「口座を貸しただけ」で資金洗浄の共犯とされた方へ|組織的犯罪処罰法・犯罪収益移転防止法と在留資格
2026/08/03
特殊詐欺や投資詐欺の被害金を、複数の口座を経由させて出所を分からなくしたとして、中国籍の方が逮捕・再逮捕されたという報道が、この一年ほどの間に繰り返し伝えられています。金塊の売却益や、不動産の購入資金として流された事案も報じられました。こうした事件で身柄を拘束される方の中には、詐欺の場面には一切関わっておらず、「知人に頼まれて口座を作った」「会社の指示で送金しただけ」という説明をされる方が少なくありません。本記事は、そのような立場に置かれたご本人とご家族に向けて、資金洗浄事件の法律構成と、在留資格への影響を整理いたします。
本記事の要点
- 資金洗浄は、詐欺罪とは別に、組織的犯罪処罰法10条(犯罪収益等隠匿)等で独立に立件される
- 口座の譲渡・貸与それ自体も、犯罪収益移転防止法28条により処罰の対象となり得る
- 「知らなかった」という主張は、未必の故意の有無という形で厳しく検討される
- 詐欺・組織的犯罪処罰法違反で1年を超える拘禁刑となれば、入管法24条4号リの退去強制事由に直結する
- 罰金や略式命令で終わった場合でも、在留期間の更新審査で素行が問題とされる経路が残る
1. 資金洗浄事件で問われる三つの法律
報道で「マネーロンダリング」と呼ばれる行為は、日本法では主として次の三つの枠組みで処理されます。第一に、組織的犯罪処罰法10条の犯罪収益等隠匿罪です。詐欺等の犯罪によって得た収益について、その取得や処分について事実を仮装し、又は収益を隠匿する行為が対象となり、10年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金、あるいはその併科とされています。第二に、犯罪収益移転防止法28条です。他人になりすまして預貯金口座を利用する目的で口座を譲り受け、又は譲り渡す行為等が処罰されます。第三に、詐欺罪(刑法246条)そのものの共犯としての立件です。
重要なのは、これらが重ねて成立し得るという点です。詐欺の実行行為に関与していないから軽い、という単純な話ではありません。
2. 「知らなかった」は通じないのか
通じないわけではありません。ただし、日本の刑事実務は、確定的な認識がなくとも、犯罪収益であるかもしれないと思いながらあえて行為に及んだ場合には、未必の故意があるとして故意を認めます。そのため、捜査機関は、報酬の異常な高さ、送金の不自然な分割、身分証の写真の提供、連絡手段の秘匿性といった間接事実を積み上げて、認識があったと主張してきます。
弁護活動としては、この間接事実の一つひとつについて、別の合理的な説明が成り立つかを検討します。中国国内から日本への送金には外貨管理上の制約があるため、親族や知人の口座を経由して資金を動かす慣行が一定程度存在します。日本の捜査機関から見れば不自然な資金の流れも、当事者の生活実態から見れば説明が付く場合があるのです。この生活実態の翻訳こそが、外国人事件の弁護人の役割です。
3. 在留資格への影響
組織的犯罪処罰法違反や詐欺罪で有罪となり、1年を超える拘禁刑が言い渡されれば、入管法24条4号リの退去強制事由に該当します。執行猶予が付されても、当然に除外されるとは限りません。他方、口座の譲渡について犯罪収益移転防止法違反のみで略式命令による罰金となった場合には、直ちに退去強制事由に該当するとは限りませんが、在留期間の更新申請において素行が善良であるとは認められないと判断され、更新が不許可となる可能性が残ります。刑事処分の軽重と在留への影響は、必ずしも比例しません。
4. 目標は不起訴処分に置く
以上の構造から、当事務所は、この類型の事件についても不起訴処分の獲得を第一目標として弁護方針を立てます。具体的には、勾留期間中に、口座開設の経緯、報酬の実態、指示者との関係、資金の性質について当事者が有していた認識を、客観証拠と整合する形で整理し、検察官に対して意見書として提出します。被害者が特定できる事案では、被害弁償の可能性も並行して検討します。
また、当事務所は、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた入管実務に対し、責任主義の射程を行政処分にも及ぼすべきであるとの主張を掲げ、現在も訴訟を係争中です(事例D-2)。認識の有無を刑事段階で徹底して争い、その記録を残しておくことは、将来の入管手続における主張の土台となります。
5. 初動対応の三点
- 黙秘権の行使:資金の流れは膨大であり、記憶に頼った説明はかえって矛盾を生みます。まず弁護人と記録を確認してから話す、という順序を守ってください。
- 早期の弁護人選任:口座の凍結、関係者への波及、再逮捕の見通しなど、初期に把握すべき情報が多い類型です。
- 通訳の質:金融取引の説明は専門用語を含みます。訳出が不正確なまま調書が作られると、後から訂正することは容易ではありません。
6. 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護に取り組んでまいりました。
- 事例B-1:特殊詐欺の出し子行為に関わったとされた20代女性について、指示役からの働きかけの実態や犯意の不存在といった主観的事情を総合的に主張し、不起訴処分を獲得いたしました。資金の流れの末端に置かれた方の事案として、本記事の類型と重なります。
- 事例B-2:特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案において、取調べ対応を徹底し、全件について不起訴処分を獲得いたしました。
- 事例C-1:卸業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案では、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を獲得いたしました。資金の追跡という同じ技術は、加害者とされた側の弁護においても、資金の性質を解き明かすために用いられます。
当事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関側の通訳とは別に、依頼者のために動く通訳をご利用いただけます。刑事手続後の在留資格の更新・変更については提携の行政書士と連携し、退去強制手続に進んだ場合には、不法就労助長罪の認定を受けた事案において前例のない在留特別許可を獲得した経験を踏まえて対応いたします。
7. 結語
資金洗浄事件の捜査は、口座の記録という動かしがたい客観証拠から出発します。だからこそ、争うべきは記録の存在ではなく、その記録が当事者の頭の中で何を意味していたかという一点です。ここを丁寧に示すことができれば、結論は変わり得ます。ご家族におかれては、口座の名義人であるというだけで諦めることなく、まずは事実関係を整理する機会をお作りいただければと存じます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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