起訴猶予とは|嫌疑不十分との違い、前科と前歴、外国人の在留への影響を弁護士が解説
2026/09/10
起訴猶予とは、犯罪の嫌疑が認められる場合であっても、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を考慮した結果、検察官が訴追を必要としないと判断して公訴を提起しない処分をいう。(刑事訴訟法248条)
- 起訴猶予は不起訴処分の一種で、刑事裁判は開かれない。
- 有罪判決ではないため、前科にはならない。
- 捜査を受けた事実は前歴として記録が残る。
- 嫌疑不十分や嫌疑なしとは、不起訴の理由が異なる。
- 外国人には、退去強制事由との関係で大きな意味がある。
起訴猶予はどのような場合に選ばれるのか
証拠上は起訴できる事案であっても、あえて起訴しない扱いであり、検察官の広い裁量にゆだねられている。この仕組みは起訴便宜主義と呼ばれる。実務で重視されるのは、被害の程度と回復の有無、示談や被害弁償の成否、前科前歴、反省と再犯防止のための具体的な手当て、監督者の有無である。
嫌疑不十分や嫌疑なしとはどこが違うのか
いずれも不起訴処分である点は同じだが、理由が異なる。起訴猶予は嫌疑があることを前提とした処分であり、嫌疑不十分は証拠上犯罪の証明が十分でないという判断、嫌疑なしは被疑者が犯人でないことが明らかになった場合の判断である。争っている事件では、どの理由による不起訴かを意識しておく必要がある。
| 不起訴の理由 | 内容 | 前科 | 捜査記録 |
|---|---|---|---|
| 起訴猶予 | 嫌疑は認められるが、諸事情から訴追を必要としないと判断された場合 | ならない | 残る |
| 嫌疑不十分 | 証拠上、犯罪の証明が十分でない場合 | ならない | 残る |
| 嫌疑なし | 被疑者が犯人でないことが明らかな場合など | ならない | 残る |
| 罪とならず | 犯罪の要件を満たさない場合や、責任が否定される場合 | ならない | 残る |
| その他 | 親告罪で告訴がない場合、公訴時効が完成した場合など | ならない | 残る |
起訴猶予は前科になるのか
前科にはならない。前科は確定した有罪判決を受けたことを指すため、裁判を経ていない起訴猶予はこれに当たらない。もっとも、被疑者として捜査を受け不起訴処分となった記録は前歴として残る。前歴が勤務先や取引先に通知されることはないが、その後に別の事件で捜査を受けた場合には処分を決める資料として考慮される。前科にならないことと、記録が一切残らないこととは別である。
不起訴になったことをどのように示せるのか
検察官に請求すれば、公訴を提起しない処分をしたことを書面で明らかにしてもらうことができる。実務では不起訴処分告知書と呼ばれ、勤務先への説明や在留資格の申請に用いられる。ただし、告知書に不起訴の理由が記載されないのが通例であり、起訴猶予か嫌疑不十分かまでは読み取れないことが多い。理由の確認が必要なときは、弁護人を通じて担当検察官に問い合わせる。
起訴猶予はいつ決まり、そのために何ができるのか
身体拘束を受けている事件では、勾留の期限までに処分が決まるのが原則である。逮捕からの身体拘束は最大でも23日であり、その間に起訴、不起訴、処分保留での釈放のいずれかが選ばれる。示談交渉や被害弁償、身元引受人の確保は時間を要するため、身体拘束の初期から動くことが結論を左右する。被害者の連絡先は弁護人を通じてしか得られないのが通常であり、早期の選任が交渉の時間の確保につながる。外国人の事件では、通訳を交えた打合せを重ね、認識と異なる調書に署名しないよう確認していくことも欠かせない。
外国人が起訴猶予を得た場合、在留にどう影響するのか
起訴猶予は有罪判決ではないため、有罪判決を要件とする退去強制事由には当たらない。薬物に関する法令違反は、罰金や執行猶予付きの判決であっても有罪判決を受ければ退去強制事由に該当する(入管法24条4号チ)が、起訴猶予であればこれに当たらない。1年を超える拘禁刑の実刑を要件とする退去強制事由(同条4号リ)も問題にならず、薬物に関する上陸拒否事由(入管法5条1項5号)も有罪判決を前提とする。
もっとも、起訴猶予であれば在留が安泰になるわけではない。不法就労助長は行為そのもので退去強制事由に当たり(入管法24条3号の4)、刑事処罰を受けたことは要件になっていない。不法残留や資格外活動の専従も刑事処分とは別に判断される。在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が考慮されるため、起訴猶予でも捜査を受けた経緯が消極的に働くことがある。なお令和6年版犯罪白書によると、来日外国人被疑事件の起訴猶予率は48.35%、大麻に関する事件は35.5%、覚醒剤に関する事件は8.5%であり、罪名による差が大きい。
よくある質問
起訴猶予になれば前科は付かないのですか。
前科は付きません。前科は確定した有罪判決を受けたことを指すため、裁判を経ない起訴猶予は前科に当たりません。ただし、捜査を受け不起訴処分となった記録は前歴として残り、その後に別の事件で処分を検討する際の資料になります。記録が一切残らないという意味ではない点にご注意ください。
不起訴になったことを勤務先や入管に示す方法はありますか。
検察官に請求することで、公訴を提起しない処分をしたことを記載した書面の交付を受けることができます。実務では不起訴処分告知書と呼ばれます。もっとも、この書面には不起訴の理由が記載されないのが通例です。理由の確認が必要な場合は、弁護人を通じて担当検察官に問い合わせることになります。
示談が成立すれば必ず起訴猶予になりますか。
必ずそうなるとは限りません。示談は重要な事情ですが、検察官は事案の重さ、前科前歴、動機や態様、再犯のおそれも合わせて判断します。被害者のいない類型や社会的な影響が大きい類型では、示談だけで結論が決まるわけではありません。示談と併せて再犯防止の具体的な手当てを示していくことになります。
起訴猶予でも在留資格に影響することがありますか。
あります。起訴猶予は有罪判決ではないため、有罪判決を要件とする退去強制事由には当たりません。しかし、不法残留や資格外活動の専従、不法就労助長のように、刑事処分の有無と関係なく成立する退去強制事由があります。また、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が考慮されます。
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最終更新日:2026年9月10日/執筆 弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
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