「指示役」として逮捕された中国籍の方とご家族へ|匿名・流動型犯罪グループと強盗未遂事件の弁護
2026/08/03
東京都内の会社事務所に何者かが立ち入り、金品を奪おうとしたとされる事件について、実行役とは別に、匿名・流動型犯罪グループ(いわゆる「トクリュウ」)の指示役とみられる中国籍の男性が建造物侵入・強盗未遂の疑いで逮捕されたとの報道がございました。報道によれば、指示役とされた人物は、秘匿性の高い通信アプリを用いて実行役に具体的な指示を送っていたとされています。本記事は、この報道を素材としつつ、個別の事件そのものを論評するものではなく、同じように「指示役」「幹部」と報じられた立場で身柄を拘束された外国籍の方と、そのご家族が直面する問題を一般論として整理するものです。
本記事の要点
- 実行行為を分担していなくても、共謀共同正犯として実行役と同じ重さで処罰され得る
- 他方、指示役の認定の中核は「どの範囲の犯罪を認識し、意思を通じ合っていたか」であり、ここは実際に争える論点である
- 強盗未遂は法定刑が重く、有罪となれば入管法24条4号リの退去強制事由に直結しやすい
- 執行猶予判決を得ても在留を維持できない場合があるため、起訴前の不起訴処分獲得を第一目標に据える
- 通信アプリのやり取りの読み方と、通訳の質が、事実認定を大きく左右する
1. 「指示役」はどのような法律構成で立件されるのか
報道で「指示役」と呼ばれる立場は、法律上は共謀共同正犯(刑法60条)として構成されるのが通常です。自ら現場に立ち入らず、金品に手を触れていなくても、他人と犯罪の実行を共謀し、その共謀に基づいて実行行為が行われた以上、実行者と同じく正犯としての責任を問われます。強盗未遂は刑法243条・236条により、既遂と同じ法定刑の枠内で処断され、5年以上の拘禁刑という重い法定刑が出発点となります。未遂であること、傷害の結果が生じていないことは量刑上有利な事情ですが、それ自体で軽微な事件になるわけではありません。
他方で、共謀共同正犯の成立には、単に連絡を取り合っていたという外形だけでは足りず、いかなる犯罪をどの範囲で実現する意思を通じ合っていたかという主観的な要素の認定が不可欠です。ここが弁護活動の主戦場となります。
2. 通信アプリの記録は「そのまま」証拠になるわけではない
秘匿性の高い通信アプリでのやり取りが押収された場合、捜査機関はその断片を並べて共謀の存在を主張します。もっとも、実際の記録には、中国語の口語表現、隠語、業界内の慣用句、そして翻訳を経た日本語訳が混在していることが少なくありません。誰が誰に向けて発したのか、どの段階の話なのか、金銭の趣旨は何かといった文脈を欠いたまま、訳文の一部だけが切り取られると、実態とかけ離れた共謀像が組み立てられてしまいます。
したがって弁護人としては、押収データの原文(中国語)と捜査機関側の訳文を突き合わせ、訳出の適否、時系列、発言の主体、抜け落ちたやり取りを丁寧に検証する作業が欠かせません。この作業には、法律用語と中国語の双方に通じた通訳の関与が事実上不可欠です。
3. 若年の当事者・特定少年の場合の留意点
報道された類型では、18歳・19歳の外国籍の方が「指示役」として立件されることがあります。18歳・19歳は少年法上の特定少年として扱われ、原則として家庭裁判所へ送致されますが、強盗のような重大事件では検察官送致(いわゆる逆送)を経て、成人と同様の公開の刑事裁判に付される可能性があります。日本の少年手続は中国の制度と大きく異なるため、ご家族が状況を正確に理解できないまま時間が過ぎてしまうことが少なくありません。付添人・弁護人を早期に選任し、家庭裁判所調査官の調査に向けた環境調整(学業・就労・監督者の確保)を進めることが、結論を左右します。
4. 外国人事件特有のリスク|強盗未遂と退去強制
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由として定めています。強盗未遂で有罪となった場合、宣告刑が1年を超えることは十分にあり得ますし、執行猶予が付されたとしても、除外の扱いを受けられるかは判決の内容次第です。「執行猶予が付いたのだから日本に居られる」という説明は、入管法24条各号の構造を号ごとに精査していない、危うい説明です。
さらに、退去強制に至らない場合でも、在留期間の更新時に素行が問題とされ、更新が認められないという経路(入管法21条3項、在留資格の変更・更新のガイドライン第4項)が別に存在します。刑事処分の軽重だけを見て安心することはできません。
5. だからこそ、目標は「不起訴処分」に置く
当事務所は、外国人の刑事事件について、執行猶予判決の獲得ではなく、起訴前段階での不起訴処分の獲得を最優先の目標として弁護方針を組み立てています。不起訴であれば有罪判決が存在しないため、24条4号リの適用の前提を欠きます。共謀の範囲を争う事件では、勾留期間中に、当事者が認識していた事実の範囲、報酬の趣旨、参加の経緯、離脱の有無を証拠に基づいて整理し、検察官に対して意見書を提出する作業が、そのまま在留資格を守る作業になります。
なお、当事務所は、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた入管実務そのものに疑問を投げかけ、責任主義の射程を行政処分に及ぼすべきであるとの主張を掲げた訴訟を現在も係争中です(事例D-2)。刑事段階で認識の範囲を争って残した記録は、仮に刑事で不利な結論となった場合にも、入管手続での第二・第三の防御線の土台になります。
6. 初動で押さえておきたい3点
- 黙秘権の行使:組織性が疑われる事件では、断片的な供述が他の共犯者の供述と結び付けられ、意図しない共謀の輪郭が作られてしまうことがあります。弁護人と方針を決めるまでは、安易に供述しないことが重要です。
- 早期の弁護人選任:勾留の可否が決まるまでの72時間、そして勾留期間中の20日間が勝負どころです。当番弁護士制度の利用も可能ですが、継続的な弁護が必要な事件では私選弁護人の選任をご検討ください。
- 通訳の質:捜査機関が用意する通訳は、あくまで捜査のための通訳です。ニュアンスのずれが供述調書に固定されると、後の公判で取り返すことは容易ではありません。
7. 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。
- 事例E-1:国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件について、多数の対応実績がございます。組織性が争点となる事件では、証拠構造の分析と役割の切り分けが結論を分けます。
- 事例B-2:特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、取調べへの対応を徹底し、不当な取調べに対しては抗議を重ねた上で主張立証を行い、全件について不起訴処分を獲得いたしました。
- 事例D-1:在留資格を失った状態で逮捕・起訴された方について、当局との交渉により婚姻・認知の手続を実現し、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという困難な状況の下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することで、一度の申請で在留特別許可を獲得いたしました。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続全般でご利用いただけます。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士と連携し、ワンストップでご対応いたします。万一、退去強制手続に進んだ場合にも、不法就労助長罪の認定を受けた事案において前例のない在留特別許可を獲得した実績を踏まえ、入管手続まで一貫して対応いたします。
8. 結語
「指示を出しただけ」「頼まれて連絡役をしただけ」という言い分は、日本の刑事裁判では、そのままでは通りません。しかし、どこまでを認識していたのかという境界線は、記録の一つひとつを丁寧に読み解くことでしか描けないものであり、そこにこそ弁護人の仕事があります。ご家族が最初に取るべき行動は、悲観することでも、慌てて事実を認めさせることでもなく、記録が固まってしまう前に弁護人を立てることです。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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東京を中心に刑事事件の弁護
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