「示談が成立すれば入管も問題ない」という誤解|示談の効果が及ぶ範囲を正確に知る
2026/07/21
刑事事件において、被害者との示談が成立することの意味は大きなものです。処罰を求めない旨の意思表示(宥恕)を得られれば、起訴猶予による不起訴処分の可能性は大きく高まります。この点に異論はございません。
しかし、外国籍の方の事案では、「示談ができたのだから、入管の関係も問題ない」という理解が、しばしば実情とずれてまいります。示談の効果がどこまで及び、どこから先には及ばないのか。この記事では、その線引きを整理いたします(2026年7月時点の法令に基づきます)。
示談が強く効くのは「個人的法益」を侵害する類型です
まず、示談が効果を発揮する構造を確認いたします。示談によって解消されるのは、第一義的には、被害者個人に生じた損害と、被害者の処罰感情です。したがって、傷害、窃盗、詐欺、器物損壊、盗撮といった、個人の身体・財産・人格的利益を侵害する類型では、示談の成立が量刑や起訴・不起訴の判断に強く働きます。
反対に、社会的法益を侵害する類型、たとえば薬物事犯、不法就労助長、出入国管理秩序に関する違反、児童の保護に関わる犯罪などでは、そもそも個別の被害者が観念しにくく、示談によって解消されるべき対象が存在しないか、存在しても限定的です。この違いは、後の入管手続における評価にも、そのまま持ち越されてまいります。
入管手続における示談の位置づけ
在留資格の更新・変更の審査においては、素行が善良であることが考慮事項とされております(出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」)。ここで問われているのは、当該行為に表れた反社会性が解消されたと評価できるかどうかです。
個人的法益を侵害した類型であれば、被害弁償と示談の成立は、その反社会性が個別的に解消されたことを示す有力な資料となります。示談書、被害者の宥恕の意思表示、弁償の履行を示す資料は、入管に対する疎明資料としても実際に機能いたします。
しかし、社会的法益を侵害した類型では、示談があっても素行の評価が直ちに改善されるとは限りません。出入国在留管理庁が公表している不許可事例には、こうした構造の違いを示唆する事案が含まれております。すなわち、示談の有無だけを見て入管手続の見通しを立てることは適切でないということです。
退去強制事由には示談の効果は及びません
さらに明確に申し上げなければならない点がございます。入管法24条各号の退去強制事由は、示談の成立を除外事由としておりません。
たとえば同条4号チは、薬物関係法令に違反して有罪判決を受けた者を退去強制事由としており、そこには刑の全部の執行猶予を除外する規定すらございません。同条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、刑の全部の執行猶予が付された場合を除外しておりますが、示談の成否は要件ではございません。
つまり、示談が果たす役割は、有罪判決に至る前の段階、すなわち不起訴処分の獲得と、量刑の軽減にございます。いったん退去強制事由に該当する判決が確定してしまえば、示談が成立していたという事実は、退去強制事由の該当性そのものを覆すものではないのです。
このことは、示談交渉の時期を考える上で決定的な意味を持ちます。示談は、起訴された後に急いで行うものではなく、起訴前の限られた期間内に成立させ、不起訴処分の獲得に直結させるべきものです。
当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)では、被害者側・加害者側の双方の立場から、示談交渉に取り組んでまいりました。
被害者代理人として、深夜の盗撮被害事件において刑事告訴と示談交渉を担当し、300万円の慰謝料支払による示談を成立させた事例がございます。また、取り込み詐欺の被害に遭われた卸業の依頼者について、刑事告訴を端緒に相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得した事例もございます。被害者側の視点と相場感を実務として理解していることは、加害者側の立場で交渉に臨む際にも、現実的な着地点を見極める上で有用に働きます。
外国籍の方の事案では、示談の成立を入管手続に接続できる形で資料化しておくことが重要です。当事務所では、刑事手続の段階から、後の在留資格の更新・変更を見据えた資料の整備を意識して活動しております。松村大介弁護士が全工程を直接担当し、中国語専属通訳が常駐しております。刑事手続終了後の在留資格の手続については、提携の行政書士と連携して対応が可能です。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
おわりに
示談は強力な手段ですが、万能ではございません。効くところに、効く時期に打つことで、初めてその力を発揮いたします。ご自身の事案がどの類型に属し、示談によって何が解消され、何が残るのか。その見極めから、方針は組み立てられてまいります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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