傷害・暴行事件と在留特別許可|示談の意味と配偶者の在留資格による違い
2026/10/11
傷害・暴行事件で在留を守るための最初の分かれ目は、示談などによって拘禁刑を避けられるかどうかであり、拘禁刑になった場合には、配偶者の在留資格と婚姻の実質が在留特別許可の結論を左右します。公表事例では、配偶者が日本人であっても、重い実刑や婚姻関係の破綻が重なった傷害事件は不許可になっています。
本記事の要点
- 傷害・暴行は入管法24条4号の2の対象罪で、別表第一の在留資格の人は拘禁刑に処せられれば執行猶予付きでも退去強制事由に当たります。
- 傷害・暴行には罰金刑の定めがあるため、示談によって不起訴や罰金で終われば、4号の2には当たりません。
- 公表事例で刑事処分に傷害を含む2件は、いずれも配偶者が日本人でしたが、2年を超える実刑で不許可でした。
- そのうち1件には配偶者に婚姻継続の意思がないこと、もう1件には配偶者・子との別居が記載されていました。
傷害・暴行事件は、どの退去強制事由に当たりますか。
別表第一の在留資格の人は、拘禁刑に処せられれば執行猶予付きでも4号の2に当たります。在留資格を問わず、1年を超える実刑であれば4号リに当たります。
4号の2は、刑法第二編第二十七章(傷害の罪)や、暴力行為等処罰に関する法律1条・1条ノ2・1条ノ3の罪(脅迫・器物損壊に係る部分を除きます)を対象にしています。傷害も暴行も、この章に含まれます。
| 本人の在留資格 | 処分 | 退去強制事由 |
|---|---|---|
| 別表第一(技術・人文知識・国際業務、留学、家族滞在など) | 不起訴・罰金 | 4号の2・4号リとも当たらない |
| 別表第一 | 拘禁刑(全部執行猶予を含む) | 4号の2 |
| 別表第二(永住者、定住者、日本人の配偶者等など) | 全部執行猶予、1年以下の実刑 | 4号の2・4号リとも当たらない |
| 在留資格を問わない | 1年を超える実刑 | 4号リ(在留特別許可には50条1項ただし書の「特別の事情」が必要) |
条文の「処せられた」は判決の確定を指すものとして運用されています。4号の2の詳細は入管法24条4号の2とはをご覧ください。
示談には、在留の面でどのような意味がありますか。
示談は、退去強制事由そのものを生じさせないための最も有力な手段です。傷害・暴行には罰金刑の定めがあるため、被害者との示談が成立すれば、不起訴や罰金で終わる可能性が高まります。
別表第一の人にとっては、罰金で終われば4号の2に当たらないことが決定的です。永住者や定住者など別表第二の人にとっても、執行猶予や短い刑にとどめることで4号リを避けられます。さらに、退去強制の手続に入った場合でも、示談の有無は評価に関わります。ガイドラインは次のように定めています。
「その理由となった事実は、その反社会性の程度に応じて消極要素として考慮されます。」(在留特別許可に係るガイドライン第2の6)
被害者に謝罪し、損害を賠償したという事実は、反社会性の程度を示す重要な事情です。ただし、罰金でも、今後の在留期間の更新や永住許可の審査では考慮されます。不起訴や罰金と在留の関係は不起訴処分と在留への影響で整理しています。
公表事例では、傷害事件はどう判断されていますか。
刑事処分に傷害を含む公表事例は2件で、いずれも配偶者が日本人でしたが、不許可でした。強盗致傷の事例も不許可です。
| 公表事例 | 刑事処分 | 家族の状況など | 結論 |
|---|---|---|---|
| 令和7年分・配偶者が日本人の場合・不許可第3事例 | 傷害 懲役5年(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当)の実刑 | 在日約16年8月、婚姻約10月、未成年の子1人、配偶者に婚姻継続の意思なし | 不許可 |
| 令和6年分(6月10日以降)・配偶者が日本人の場合・不許可第1事例 | 傷害・道路交通法違反 懲役2年2月の実刑、前科2件 | 在日約32年9月、婚姻約17年1月、配偶者及び子と別居、在留特別許可歴あり | 不許可 |
| 平成26年分・配偶者が日本人の場合・不許可第4事例 | 強盗致傷 懲役3年 | 在日約11年3月、婚姻約7年1月 | 不許可 |
いずれも1年を超える実刑で、入管法50条1項ただし書の「特別の事情」が必要な事案です。改正法施行後の公表事例でただし書により許可された事例の量刑は、1年2月から1年6月の範囲にとどまっています。
配偶者との関係が損なわれた場合は、どう評価されますか。
配偶者が日本人や永住者であっても、婚姻の実質が失われていれば、積極要素としてはほとんど働きません。ガイドラインは、婚姻の安定と成熟まで求めています。
「当該外国人が、日本人又は特別永住者と法的に婚姻している場合(退去強制を免れるために、婚姻を偽装し、又は形式的な婚姻届を提出した場合を除く。)であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること」(在留特別許可に係るガイドライン第2の2(1)ウ)
令和7年分の不許可第3事例には「配偶者に婚姻継続の意思なし。」、令和6年分(6月10日以降)の不許可第1事例には「配偶者及び子とは別居。」と記載されています。配偶者に向けた暴力で事件になった場合、この点は特に深刻です。家族の関係を修復できるのか、配偶者が今後も同居して支える意思を持っているのかを、刑事事件の段階から見極める必要があります。別居や離婚の危機がある場合の考え方は別居・離婚の危機があるときの在留特別許可をご覧ください。
配偶者の在留資格によって、見通しは変わりますか。
大きく変わります。配偶者が別表第一の在留資格で、本人に刑事処分(執行猶予付き判決を含みます)がある公表事例は8件あり、すべて不許可でした。
これに対し、配偶者が日本人・特別永住者、又は永住者・定住者など別表第二の在留資格であれば、安定かつ成熟した婚姻はガイドライン上の「特に考慮する積極要素」に当たります(第2の2(1)ウ・(2)ウ)。もっとも、公表事例を見る限り、配偶者が日本人でも重い実刑や婚姻関係の破綻が重なれば不許可となっており、配偶者の在留資格だけで結論が決まるわけではありません。家族の結び付きを示す資料を、刑事事件の段階から整えておくことが大切です。
判決が確定するまでに、何をしておくべきですか。
示談と量刑の弁護を尽くしたうえで、配偶者の在留上の地位を引き上げ、婚姻の実質を記録に残すことです。
一審判決に事実や量刑で争う点があれば、控訴・上告は被告人の正当な権利であり、被告人だけが控訴した場合は原判決より重い刑になりません(刑事訴訟法402条)。結果として確定までの時間が延び、その間に配偶者の永住許可や帰化の申請を進められます。当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、確定までの期間を使って家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。考え方の全体は在留特別許可と配偶者の在留資格にまとめています。
傷害・暴行事件で逮捕されたら、いつ弁護士に相談すべきですか。
逮捕の直後です。示談は起訴前に成立してこそ、不起訴や罰金につながりやすくなります。
- 本人と配偶者の在留資格から、4号の2・4号リのどちらが問題になるかを確認する
- 弁護人を通じて被害者に謝罪し、示談を進める
- 家族関係の修復と、配偶者の今後の支援の意思を確認する
- 判決確定までの見通しを立て、配偶者の永住許可・帰化を検討する
早い段階で動けば、それだけ選択肢が残ります。
よくある質問
Q1. 「技術・人文知識・国際業務」の人が暴行で罰金になった場合、退去強制になりますか。
罰金にとどまれば入管法24条4号の2には当たりません。同号は拘禁刑に処せられたことを要件としているためです。ただし、在留期間の更新や永住許可の審査では罰金も考慮されます。
Q2. 永住者が傷害で懲役1年6月・執行猶予3年の判決を受けた場合はどうなりますか。
4号の2は別表第一の在留資格の人に限られ、4号リは刑の全部の執行猶予を除いているため、いずれにも当たりません。ただし、今後の在留期間の更新や永住許可の審査では、この前科も考慮されます。
Q3. 妻への暴力で逮捕されました。妻は日本人です。在留特別許可は期待できますか。
配偶者が日本人であることは積極要素ですが、ガイドラインは婚姻の安定と成熟を求めています。公表事例には、配偶者に婚姻継続の意思がないと記載されて不許可となった傷害事件があります。まず関係の修復と、妻の意思の確認が欠かせません。
Q4. 被害者と示談できなかった場合、もう打つ手はありませんか。
あります。示談が難しくても、謝罪や被害弁償の申出、贖罪寄付などで量刑の事情を整えることはできます。また、判決確定までの時間を使って配偶者の在留上の地位を引き上げる方法も並行して検討できます。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
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