金融機関からの融資金詐欺で逮捕されたら|在日中国人経営者と「経営・管理」の在留資格
2026/07/31
事業資金の融資を受ける際の申告内容をめぐって、詐欺罪で立件される事案が増えています。報道によれば、金融機関から9000万円をだまし取った疑いで、中国籍の男が再逮捕された事案も伝えられています。決算書の数字、取引先との契約書、資金使途の説明といった申込書類の内容が、後になって「虚偽」と評価されると、民事上の債務不履行にとどまらず、刑事事件として扱われることになります。この記事は、在日中国人の経営者の方とそのご家族に向けて、争点の所在と在留資格への影響を整理したものです。
本記事の要点
- 融資申込時の虚偽の申告は、詐欺罪(刑法246条1項)として立件され得ます。
- 争点は、申告内容の不正確さそのものではなく、返済意思・返済能力に関する認識、すなわち欺罔の故意です。
- 被害額が大きい事案では、返済の一部履行があっても実刑が視野に入ります。
- 経営・管理の在留資格をお持ちの場合、刑事処分に加え、事業の実態が失われることによる在留資格上の問題も生じます。
- 刑事弁護と入管対応、そして会社の維持を、同時並行で設計する必要があります。
1 どこからが詐欺になるのか
融資の申込みにおいて、実績や資産の説明を有利に組み立てることは、日常的に行われています。では、どこからが犯罪になるのでしょうか。結論としては、当初から返済する意思がなかった場合、または返済が不可能であることを認識しながら融資を申し込んだ場合に、詐欺罪の欺罔行為があったと評価されます。決算書の数字が実態と異なっていたという事実だけでは、直ちに詐欺にはなりません。
とはいえ、実務上は逆から推認されることが多い点に注意が必要です。融資実行後まもなく返済が滞った、資金が申告した使途とは異なる形で流出した、複数の金融機関から同時期に借入れがあった、といった事情があると、当初から返済意思がなかったと推認されやすくなります。弁護活動は、この推認の連鎖を客観的資料で切ることに集中します。
2 中国系企業の経営者に特有の事情
在日中国人の経営者の方の事案では、二つの事情が争点を複雑にします。一つは、資金が中国本土との間を往復している場合です。本土の関係会社からの入金や、家族間の資金移動が、日本側から見ると使途不明の動きに映ることがあります。もう一つは、決算書類の作成を税理士や会計事務所に委ねており、内容を十分に確認していなかった場合です。
後者の場合、書類作成の経緯を丁寧にたどることが重要です。誰が数字を作り、誰がどこまで確認していたのかによって、故意の評価は変わります。当事務所が刑事段階から会計資料の精査を重視するのは、そのためです。
3 在留資格への影響は「刑」と「事業」の二方向
第一の影響は刑事処分です。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑であり、被害額が数千万円規模の事案では実刑となる可能性があります。実刑となれば入管法24条4号リの退去強制事由に該当し得ます。仮に執行猶予が付いた場合でも、前科は残り、在留期間更新の審査(入管法21条)における素行の評価に影響します。
第二の影響は、事業そのものに関わります。経営・管理の在留資格は、実体のある事業を継続して経営していることを前提としています。経営者が長期間身柄を拘束されれば、取引は止まり、従業員は離れ、事務所の維持も難しくなります。刑事処分を待たずに事業の実態が失われれば、在留資格該当性そのものが問題となります。
したがって、身柄拘束中に会社をどう維持するかは、弁護活動の一部です。代表者の職務を誰が代行するか、口座と契約をどう管理するか、従業員への説明をどうするかを、早い段階で整理しておく必要があります。
4 不起訴処分を最優先目標に据える理由
経済事件では、被害弁償の有無が処分に大きく影響します。詐欺は個人的法益に対する罪であり、被害の回復により違法性の評価が個別的に緩和される余地があります。金融機関との間で返済に関する合意が成立し、実際に履行が進んでいれば、起訴猶予の判断は現実的な選択肢になります。
外国人事件においては、執行猶予判決では在留の基盤を守れません。したがって、勾留期間中に、返済計画の策定、資金の手当て、被害金融機関との協議、検察官への意見書提出を集中的に進めます。中国本土からの資金移動が必要な場合は、外貨管理規制による時間的制約を織り込んだ計画が欠かせません。
5 初動の三つのポイント
- 会計資料と通帳を保全すること。押収されていない資料は、ご家族の協力により早期に確保します。
- 取調べでは、記憶に基づかない数字を答えないこと。経理を他人に委ねていた場合は、その事実を正確に述べます。
- 通訳を介した専門的な説明には、ずれが生じやすいことを意識すること。会計・金融の用語は特に注意が必要です。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、外国人刑事弁護に加え、企業をめぐる紛争にも対応してまいりました。
経済事件の分野では、卸売業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案において、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を大きく上回る7500万円の解決金を獲得した実績がございます(事例C-1)。加害者側・被害者側の双方の立場から経済事件を扱ってきた経験は、被害回復の実現可能性を見極める上で役立ちます。
会社をめぐる紛争についても、虚偽の株主総会決議による代表取締役解任事件において、決議の不存在を主張し、東京地方裁判所・東京高等裁判所のいずれにおいても勝訴した実績がございます(事例H-1)。経営者の身柄拘束中に社内の支配権が動く事案では、こうした経験が意味を持ちます。
当事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。中国語専属通訳が常駐しており、会計・金融に関する専門的なやり取りにも対応いたします。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともに対応いたします。
おわりに
経営者の刑事事件では、ご本人の刑事責任だけでなく、会社と従業員、そしてご家族の生活が同時に危機に立たされます。守るべきものが複数あるからこそ、優先順位を早い段階で決めることが必要です。まずは、事業の継続に必要な最低限の手当てと、刑事弁護の方針とを、同じテーブルの上で検討されることをお勧めいたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年7月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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