さらに、法人の代表者や従業者が業務に関して違反行為をした場合には、行為者本人の処罰に加えて法人にも罰金刑が科される両罰規定が置かれています(同法76条の2)。
「不法就労活動」は、在留資格をお持ちでない方の就労だけを指すものではありません。留学の在留資格の方が資格外活動許可の範囲(原則として1週について28時間)を超えて働く場合や、在留資格で認められた活動の範囲を超える業務に従事する場合も含まれます。この点の理解のずれが、摘発に至る典型的な入口になっています。
2. 「知らなかった」はどこまで通用するのか
入管法73条の2第2項は、前項の行為をした者は、不法就労活動であることを知らなかったことを理由として同項の適用を免れることができないとした上で、過失のないときはこの限りでないと定めています。単なる不知は免責事由になりませんが、過失がなかったといえる場合には処罰されないという構造です。
実務上の分かれ目は、採用の時点でどこまで確認したかという一点に集約されます。在留カードの原本を確認したか、在留期間の満了日と就労制限の有無の記載を見たか、資格外活動許可の有無を裏面で確認したか、出入国在留管理庁の在留カード等の失効情報照会を利用したか、更新時期に再確認する社内の仕組みがあったか。これらの記録が残っていれば、過失がなかったという主張は具体的な裏付けを得ます。逆に、口頭で尋ねただけ、コピーを受け取っただけという状態では、捜査機関は容易に過失を認定します。
したがって弁護活動の中心は、取調べで「知りませんでした」と述べることではなく、確認体制の実態を客観的な資料で再構成することにあります。私どもは、起訴前の段階で、雇用記録、シフト表、面接時のやり取り、社内の手順書等を精査し、検察官に対する意見書の形で提出する方針を採っています。目標は執行猶予ではなく、不起訴処分です。執行猶予判決を得ても在留の問題が残る類型である以上、起訴前の勝負を避けるわけにはまいりません。
3. 経営者ご自身の在留資格への影響
入管法24条は退去強制事由を号ごとに列挙しており、号によって要件の構造が異なります。よく知られた4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、執行猶予に関する除外の定めがあります。他方、不法就労助長に対応する3号の4は、刑の重さを要件とせず、事業活動に関して外国人に不法就労活動をさせた者等を退去強制事由として掲げています。つまり、罰金で終わったから在留は安泰である、という理解は成り立ちません。どの号に当たるのかを条文ごとに特定する作業が、事案の見立ての出発点になります。
加えて、経営・管理その他の在留資格の更新審査では、素行が善良であることが求められます(出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」)。刑事処分の内容だけでなく、再発防止の体制をどこまで整えたかが、審査の実質的な判断材料になります。
4. 退去強制事由に故意・過失は必要か
入管実務では長く、退去強制事由の判断に故意・過失は要件ではないと説明されてきました。しかし、刑罰と同様に個人の生活基盤を根こそぎ奪う処分について、責任のない者にまで及ぼしてよいのか。この問いを、松村大介弁護士は現在係争中の事案(事例D-2)で正面から取り上げ、責任主義・過失責任主義の射程を問うています。係争中の論点であり、結論を先取りして申し上げることはできません。
実務の設計としては、三つの防御線を順に敷くことになります。第一に、刑事の段階で故意・過失そのものを争い、不起訴処分を目指す。第二に、仮に刑事処分を受けた場合でも、入管の段階で、確認体制の実態と本人の関与の程度を踏まえた責任主義の視点から主張を組み立てる。第三に、在留特別許可の判断において、出入国在留管理庁が公表してきた許可事例と本件とを対照し、同種の事情がありながら本件だけを不許可とすることは合理的理由のない別異取扱いであるとして、憲法14条1項の平等原則の観点から主張する。第一の防御線で積み上げた資料が、そのまま第二・第三の基礎になります。
なお、松村大介弁護士は、不法就労助長罪が認定された事件において、前例のない在留特別許可を獲得した実績を有しています(事例D-2の関連実績)。もっとも、これは個別の事情に基づく結果であり、同様の結果を保証するものではございません。
5. 初動で押さえておきたい3点
- 取調べには黙秘権があります。事業の細部について記憶が曖昧なまま「たぶんそうだったと思います」と述べると、その一言が後に故意の推認材料として使われます。
- 資料の保全を最優先にしてください。在留カードの写し、確認記録、シフト表、給与台帳は、過失がなかったことを示す中心的な証拠です。捜索により原本が押収された後でも、復元の手順があります。
- 弁護人の選任は早いほど有効です。刑事処分の見通しと在留への影響は連動しており、両方を一体で設計できる弁護人であるかが結果を分けます。
6. 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続に取り組んでおります。
入管法違反の分野では、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に直面された女性の救済のため、退去強制事由には故意・過失を要しないとする従来の実務を問い直す訴訟を係争中です(事例D-2)。この事案で積み重ねてきた責任主義の主張は、雇用者側・紹介者側の事件全般に応用できる視座です。
また、観光目的で来日された方が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案において、婚姻と認知の手続を当局との交渉により実現し、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下でも、過去の許可事例の分析を踏まえて在留特別許可を獲得した実績がございます(事例D-1)。
会社経営に関わる紛争についても、虚偽の株主総会決議による代表取締役解任が争われた事件で、決議は不存在であると主張し、東京地方裁判所・東京高等裁判所のいずれにおいても勝訴した実績がございます(事例H-1)。不法就労助長の事案では、社内の主導権争いや退職者の申告が捜査の端緒になることも少なくなく、刑事と会社法務の双方を見渡す視点が有効に働きます。
当事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
7. おわりに
人を雇うという日常の営みが、条文の読み方ひとつで刑事事件になり、経営者ご自身の在留にまで及ぶ。ここに、外国人雇用をめぐる事件の難しさがあります。摘発を受けた段階でも、確認体制の実態を丁寧に立証していく道は残されています。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
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