執行猶予とは|全部執行猶予と一部執行猶予の要件・取消し・外国人の在留への影響
2026/09/10
執行猶予とは、有罪判決で刑を言い渡すにあたり、一定の期間その刑の全部または一部の執行を猶予し、猶予期間を無事に経過したときは刑の言渡しの効力を失わせ、または刑を減軽する制度をいう。(刑法25条以下)
- 有罪判決である点は実刑と変わらず、前科は残る
- 全部執行猶予と一部執行猶予の2つの類型がある
- 猶予期間を経過すれば刑の言渡しは効力を失う
- 猶予期間中に再び罪を犯せば取り消されうる
- 薬物事件では執行猶予でも退去強制事由に当たる
執行猶予とはどのような判決なのか
刑を言い渡したうえで、その執行を一定期間待つという内容の判決である。無罪ではなく有罪であるから、前科としての記録は残る。もっとも、直ちに刑事施設に収容されることはなく、職を失わず家族との生活を維持したまま更生を図れる点に、被告人にとっての意味がある。
執行猶予が付くのはどのような場合か
言い渡される刑の重さと前科の有無が、まず入口の条件になる。全部の執行猶予は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を言い渡す場合に限られ、前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者か、前に処せられたことがあってもその執行を終わった日等から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者が対象となる(刑法25条1項)。
この入口を満たしたうえで、情状により猶予するかどうかが判断される。重視されるのは、犯行の動機と態様、被害の回復や示談の成否、前科前歴、家族や勤務先による監督の見込み、再犯防止の具体的な計画である。
| 項目 | 全部執行猶予 | 一部執行猶予 |
|---|---|---|
| 対象となる刑 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 3年以下の拘禁刑 |
| 猶予の範囲 | 刑の全部 | 刑の一部(残りは服役) |
| 猶予期間 | 1年以上5年以下 | 1年以上5年以下 |
| 期間の起算 | 裁判が確定した日から | 実刑部分の執行を終えた日等から |
| 保護観察 | 付すことができる | 薬物使用等の罪の特則では必要的 |
一部執行猶予とは何か
刑の一部を実際に執行し、残りの部分の執行を猶予する類型である(刑法27条の2)。例えば拘禁刑2年のうち6月の執行を3年間猶予する言渡しがされ、1年6月を服役したうえで出所後に猶予期間を過ごす。施設内と社会内の処遇をつなぐ狙いがあり、薬物使用等の罪の特則では保護観察が必ず付される。
猶予期間を無事に経過するとどうなるのか
全部の執行猶予では、猶予期間を経過したときに刑の言渡しが効力を失う(刑法27条)。刑を受けなかったのと同じ扱いになり、資格制限の多くも解消される。もっとも、有罪判決を受けた事実そのものが消えるわけではない。一部の執行猶予では、猶予されなかった部分の期間を刑期とする刑に減軽されたものとして扱われる。
執行猶予はどのような場合に取り消されるのか
猶予期間中に再び罪を犯した場合が中心である。更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑について全部の執行猶予が付かなかったときなどは、必ず取り消される。罰金に処せられたときや、保護観察に付された者が遵守事項を守らず情状が重いときは、裁判所の判断により取り消されうる。取り消されれば猶予されていた刑も服役することになる。
保護観察が付くとどうなるのか
猶予期間中、保護観察所の指導監督と補導援護を受ける。保護司との面接、住居や就労状況の報告、転居や旅行の届出といった遵守事項が定められ、違反して情状が重いときは取消しの理由となる。薬物事件では専門的処遇プログラムの受講が組み込まれることが多い。
外国人が執行猶予判決を受けたら在留資格はどうなるのか
薬物事件かどうかで結論が大きく分かれる。薬物以外の一般的な事件では、1年を超える拘禁刑に処せられた者が退去強制事由に当たるものの(入管法24条4号リ)、同号のただし書により、刑の全部の執行猶予を受けた者は除かれる。一部の執行猶予でも、実刑部分が1年以下であれば同号には当たらない。
これに対し、薬物関係の退去強制事由(同条4号チ)は、有罪判決があれば足りる。罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、在留資格が別表第一か別表第二かも問わない。薬物法令に違反して刑に処せられた者は年限の定めのない上陸拒否事由(入管法5条1項5号)にも当たり、出国命令の制度も利用できない。
| 言い渡された刑 | 薬物以外の一般的な事件 | 薬物事件 |
|---|---|---|
| 罰金 | 刑期による退去強制事由には当たらない | 24条4号チに該当 |
| 全部の執行猶予 | 24条4号リのただし書により除かれる | 24条4号チに該当 |
| 一部の執行猶予(実刑部分1年以下) | 24条4号リには当たらない | 24条4号チに該当 |
| 1年を超える実刑 | 24条4号リに該当 | 24条4号チに該当 |
退去強制事由に当たらない場合でも、在留を続けられると決まるわけではない。在留期間の更新や在留資格の変更では素行が考慮され、勤務先を退職していれば活動の継続も問われる。退去強制事由に当たる場合の在留特別許可については、令和5年改正により申請手続が法定化され、考慮事情が入管法50条5項に明示された。
よくある質問
執行猶予が付けば前科はつかないのですか。
前科はつきます。執行猶予は有罪判決であり、刑を言い渡したうえでその執行を待つ制度だからです。猶予期間を経過すれば刑の言渡しは効力を失いますが、有罪判決を受けた事実自体が消えるわけではなく、後の事件の量刑や素行の評価で考慮されることがあります。
執行猶予中に別の事件で逮捕されたらどうなりますか。
直ちに取消しとなるわけではありません。判断は、新しい事件についてどのような刑が言い渡されたかによります。拘禁刑以上の刑が言い渡され執行猶予が付かなかった場合などは必ず取り消され、猶予されていた刑も服役することになります。処分の見通しを含め、早い段階で弁護人にご相談ください。
執行猶予中に日本から出国できますか。
執行猶予それ自体が出国を禁じるものではありません。ただし、保護観察が付されている場合には、住居や長期の旅行について届出などの遵守事項が定められます。在留資格の状況によっては再入国が問題になりますので、出国前にご確認ください。保護観察中の届出の要否もあわせてご確認ください。
薬物事件で執行猶予になれば在留できますか。
薬物事件は、執行猶予でも罰金でも入管法24条4号チの退去強制事由に当たります。刑事裁判で執行猶予を得ても、入管の手続は別に進みます。在留を続けるには在留特別許可の判断を求めることになりますが、容易ではありません。刑事の段階から入管手続を見据えた対応が必要です。
一部執行猶予と全部執行猶予はどちらが有利ですか。
一般に、社会内での生活を続けられる全部の執行猶予の方が有利です。一部の執行猶予は、猶予されない部分について実際に服役するためです。もっとも、実刑が避けられない見通しの事件では、服役期間を短くし出所後の支援につなげる意味があります。いずれを求めるかは、量刑の見通しを踏まえて判断します。
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最終更新日:2026年9月10日/執筆 弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
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