入管庁の定員が増員されると、在留外国人に何が起きるのか|摘発体制の強化と、手続の適正を求める視点
2026/08/03
2026年7月、政府が出入国在留管理庁の定員を増員する政令改正を閣議決定したと報じられました。報道によれば、増員は入国審査官と入国警備官の双方に及び、在留審査の迅速化と、不法滞在者の摘発・送還の強化が目的とされています。また、入管庁が将来的にSNSの分析を不法就労の摘発に活用する方針であることも報じられています。本記事は、これらの動きが、日本で生活する外国籍の方にとって実際に何を意味するのかを、制度に即して整理するものです。数値等は報道に基づくものであり、詳細は出入国在留管理庁の公表資料をご確認ください。
本記事の要点
- 報道によれば、増員の中心は在留審査を担う入国審査官と、摘発・送還を担う入国警備官である
- 在留審査の人員が増えるということは、審査が速くなると同時に、実態確認が精緻になることを意味する
- 摘発の端緒が、通報中心から、データ分析を含む能動的な収集へと広がりつつある
- 審査が精緻になるほど、申請書類と生活の実態との整合性が重要になる
- 行政の体制が強化される局面でこそ、個々の処分の適正手続と平等取扱いを求める視点が要る
1. 増員が意味するもの|二つの方向
報道によれば、増員は二つの方向に分かれます。第一は、在留資格の申請の審査等にあたる入国審査官です。ここが増えれば、申請から結論までの待ち時間が短くなることが期待されます。しかし同時に、これまで書面の形式的な確認にとどまっていた部分について、勤務実態や事業の実体を個別に確認する余力が生まれるという意味でもあります。第二は、不法滞在者の摘発や送還を担う入国警備官です。こちらは、調査・収容・送還の実務量の増加に直結します。
つまり、審査が速くなることと、審査が厳しくなることは、同じ体制強化の両面です。申請が通りやすくなるという意味ではありません。
2. 「書類が整っている」だけでは足りなくなる
在留資格の該当性は、申請書に記載された職務内容ではなく、実際に行われている活動によって判断されます。技術・人文知識・国際業務の在留資格であれば、契約書上の職務と、現場での実際の業務が一致しているかが問われます。経営・管理であれば、事業所の実体、事業の継続性、投資の実質が確認されます。実態確認の余力が増えるということは、この点が従来より丁寧に見られるということです。
また、入管法19条の16は、所属機関の変更等について14日以内の届出義務を定めています。転職や退学の届出を怠っていると、審査の場面でその不備が指摘されます。日々の届出を正確に行うことが、これまで以上に意味を持ちます。
3. 摘発の端緒が広がるということ
報道によれば、入管庁は将来的に、SNS上の情報の分析を不法就労の摘発の端緒として活用する方針とされています。従来、摘発の端緒は通報や関係機関からの情報提供が中心でしたが、公開情報の分析が加われば、行政が能動的に対象を発見する場面が増えることになります。
ここで確認しておきたいのは、端緒が何であれ、退去強制手続には法定の手順があるという点です。違反調査、入国審査官による違反審査、口頭審理の請求、法務大臣への異議の申出、そして在留特別許可の判断という段階が、入管法に定められています。手続の各段階で主張し、証拠を提出する機会は保障されています。摘発の端緒が広がったからといって、結論が自動的に決まるわけではありません。
4. 体制が強化される局面でこそ必要な視点
行政の処理能力が高まるとき、個別の事情が画一的な処理の中に埋もれやすくなります。当事務所は、次の三つの視点を、こうした局面でこそ重視すべきものと考えております。
- 適正手続の要請:退去強制は、生活の基盤を根こそぎ失わせる重大な不利益処分です。告知・聴聞の機会が実質的に保障されているか、通訳が適切に付されていたか、理由が具体的に示されているかは、常に検証されるべき事項です。
- 平等原則:出入国在留管理庁は、在留特別許可の許可事例・不許可事例を年度別に公表しています。これらは、行政自身が許可相当と判断した先例です。同種の事情がある事案について異なる取扱いをすることは、憲法14条1項の平等原則に照らして検証されなければなりません。
- 責任主義の射程:退去強制事由の判断には故意・過失を要しないという実務が長く踏襲されてきました。当事務所は、この実務そのものに疑問を投げかけ、責任主義の射程を行政処分に及ぼすべきであるとの主張を掲げた訴訟を係争中です(事例D-2)。
5. 刑事事件と在留の関係は、より切迫する
審査と摘発の双方が強化される局面では、刑事処分が在留に及ぼす影響は、これまで以上に速く、確実に現れます。入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を、同号チは薬物関係の罪等で処罰された者を、それぞれ退去強制事由と定めています。有罪判決が出た時点で、該当性はほぼ機械的に決まってしまいます。だからこそ、当事務所は執行猶予判決ではなく、起訴前段階での不起訴処分の獲得を第一目標として弁護方針を組み立てております。
6. 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、刑事弁護と行政訴訟(特に在留関連)を主たる注力分野としております。
- 事例D-1:在留資格を失った状態で逮捕・起訴された方について、当局との交渉により身分関係の手続を実現し、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況の中で有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することで、一度の申請で在留特別許可を獲得いたしました。
- 事例D-2:不法就労助長罪に問われ退去強制の危機に置かれた女性の救済のため、責任主義の射程を問う訴訟を係争中です。同罪の認定を受けた事案において、前例のない在留特別許可を獲得した実績もございます。
- 事例G-1:ストーカー規制法に基づく警告処分の取消し等を求めた控訴事件において、警告が単なる行政指導ではなく法的効果を有するとして、処分性を正面から認める判決を獲得いたしました(令和6年6月26日大阪高裁判決)。行政の行為を司法審査の場に乗せるという作業は、入管分野でも同じ構えで臨んでおります。
当事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、依頼者ご本人のために動く通訳をご利用いただけます。在留資格の更新・変更等の手続については、提携の行政書士と連携してご対応いたします。
7. 結語
行政の体制が強化されること自体は、政策の当否として論じられるべき事柄です。ここで申し上げたいのは、それとは別に、一人ひとりの手続がどう扱われるかという問題が常に残るということです。統計上の数字がどれだけ動いても、目の前の一件は、その方にとっての全てです。制度が大きく動く時期だからこそ、個別の事情を丁寧に主張することの意味は、むしろ増していると考えております。
本記事は2026年8月時点の報道及び公表情報に基づく一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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東京を中心に刑事事件の弁護
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