「示談すれば不起訴になる」は本当か|保護法益の違いから見る、示談が効く事件と効かない事件
2026/08/03
外国人の刑事事件についてご相談をいただくとき、最も多く耳にする言葉のひとつが、「示談さえできれば不起訴になると聞いた」というものです。この理解は、半分は正しく、半分は危険です。示談が決定的に効く事件と、示談という手段がそもそも用意されていない事件があるからです。その分かれ目は、罪名の重さではなく、その罪が何を守ろうとしているのか、つまり保護法益の性質にあります。本記事は、この区別を整理することで、ご自身の事件でどの弁護活動が意味を持つのかを見極める手がかりをご提供いたします。
本記事の要点
- 示談が強く効くのは、被害者個人の利益を守る罪(個人的法益に対する罪)である
- 薬物、入管法違反、無登録営業のように社会全体の秩序を守る罪では、示談という枠組み自体が存在しない
- 示談が成立しても、被害が重大な場合や常習性がある場合は、起訴されることがある
- 外国籍の方の場合、不起訴を得ることが在留資格を守る最大の手段である
- 示談が使えない類型では、別の弁護活動(故意の否認、関与の程度の切り分け、環境調整)に資源を集中させる
1. 示談は、なぜ処分に影響するのか
検察官は、犯罪の嫌疑が認められる場合でも、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重及び情状、犯罪後の情況を考慮して、公訴を提起しないことができます(刑事訴訟法248条。いわゆる起訴猶予)。示談の成立と被害弁償は、この「犯罪後の情況」の中核をなす事情です。被害が回復され、被害者が処罰を望まない意思を示せば、あえて刑事裁判にかける必要性は下がります。窃盗、傷害、器物損壊、詐欺といった、被害者個人の財産や身体を守る罪では、この効果が大きく働きます。
2. 示談という枠組みが存在しない事件
他方、次のような罪では、示談という手段自体が用意されていません。誰が被害者なのかを特定できないからです。
- 覚醒剤取締法違反・大麻取締法違反等の薬物事犯(保護法益は国民の保健衛生)
- 入管法違反(不法残留、資格外活動、不法就労助長等。保護法益は出入国管理の秩序)
- 銀行法違反・資金決済法違反(保護法益は金融秩序と犯罪収益移転の防止)
- 文書偽造、電磁的公正証書原本不実記録(保護法益は文書・公的記録に対する社会の信用)
- 道路交通法違反のうち、無免許運転や酒気帯び運転(保護法益は交通の安全)
これらの事件で「示談をしたい」と考えても、相手がいません。この類型で意味を持つのは、故意の有無を争うこと、関与の程度を切り分けること、常習性がないことを示すこと、そして再発を防ぐ生活環境を具体的に整えることです。弁護活動の設計そのものが変わります。
3. 外国人事件では、この区別がさらに重い意味を持つ
入管法24条4号チは、薬物関係の罪で処罰された者を、刑の重さを問わず退去強制事由と定めています。すなわち、薬物事犯では、罰金であっても、執行猶予であっても、退去強制の対象になり得るのです。しかも、示談という緩和手段が使えません。この二つが重なるため、薬物事犯における起訴前の弁護活動は、他のどの類型よりも切迫したものになります。
他方、傷害や窃盗のような個人的法益に対する罪では、示談の成立によって不起訴を得られる可能性が相応にあります。不起訴となれば有罪判決が存在せず、入管法24条4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑)の適用の前提を欠きます。ここに、当事務所が執行猶予ではなく不起訴処分を第一目標に据える理由があります。
4. 示談が成立しても起訴されることがある
示談は万能ではありません。被害が重大な場合、同種前科がある場合、組織的な犯行の一部である場合には、示談が成立していても公判請求されることがあります。また、示談書の文言が不十分であると、宥恕の意思が明確でないと評価され、期待した効果を得られないことがあります。示談は、成立させることだけでなく、どのような内容で成立させるかが重要です。
5. 入管手続における「示談」の位置付け
在留特別許可の判断において、被害弁償の事実は素行に関する事情の一つとして考慮され得ます。もっとも、社会的法益を侵害する類型では、被害弁償によって素行不良の評価が解消されにくいという構造があります。当事務所は、この構造を前提としつつ、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた入管実務そのものに疑問を投げかけ、責任主義の射程を行政処分に及ぼすべきであるとの主張を掲げた訴訟を係争中です(事例D-2)。
6. 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、事件ごとの保護法益を見極めた上で弁護方針を組み立てることを、実務の出発点としております。
- 事例B-1:特殊詐欺の出し子行為に関わったとされた20代女性について、主観的事情を総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。
- 事例B-2:特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べ対応を徹底し、全件について不起訴処分を獲得いたしました。
- 事例G-2:深夜の盗撮被害事件において、被害者代理人として刑事告訴と示談交渉を担当し、300万円の慰謝料の支払による示談を成立させました。被害者側の交渉を数多く経験していることは、加害者側で示談を組み立てる際に、何が被害者にとって意味を持つのかを理解する上で役立っております。
当事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、示談交渉の場面でも、依頼者ご本人の言葉を正確に届けることができます。刑事手続後の在留資格の手続は、提携の行政書士と連携してご対応いたします。
7. 結語
「示談すれば大丈夫」という言葉は、正しく使えば力になり、誤って信じれば時間を失わせます。ご自身の事件が、被害者のいる事件なのか、社会の秩序を守るための事件なのか。この一点を確かめるだけで、限られた勾留期間の使い方は大きく変わります。まずはその見極めから、ご一緒させていただければと存じます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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