警察官を装う特殊詐欺の「かけ子」で逮捕されたら|電話をかけた側の弁護と在留資格
2026/07/31
警察官や検察官を名乗って電話をかけ、口座への振込みを求める手口の摘発が相次いでいます。報道によれば、中国籍の男が、警察官を装う電話で女性に約40万円を振り込ませたとされる事案で逮捕されたと伝えられています。この類型で身柄を取られるのは、現金を受け取る受け子や引き出す出し子だけではありません。電話をかける役、いわゆる「かけ子」も詐欺罪の実行行為者として捜査対象になります。ご家族からは「アルバイトの内容も分からずに電話をしていただけだと聞いている」というご相談を頻繁にいただきます。この記事は、その段階で何をすべきかを整理したものです。
本記事の要点
- 電話をかける行為そのものが詐欺の実行行為とされ、詐欺罪(刑法246条)の共同正犯に問われます。
- 被害者が振り込まなかった場合でも、詐欺未遂罪(刑法250条)として立件され得ます。
- 組織性が疑われると、組織的犯罪処罰法の適用や、複数回の再逮捕による長期の身柄拘束が生じます。
- 詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑であり、実刑となれば入管法24条4号リの退去強制事由に直結します。
- 争点の中心は、欺罔行為の内容をどこまで認識していたかという故意の範囲です。
1 「かけ子」はどのように評価されるか
詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させる犯罪です(刑法246条1項)。警察官を装って「あなたの口座が犯罪に使われている」と告げ、指定口座への送金を求める行為は、まさに欺く行為そのものです。したがって、電話をかけた者は、末端であっても実行行為を担った者として評価されます。現金を受け取る役より軽い、という前提は成り立ちません。
また、被害者が不審に思って振り込みを止めた場合でも、詐欺未遂罪(刑法250条)が成立します。「実際にはお金を受け取っていない」という事情は、量刑では考慮されますが、犯罪の成否を左右するものではありません。
2 中国語話者が巻き込まれやすい構造
この類型には、在日中国人の方が巻き込まれやすい二つの経路があります。一つは、SNS上で「電話での案内業務」「中国語ができる方歓迎」といった募集に応じ、拠点で台本を読まされる経路です。もう一つは、中国本土や東南アジアの拠点から日本国内へ発信され、日本国内では別の役割を担わされる経路です。いずれの場合も、本人は組織の全体像を知らされていません。
もっとも、全体像を知らなかったことが直ちに無罪につながるわけではありません。捜査機関は、報酬の異常な高さ、身分を偽ることへの認識、台本の内容、通信アプリの秘匿設定といった間接事実を積み上げて、未必の故意を立証しようとします。したがって弁護活動は、どの事実を認め、どの事実を争うのかを、最初の数日で明確に組み立てる必要があります。
3 逮捕後の見通しと再逮捕
逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、24時間以内に勾留請求がなされ、認められれば原則10日、延長で最大20日間の身柄拘束が続きます。特殊詐欺事案では、被害者ごとに事件が分けられ、勾留満期のたびに再逮捕される運用が広く行われています。結果として、身柄拘束が数か月に及ぶことも珍しくありません。
接見禁止決定が付くことも多く、ご家族が面会できない状態が続きます。この間、外部との連絡窓口となれるのは弁護人だけです。ご家族への状況共有、勤務先や学校への対応、在留期間の満了が近い場合の入管への対応も、弁護人を通じて進めることになります。
4 在留資格への影響
詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑です。仮に実刑となれば、入管法24条4号リの「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」に該当し、退去強制手続へ進みます。同号には刑の全部の執行猶予を受けた場合の除外規定がありますが、その場合でも前科は残り、在留期間更新の審査(入管法21条)における素行の評価に直結します。留学や技術・人文知識・国際業務の在留資格をお持ちの方であれば、更新が認められない可能性を現実的に見込む必要があります。
だからこそ、当事務所は執行猶予ではなく不起訴処分の獲得を最優先目標に据えます。不起訴となれば前科は残らず、在留資格の審査における出発点がまったく異なります。
5 不起訴に向けて実際に行うこと
- 関与の経緯と認識の内容を、時系列で具体的に固めること。募集の文言、報酬の説明、指示の受け方を、記録として残します。
- 被害者への被害弁償と示談交渉。詐欺は個人的法益に対する罪であり、被害回復は処分に大きく影響します。
- 検察官に対する意見書の提出。犯情の軽重、従属的立場、更生環境を整理して示します。
- 身元引受体制の整備。在日のご家族・勤務先・支援者の協力書面を用意します。
6 初動の三つのポイント
第一に、黙秘権の意味を正確に理解すること。取調べでは「早く認めれば帰れる」という趣旨の説明を受けることがありますが、外国人事件では、認めることが在留資格の喪失に直結する場合があります。第二に、できる限り早期に弁護人を選任すること。第三に、通訳の質を確認することです。捜査機関が指定する通訳人は依頼者側の立場ではなく、微妙なニュアンスの違いが、そのまま不利な供述調書として残ることがあります。
7 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、特殊詐欺事案において、次のような解決実績を有しています。
特殊詐欺の出し子行為に関わったとされた20代女性について、指示役からの欺罔的・脅迫的状況や犯意の不存在を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例がございます(事例B-1)。また、特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、取調べへの対応と不当な取調べへの抗議を徹底し、全件について不起訴処分を獲得した事例もございます(事例B-2)。
万一、刑事手続の後に退去強制手続へ進んだ場合にも、入管当局の過去の許可事例の分析を通じて在留特別許可を獲得した実績がございます(事例D-1)。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともに対応いたします。
当事務所では、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を刑事手続全般にわたってご利用いただけます。
おわりに
「電話をかけていただけ」という説明は、法的には決して軽い意味を持ちません。しかし同時に、その方が組織の中でどのような立場に置かれ、何を知らされていなかったのかは、丁寧に立証すれば必ず記録に残せます。最初の数日をどう使うかで、結論は変わり得ます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年7月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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