在留資格取消し制度(入管法22条の4)の構造|退去強制とは別の、もう一つの入口
2026/07/31
外国人の刑事事件を扱うとき、多くの弁護人が確認するのは入管法24条の退去強制事由です。しかし、在留資格を失う経路はそれだけではありません。入管法22条の4が定める在留資格の取消しは、退去強制とは別個の制度として、独立した要件のもとで在留資格そのものを消滅させます。刑事処分の見通しだけを立てて安心していると、思わぬ形で足元が崩れることがあります。この記事は、同条の構造を号のまとまりごとに整理したものです。
本記事の要点
- 在留資格取消しは、退去強制とは別の制度であり、有罪判決を前提としません。
- 取消事由は大きく、不正な手段による許可取得の類型、活動の不実施の類型、住居地の届出に関する類型に分かれます。
- 在留資格が取り消されると、出国のための期間の指定を受けるか、直ちに退去強制手続へ進むかが分かれます。
- 取消しの前には意見の聴取の手続があり、ここでの主張が結論を左右します。
- 刑事事件と並行して、在留資格取消しのリスクを検討する必要があります。
1 退去強制と何が違うのか
入管法24条の退去強制は、一定の事由に該当する外国人を国外に退去させる手続です。刑罰法令違反に関する号では、有罪判決や刑の内容が要件とされています。これに対し、入管法22条の4の在留資格取消しは、そもそも許可を与えるべきでなかった場合や、在留資格の前提となる活動が失われた場合に、許可そのものを取り消す制度です。
したがって、刑事事件で不起訴となった場合であっても、在留資格の取消しが問題となる場面はあり得ます。この点は見落とされやすく、当事務所が刑事弁護と入管対応を一体として設計する理由の一つです。
2 第一の類型|偽りその他不正の手段による許可の取得
同条1項1号から4号までは、偽りその他不正の手段によって上陸許可や在留資格の変更・在留期間の更新の許可を受けた場合を、取消事由としています。虚偽の書類を提出して在留資格を得た場合、経歴や雇用の実態を偽って申請した場合などが、これにあたります。
刑事事件との関係では、偽造文書に関する事件、虚偽の届出に関する事件がここに直結します。刑事手続で処分が軽く済んだとしても、申請の過程で用いられた書類に虚偽があれば、在留資格の取消しは別途検討されます。
3 第二の類型|在留資格に応じた活動を行っていないこと
同項5号は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合を取消事由としています。ただし、正当な理由がある場合は除かれます。留学の在留資格で在籍していた学校を退学した場合、就労資格で勤務先を退職した後に次の就労先が決まらない場合などが典型です。
刑事事件との関係で重要なのは、身柄拘束が長期化した場合です。勾留が数か月に及べば、学校を除籍され、あるいは勤務先を解雇されることがあります。この場合、刑事処分の内容にかかわらず、活動の不実施として取消しが検討される可能性があります。身柄拘束が正当な理由にあたるかどうかは、事案の経緯によって評価が分かれ得るところであり、弁護人としては早い段階から在籍・在職の維持に向けた働きかけを行う必要があります。
また、同項6号は、日本人の配偶者等または永住者の配偶者等の在留資格をお持ちの方について、配偶者としての活動を継続して6か月以上行っていない場合を取消事由としています。婚姻関係が実質的に破綻している場合が想定されていますが、身柄拘束による別居がこれにあたるかは、事情の説明が必要になる場面です。
4 第三の類型|住居地の届出に関するもの
同項7号以下は、中長期在留者の住居地の届出に関する義務違反を取消事由としています。新たに在留資格を得た後に定められた期間内に住居地を届け出ない場合、住居地から退去した後に新たな住居地を届け出ない場合、虚偽の住居地を届け出た場合が含まれます。
刑事事件では、逮捕により住居を失う方が少なくありません。身柄拘束中に届出の期限が経過してしまうこともあります。ご家族や弁護人が状況を把握し、必要な届出や説明を行うことが、ここでは実際的な意味を持ちます。
なお、令和6年に成立した改正入管法により、永住者に関する在留資格取消しの制度に変更が加えられています。施行時期を含め、最新の運用は出入国在留管理庁の公表情報でご確認ください。
5 意見の聴取という手続
在留資格の取消しにあたっては、あらかじめ意見の聴取が行われます(入管法22条の4第2項以下)。これは、対象となる方に事情を説明する機会を与える手続であり、代理人が同席することもできます。
この場で何を述べるかは、結論に直結します。活動を行っていなかった期間について正当な理由があること、届出が遅れた事情、婚姻関係の実態、日本での生活基盤といった事情を、資料とともに具体的に示す必要があります。書面の準備なしに臨むべき手続ではありません。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、入管手続について、行政手続と行政訴訟の双方の観点から取り組んでまいりました。
在留特別許可については、観光目的で来日した方が在留資格を失い不法滞在で起訴された事案において、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することで、在留特別許可を獲得した実績がございます(事例D-1)。行政庁が過去に許可した事例との均衡は、平等な取扱いを求める上で重要な手がかりになります。
また、退去強制事由の判断に故意・過失を要件とすべきかという論点を正面から問う訴訟を係争中です(事例D-2)。行政処分に責任主義の考え方がどこまで及ぶかという問題は、なお開かれています。
行政処分の効力を争う訴訟についても、ストーカー規制法に基づく警告処分の取消し等を求めた控訴事件において、警告が単なる行政指導にとどまらない法的効果を持つとして、行政庁側の主張を排斥する判決を得た実績がございます(事例G-1、令和6年6月26日大阪高等裁判所判決)。処分性という入口の議論を丁寧に組み立てることが、救済の道を開くことがあります。
当事務所では、松村大介弁護士が全工程を直接担当いたします。中国語専属通訳が常駐しており、意見の聴取の場面でも正確な意思疎通を確保いたします。
おわりに
在留資格の取消しは、刑事処分の陰に隠れて見落とされがちな制度です。しかし、その効果は在留の基盤そのものを失わせるという点で、退去強制に劣らず重大です。刑事事件の見通しを立てる際には、24条だけでなく22条の4も併せて確認されることをお勧めいたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年7月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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