宅配ボックスを悪用した特殊詐欺で摘発されたら|「出し子」と呼ばれた方と、そのご家族へ
2026/08/04
集合住宅の宅配ボックスに封筒が置かれ、住人でも配達員でもない人物がそれを取りに来る。報道によれば、警視庁は、防犯カメラのない物件の宅配ボックスを詐取金やキャッシュカードの受渡し場所に悪用していたグループを摘発し、中国籍の男女3人が、この手口で集められたキャッシュカードを使って預金口座から現金を引き出したとして、窃盗等の疑いで逮捕されたとされています。被害はおよそ30件、約2,600万円に上るとみられると報じられました。ご相談の場面で最も多く聞くのは、「頼まれて封筒を取りに行っただけ」「言われた口座からお金をおろしただけ」という言葉です。その認識と、日本の刑事手続が下す評価との間には、しばしば大きな隔たりがあります。ご本人と、日本にいるご家族に向けて、何が問われ、在留にどう跳ね返るのかを整理いたします。
本記事の要点
- 他人名義のキャッシュカードでATMから現金を引き出す行為は、金融機関に対する窃盗罪(刑法235条)に当たると解されるのが実務です。
- 詐欺(刑法246条)の共同正犯と評価されるか、幇助にとどまるか、窃盗のみかによって、量刑も在留への影響も大きく変わります。
- オートロック内の共用部分や宅配ボックスの設置場所に立ち入る行為は、住居侵入・建造物侵入(刑法130条)が問題となり得ます。
- 求人サイトやSNS経由で関与した方の場合、未必の故意の有無が最大の争点になります。
- 1年を超える拘禁刑は、執行猶予が付いても入管法24条4号リの退去強制事由に当たります。だからこそ、起訴前における不起訴処分の獲得が最優先の目標になります。
1. どの罪に問われるのか
結論から申し上げると、この類型では複数の罪名が同時に検討されます。中心となるのは、他人名義のキャッシュカードを用いてATMから現金を引き出す行為です。この行為は、預金者に対する詐欺ではなく、現金を管理する金融機関の占有を侵害するものとして、窃盗罪(刑法235条。10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)に当たると扱われるのが実務の運用です。
これに加えて、被害者を欺いてカードや現金を交付させる一連の計画に加担していたと評価されれば、詐欺罪(刑法246条。10年以下の拘禁刑)の共同正犯が問題となります。宅配ボックスの設置場所がオートロックの内側にある場合には、そこへの立入りについて住居侵入・建造物侵入(刑法130条)が併せて立件されることもあります。さらに、引き出した現金を上位者へ渡す過程が組織的な資金移転と評価されれば、犯罪収益に関する規制が検討される場面もあります。条文の詳細はe-Gov法令検索でご確認ください。
2. 「出し子」「受け子」と共犯の線引き
現金を引き出す役、封筒を回収する役、口座やカードを用意する役。捜査機関は、これらを一体の犯行として構成しようとします。もっとも、法的には、どこまでの事情を認識し、どのような利益を得ていたかによって、共同正犯か、幇助か、あるいは特定の実行行為に限った責任かが分かれます。
ここで重要なのは、報酬の額、指示の受け方、使用していた通信アプリの履歴、行動の反復回数といった客観的事情です。日当が相場から著しく高額であった、身分証の写しを事前に送らされていた、途中で不審に思って離脱しようとした形跡がある、といった事情は、いずれも認識の程度を推し量る材料になります。捜査段階でこの点を整理しないまま調書が積み重なると、後から構図を組み替えることは容易ではありません。
3. 「アルバイトだと思っていた」という言い分の扱い
確かに、募集の入口では「荷物の回収」「口座の確認作業」といった表現しか示されていない例が少なくありません。しかし日本の刑事実務は、「違法な仕事かもしれないと思いながら、それでも構わないと考えて行った」という程度の認識があれば、未必の故意を認めます。したがって、「詐欺だとは知らなかった」と述べるだけでは足りません。
争うべきは、どの時点で何を知り得たのか、という具体的な経過です。応募の経緯、当初示された条件、指示内容が変わった時期、報酬の支払方法、離脱を申し出た際の相手方の対応。これらを、通信履歴や送金記録といった資料に基づいて再構成し、認識の内容と時期を切り分けていく作業が必要になります。とりわけ日本語や日本の商慣行に不慣れな方の場合、「怪しい」と感じる契機そのものが乏しかったという事情が、実質的な意味を持つことがあります。
4. 在留資格への影響
入管法24条は、退去強制事由を号ごとに書き分けています。この類型で中心となるのは4号リです。同号は、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、執行猶予が付された場合を除外していません。すなわち、「拘禁刑2年、執行猶予3年」という判決は、刑務所に入らないという意味では有利ですが、在留という観点では最も避けたい結末になり得ます。この点は、薬物事犯を刑の重さを問わず対象とする同号チや、資格外活動に関する同号ハとは構造が異なりますので、当該事件がどの号に接続するのかを正確に見極める必要があります。
加えて、退去強制に至らない場合でも、在留資格の取消し(入管法22条の4)や、在留期間の更新・在留資格の変更における素行要件の評価(出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」)という関門が残ります。留学や技術・人文知識・国際業務の在留資格で在留されている方の場合、事件の発覚それ自体が所属機関との関係に影響し、在留資格該当性の前提を失うことも起こり得ます。
なお、当事務所は、故意・過失の議論を刑事手続の中だけの問題とは考えておりません。松村大介弁護士は、退去強制事由の判断にも責任主義の射程が及ぶべきではないかという論点を、現在係争中の事案(事例D-2)で正面から問うています。刑事段階で認識の有無を丁寧に争っておくことは、その後の入管手続における主張の土台にもなります。
5. 被害弁償・示談と、不起訴処分を最優先とする理由
この類型の被害者は多数に及び、被害額も大きくなりがちです。全額の弁償が現実的でない場合であっても、資力の範囲で被害弁償に着手した事実、親族による支援の申出、贖罪寄付といった要素は、処分の判断において考慮されます。関与の程度が末端にとどまり、認識も限定的であったと認められる場合には、起訴猶予による終局の余地が残ります。
外国人の方の弁護活動においては、執行猶予の獲得を最終目標に据えるべきではありません。前記のとおり、1年を超える拘禁刑は執行猶予付きでも退去強制事由に該当し得るからです。当事務所は、起訴前の段階から不起訴処分の獲得を最優先の目標として弁護方針を組み立てます。
6. 初動で押さえておきたい3点
- 取調べには黙秘権があります。記憶が曖昧なまま、通訳を介して作成された調書に署名することは避けてください。共犯者の供述と食い違う調書が一通できるだけで、構図が固まってしまいます。
- 携帯電話やSNSの履歴は、不利にも有利にも働きます。削除は証拠隠滅と評価されかねません。弁護人に経緯を正確に伝え、保全と説明の方針を立ててください。
- 在日のご家族は、身元引受けと生活環境の整備という形で弁護活動を支えることができます。何をどの順で準備すべきかは事案によりますので、早い段階で弁護人にご相談ください。
7. 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続に取り組んでおります。
特殊詐欺の分野では、受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、徹底した取調べ対応と不当な取調べへの抗議、主張立証を積み重ね、全件について不起訴処分を獲得した実績がございます(事例B-2)。また、出し子行為に関わったとされた20代女性について、指示役からの欺罔的・脅迫的な状況や犯意の不存在といった主観的事情を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例もございます(事例B-1)。いずれも、末端で関与したとされる方の認識の内実を、客観資料に即して腑分けした結果です。
事件が報じられた場合の再起の問題についても、過去の逮捕報道・前科報道の削除に成功した実績がございます(事例F-4)。刑事処分が終わった後の生活再建まで見据えた対応が可能です。
当事務所の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
8. おわりに
封筒を受け取る、現金をおろす。行為だけを切り取れば数分の出来事です。しかしその数分が、被害者にとっては生活の基盤を奪われた瞬間であり、関与した方にとっては在留の可否を左右する分岐点になります。だからこそ、末端で関わったとされる方ほど、自分が何を知り、何を知らなかったのかを、証拠に即して語る手助けが必要になります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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