薬物事件と在留特別許可|入管法24条4号チと配偶者の在留資格で何が分かれるかを弁護士が解説
2026/10/11
薬物事件で有罪判決を受けた外国人が在留特別許可を得られるかどうかは、本人が永住者であるか、前科や過去の在留特別許可歴があるか、そして配偶者が日本人・永住者・定住者などの地位にあるかによって、大きく分かれます。
薬物事件は罰金や執行猶予でも退去強制事由に当たります。だからこそ、判決確定までの時間に家族の状況をどこまで整えられるかが結論に直結します。
本記事の要点
- 薬物関係の法令に違反して有罪の判決を受けると、罰金でも執行猶予でも、在留資格を問わず退去強制事由に当たります(入管法24条4号チ)。
- 公表事例の刑事処分のある薬物事件45件のうち許可は6件で、5件は本人が永住者、配偶者が別表第一の事例はありません。
- 不許可となった39件のうち23件には、前科、退去強制歴又は在留特別許可歴の記載があります。
- 判決確定までの間に、配偶者の永住許可や帰化を進め、婚姻の実体を記録に残しておくことが現実的な準備になります。
薬物事件は、なぜ在留資格を問わず退去強制の対象になるのですか。
入管法24条4号チが、薬物関係の法令に違反して「有罪の判決を受けた者」を、刑の種類や在留資格で区別せずに退去強制事由としているからです。罰金でも執行猶予でも、永住者でも該当します。
4号チは、覚醒剤取締法などの法律を列挙したうえで、こう定めています。
「又は刑法第二編第十四章の規定に違反して有罪の判決を受けた者」(入管法24条4号チ)
「有罪の判決を受けた」は、判決の確定を指すものとして運用されています。
| 条文 | 対象となる人 | 罰金 | 執行猶予 |
|---|---|---|---|
| 入管法24条4号チ | 薬物関係法令違反で有罪の判決を受けた場合(在留資格を問わない) | 該当する | 該当する |
| 入管法24条4号の2 | 別表第一の在留資格の人が窃盗・詐欺など一定の罪で拘禁刑に処せられた場合 | 該当しない | 該当する |
| 入管法24条4号リ | 無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合 | 該当しない | 刑の全部の執行猶予は該当しない |
4号チの詳しい内容は入管法24条4号チとはで整理しています。
公表事例では、薬物事件の在留特別許可はどのくらい認められていますか。
平成26年分から令和7年分(2025年)までの公表事例のうち、刑事処分のある薬物事件45件で許可されたのは6件です。4件は執行猶予付き判決、2件は実刑で入管法50条1項ただし書が適用された事案です。
| 公表事例 | 刑事処分 | 本人 | 家族の状況 |
|---|---|---|---|
| 令和5年分・配偶者が日本人の場合・許可第4事例 | 覚醒剤取締法違反 懲役3年・執行猶予5年(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当) | 永住者 | 配偶者は日本人 |
| 令和5年分・配偶者が正規在留外国人の場合・許可第5事例 | 覚醒剤取締法違反 懲役1年6月・執行猶予3年 | 永住者 | 配偶者は永住者の配偶者等 |
| 令和5年分・その他・許可第6事例 | 大麻取締法違反 懲役10月・執行猶予3年 | 永住者 | 内夫からの暴力被害 |
| 令和5年分・その他・許可第7事例 | 大麻取締法違反等 懲役3年・執行猶予5年 | 永住者 | 日本人実子を監護養育 |
| 令和6年分(6月10日以降)・配偶者が日本人の場合・ただし書該当の許可第1事例 | 覚醒剤取締法違反 懲役1年2月の実刑 | 永住者 | 配偶者は日本人、婚姻約24年5月 |
| 令和6年分(6月10日以降)・配偶者が正規在留外国人の場合・ただし書該当の許可第1事例 | 覚醒剤取締法違反 懲役1年2月の実刑 | 記載なし | 配偶者は定住者、在日約30年4月 |
(出典:出入国在留管理庁の公表事例各年分。)6件のうち5件は本人が永住者で、残る1件も配偶者が定住者、在日約30年の事案でした。
本人が永住者であることは、なぜ大きな意味を持つのですか。
永住許可を受けていることは、入管法50条1項が在留特別許可をすることができる場合として最初に挙げる事情であり、長い適法な在留の裏付けにもなるからです。ただし、永住者であれば許可されるわけではありません。
「一永住許可を受けているとき。」(入管法50条1項1号)
令和5年分・その他・不許可第5事例は、永住者が覚醒剤取締法違反と窃盗で懲役3年2月の実刑を受け、前科1件もあった事案で、不許可とされています。
実刑が1年を超えると、入管法50条1項ただし書の「特別の事情」が必要になります。薬物事件でただし書許可がされたのは、いずれも懲役1年2月の事案です。詳しくは1年を超える実刑と在留特別許可をご覧ください。
配偶者の在留資格は、薬物事件の結論にどう影響していますか。
許可された6件には、配偶者が別表第一の在留資格である事例が1件もありません。配偶者が日本人又は別表第二の在留資格であることは、ガイドライン上「特に考慮する積極要素」の前提です。
「当該外国人が、入管法別表第二に掲げる在留資格で在留している者と法的に婚姻している場合」(在留特別許可に係るガイドライン第2の2(2)ウ)
もっとも、配偶者の地位だけでは決まりません。令和6年分(6月10日以降)の配偶者が正規在留外国人の場合では、配偶者が定住者で懲役1年2月の実刑の事案が許可された一方、同じく配偶者が定住者で、懲役1年6月の実刑に前科3件と在留特別許可歴が重なった不許可第4事例は許可されていません。
令和7年分・配偶者が日本人の場合・不許可第1事例も、婚姻約25年9月の日本人配偶者がいながら、退去強制歴と在留特別許可歴があり、執行猶予付き判決で不許可となっています。配偶者の地位を土台に、前科や過去の経緯が重なって結論が決まります。
前科や過去の在留特別許可歴は、どう評価されていますか。
重い消極要素として働いています。刑事処分のある薬物事件で不許可となった39件のうち、23件には前科、退去強制歴又は在留特別許可歴の記載があります。
「当該外国人が、過去に退去強制手続又は出国命令手続をとられたことがあること」(在留特別許可に係るガイドライン第2の3)
一度在留特別許可を受けた人が再び薬物事件を起こすと、同じ家族関係を主張しても認められにくいのが公表事例の傾向です。初めての事件での準備が、その後の在留を左右します。
判決が確定するまでに、何をしておくべきですか。
まず刑事事件そのものへの対応、次に配偶者の在留上の地位の引上げ、そして婚姻と家族生活の実体の記録です。薬物事件では罰金でも4号チに当たるため、退去強制事由を生じさせない道は不起訴や無罪に限られ、確定までの時間の使い方がより重要になります。
| 時期 | 刑事手続での対応 | 在留のための準備 |
|---|---|---|
| 逮捕・勾留中 | 争うべき事実があれば不起訴を目指す | 配偶者の永住・帰化の要件を見極める |
| 起訴後・第1審 | 量刑に影響する事情を丁寧に主張する | 配偶者の申請を始め、同居や家計の資料を集める |
| 控訴・上告 | 判決に不服があれば上訴する(控訴期間は14日) | 在留特別許可の申請資料を整える |
控訴・上告は被告人の正当な権利であり、被告人だけが控訴した事件では原判決より重い刑を言い渡すことはできません(刑事訴訟法402条)。結果として確定までの時間が延び、その間に配偶者が永住許可を受けるか帰化すれば、評価の出発点が変わります。審査は長期化する傾向にあるため、早く動き出すことが大切です。配偶者の審査では家族の状況も確認されることがあるため、弁護士と相談しながら進めてください。全体の考え方は在留特別許可と配偶者の在留資格にまとめています。
薬物事件で弁護士に相談すべきタイミングはいつですか。
逮捕された直後です。薬物事件は罰金でも退去強制事由に当たるため、起訴されるかどうかの段階が、在留にとって最初で最大の分かれ目になります。
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、判決確定までの期間を使って家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。もっとも、結論は個別の事情によって異なり、許可をお約束できるものではありません。
罪名ごとの公表事例の傾向は【犯罪別】在留特別許可の許可・不許可事例の分析もあわせてご覧ください。家族が薬物事件で逮捕されたときは、諦める前に、できるだけ早くご相談ください。
よくある質問
Q1. 大麻で罰金になっただけでも、退去強制の対象になりますか。
なります。入管法24条4号チは、薬物関係の法令に違反して有罪の判決を受けた人を、刑の種類を問わず退去強制事由としています。大麻に関する事件も対象の法令に含まれ、罰金の略式命令でも有罪の判決に当たります。
Q2. 永住者であれば、薬物事件でも在留特別許可を受けられますか。
公表事例で許可された6件のうち5件は永住者でしたが、令和5年分・その他・不許可第5事例のように、実刑と前科が重なって不許可とされた永住者もいます。有利な事情ではあっても、それだけでは決まりません。
Q3. 配偶者が「技術・人文知識・国際業務」です。今から何ができますか。
判決確定までに、配偶者の永住許可申請か帰化申請を検討してください。配偶者が永住者や日本人になれば、ガイドライン第2の2の「特に考慮する積極要素」に当たる婚姻になります。帰化も2026年4月から原則10年以上の在留を求める運用のため、早く到達できる方を選びます。
Q4. 1年を超える実刑判決を受けた場合は、もう許可されませんか。
入管法50条1項ただし書の「特別の事情」が必要になります。公表事例には、覚醒剤取締法違反で懲役1年2月の実刑を受けながら許可された事例が令和6年分に2件あります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
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