「初犯だから大丈夫」は本当か|外国籍の方にとっての初犯の意味を整理する
2026/07/21
刑事事件のご相談で最もよくうかがう言葉の一つが、「初犯ですから、そんなに重くはならないですよね」というものです。日本人の事案であれば、この見立ては多くの場合それほど外れておりません。前科がないことは、起訴・不起訴の判断でも、量刑でも、有利に考慮される事情です。
しかし、外国籍の方の事案では、この見立てが通用しない場面がございます。それは、初犯であるという事情が、刑事手続の中では有利に働く一方、入管手続の中では必ずしも同じようには働かないからです。この記事では、その構造を整理いたします(2026年7月時点の法令に基づきます)。
刑事手続における初犯の意味
まず、刑事手続における初犯の位置づけを確認いたします。検察官が起訴・不起訴を判断するにあたっては、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を考慮するものとされております(刑事訴訟法248条)。前科がないことは、このうち「犯人の性格」や「情状」の評価において、有利に考慮される事情です。
したがって、初犯であり、被害が軽微で、被害弁償が済んでいるという条件が揃えば、起訴猶予による不起訴処分が現実的な選択肢となります。この点は、外国籍の方についても変わりません。
入管手続における評価は別の枠組みです
問題はここからです。在留資格の更新・変更の審査においては、出入国在留管理庁の「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」が、素行が善良であることを考慮事項の一つとして掲げております。ここで審査されるのは「前科の有無」ではなく、「素行の善良性」という、より幅のある評価です。
すなわち、初犯であっても、罰金刑を受けた事実、あるいは事案によっては不起訴となった事実であっても、その背景となった行為の性質によっては、素行の評価に影響が及び得るということです。出入国在留管理庁が公表している不許可事例を見ますと、執行猶予付きの判決を受けた方や、比較的軽微とされる罪名の方についても、在留期間の更新が認められなかった例が確認できます。
さらに重要なのは、退去強制事由の構造です。入管法24条4号チは、薬物関係法令に違反して有罪判決を受けた者を退去強制事由としており、この号には刑の全部の執行猶予が付された場合を除外する規定がございません。初犯であるかどうかも、条文上の要件とはされておりません。したがって、薬物事犯においては、初犯であり執行猶予が付いたとしても、退去強制の対象となり得るのです。
では、初犯であることをどう活かすのか
以上を踏まえますと、外国籍の方の事案において初犯という事情を最も有効に活かす方法は明らかです。すなわち、起訴前の段階で不起訴処分を獲得し、有罪判決という事実そのものを回避することです。
初犯であることは、起訴猶予を求める上で最も強い材料の一つです。そこに、被害弁償と示談の成立、再犯防止の具体的な環境、身元引受人の確保といった事情を積み重ねていく。この作業を、勾留期間という限られた時間の中で完結させる必要がございます。
「執行猶予を目指しましょう」という目標設定は、日本人の事案であれば十分に意味を持ちます。しかし外国籍の方の事案では、それでは在留資格を守れない場合があるのです。当事務所が、起訴前の不起訴処分の獲得を最優先の目標として弁護方針を組み立てているのは、この構造の違いによるものです。
当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。
特殊詐欺の出し子行為に関わったとされた20代の女性について、指示役からの働きかけの実態やご本人の犯意の不存在を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例がございます。初犯であるという事情を、単に述べるにとどめず、ご本人の置かれた状況の具体的な描写によって裏づけていく作業が、結果につながったものと考えております。
また、当事務所の松村大介弁護士は、退去強制事由の判断において故意・過失を要件とすべきではないかという論点を、現在係争中の事案において正面から問うております。従来の入管実務は、退去強制事由の該当性を客観的事実のみで判断してまいりましたが、責任主義の射程が行政処分にどこまで及ぶのかは、憲法上の重要な問題です。初犯であることや、ご本人の主観的事情が、行政処分の場面で正当に評価されるべきかという問題意識にも通じております。なお、当該事案は係争中であり、結論を予断するものではございません。
当事務所では、松村大介弁護士が全工程を直接担当し、中国語専属通訳が常駐しております。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
おわりに
初犯であるという事情は、間違いなく有利な材料です。ただし、それをどこで、どのように使うかによって、結果は変わってまいります。刑の重さだけを見るのではなく、その先の在留までを見据えて方針を立てることが、外国籍の方の刑事弁護には求められます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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