虚偽の住民異動届で立件されたら|「住んでいないのに住民票を移した」ことの重さ
2026/07/21
実際には居住していない住所に住民票を移したとして、外国籍の方が電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで立件される事案が報じられております。報道によれば、犯罪組織の関係者が身元を偽る手段として住民異動届を用いていたとされる事案もございます。
もっとも、この類型で立件される方の中には、組織的な意図とは無縁の方も含まれます。知人に頼まれて住所を貸した方、就労先の寮に住民票だけを置いた方、実際の生活拠点と住民票の所在が乖離したまま放置していた方など、事情はさまざまです。この記事は、そうした方とご家族に向けて、罪名の構造と在留への影響を整理するものです(2026年7月時点の法令に基づきます)。
「電磁的公正証書原本不実記録」という罪名
住民票は市区町村が電磁的記録として管理する公正証書の原本にあたります。虚偽の届出により、これに真実に反する記録をさせた場合、刑法157条1項の電磁的公正証書原本不実記録罪が成立し、法定刑は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金とされております。さらに、その記録を行使に供した場合には、同法158条の供用罪が問題となります。
ここで注意を要するのは、この罪名が「不実の記録をさせた」という行為に着目したものであり、それによって現実の損害が生じたかどうかを要件としていない点です。「誰にも迷惑をかけていない」という感覚は、日常の感覚としては理解できるものですが、罪の成否そのものを左右するものではございません。
もっとも、故意は要件です。生活実態がどこにあるかという評価は、必ずしも一義的ではありません。単身赴任、寮と自宅の併存、家族の居所と就労先の乖離など、住民基本台帳法上の「住所」の認定が微妙な事案は現実に存在いたします。そうした事案において、ご本人が虚偽であるとの認識を有していたかは、正面から争い得る点です。
在留資格への影響
この類型で最も注意を要するのは、量刑ではなく、在留資格の取消しの可能性です。
入管法22条の4は、偽りその他不正の手段により在留資格を取得した場合のほか、在留資格に応じた活動を継続して行っていない場合や、届出義務に違反した場合など、複数の取消事由を定めております。住民票の所在と実際の居住実態が乖離しているという事実は、在留資格に応じた活動の実態そのものへの疑義に接続しやすく、入管による事実調査の端緒となり得ます。
また、刑罰との関係では、5年以下の拘禁刑という法定刑からしますと、1年を超える実刑となる事案は限られると考えられますので、入管法24条4号リへの該当は多くの事案で回避可能です。しかしながら、在留期間の更新に際しては、素行要件(入管法21条3項、「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」)の審査を受けることとなり、罰金刑であっても不利に評価される可能性は残ります。
すなわち、この類型は「刑は重くないが、在留への波及は大きい」という構造を持っております。刑事手続だけを見ていては足りず、その先の入管手続を最初から視野に入れる必要がございます。
初動で押さえていただきたい三点
- 取調べに不用意に応じないこと。生活実態という評価を含む事柄について、「実際には住んでいませんでした」と一言で述べた調書は、その後の主張の幅を狭めます。
- 早期に弁護人を選任すること。届出の経緯や依頼された事情を示す資料は、時間の経過とともに散逸いたします。
- 通訳の質を確認すること。「住んでいた」「泊まっていた」「荷物を置いていた」の区別は、住所の認定に直結いたします。
当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、刑事弁護と入管手続の双方を一体的に扱う体制を採っております。
在留資格を巡る事案としては、観光目的で来日された相談者が日本人女性との間にお子様を授かりながら在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案において、婚姻・認知の手続が未了であったため当局から一旦不受理とされたところ、憲法的観点から当局と交渉して手続を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することで、在留特別許可を獲得した事例がございます。
また、企業法務の分野では、虚偽の株主総会決議による代表取締役解任事件において、決議は不存在であると主張し、東京地裁・東京高裁のいずれにおいても勝訴した事例がございます。書類上の記載と実態との乖離をどう立証するかという問題は、住民異動届の事案とも構造を共有しております。
当事務所では、松村大介弁護士が全工程を直接担当し、中国語専属通訳が常駐しております。刑事手続の終了後、在留資格の更新・変更が必要となる場合には、提携の行政書士と連携して対応いたします。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
おわりに
住民票をどこに置くかという事柄は、日常の中では手続の一つに過ぎません。しかし外国籍の方にとっては、在留資格の基礎となる生活実態の証明そのものに関わってまいります。心当たりのある状況に置かれている方は、事態が動く前に一度ご相談いただければと存じます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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