偽造在留カード事件と在留特別許可|配偶者の在留資格だけでは覆らない理由を弁護士が解説
2026/10/11
偽造在留カードの行使や所持で刑事処分を受けた事案は、在留特別許可の公表事例の中でも最も厳しい類型の一つで、配偶者の在留資格が良くても、それだけで結論が覆った例は見当たりません。
ガイドラインは偽造カードの行使・所持を「特に考慮する消極要素」に挙げていますが、許可の可能性が閉ざされているわけではありません。何が不利に働き、何を積み上げられるのかを、公表事例に即して整理します。
本記事の要点
- 在留カード等に関わる一定の行為は、刑罰を受けたかどうかにかかわらず、行為そのものが退去強制事由として定められています(入管法24条3号の5)。
- ガイドラインは、在留カード等の偽変造や偽造カードの行使・所持を「特に考慮する消極要素」としています(第2の3(1)ウ)。
- 平成26年分から令和7年分までの公表事例で、在留カードに関わる刑事処分のある事案は11件あり、すべて不許可でした。
- 令和7年分には、配偶者が「技術・人文知識・国際業務」、婚姻約13年9月の事案が不許可とされた例があります。
偽造在留カードの事件は、どの退去強制事由に当たりますか。
主に入管法24条3号の5です。この号は、刑罰を受けたことではなく、在留カード等に関わる一定の行為をしたこと自体を退去強制事由としています。
「次のイからホまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者イ行使の目的又は人の事務処理を誤らせる目的で、在留カード若しくは在留カード電磁的記録」(入管法24条3号の5、抜粋)
唆した人や助けた人も含まれ、「拘禁刑に処せられた」ことを要件とする4号の2や4号リとは組み立てが異なります。
| 条文 | 何を要件としているか | 50条1項ただし書の対象か |
|---|---|---|
| 入管法24条3号の5(在留カード等に関わる行為) | 行為をしたこと(唆し・幇助を含む) | 対象として挙げられていない |
| 入管法24条4号の2(別表第一の人の一定の罪) | 拘禁刑に処せられたこと | 対象として挙げられていない |
| 入管法24条4号リ(1年を超える拘禁刑) | 無期又は1年を超える拘禁刑に処せられたこと(全部執行猶予を除く) | 1年を超える実刑はただし書の対象 |
3号の5は50条1項ただし書に挙げられていないため、実刑が1年を超えない限り通常の総合判断で審査されます。ただ、その中で非常に重く見られるのが、ガイドラインの評価です。
ガイドラインでは、偽造在留カードはどう評価されますか。
出入国在留管理行政の根幹に関わる違反として、「特に考慮する消極要素」に位置づけられています。
「在留カード等公的書類の偽変造や不正受交付、偽変造された在留カード等の行使、所持等を行ったことがあること」(在留特別許可に係るガイドライン第2の3(1)ウ)
一方で、ガイドラインは、特に考慮する消極要素があれば一律に不許可になるとまでは述べていません。
「逆に、特に考慮する消極要素が存在するからといって、一切在留特別許可がされないというものでもありません(注4)。」(同ガイドライン第3)
余地を現実のものにするには、積極要素が消極要素を「明らかに上回る」(同第3)事情を、具体的な根拠とともに示す必要があります。特に考慮する消極要素の全体像は特に考慮する消極要素とはで説明しています。
公表事例では、許可された例がありますか。
見当たりません。平成26年分から令和7年分(2025年)までの公表事例で、偽造在留カードの行使・所持・提供など在留カードに関わる刑事処分のある事案は11件あり、すべて不許可でした。
| 公表事例 | 刑事処分 | 本人・家族の状況 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 令和7年分・配偶者が正規在留外国人の場合・不許可第1事例 | 入管法違反(偽造在留カード行使) 懲役1年6月・執行猶予3年(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当) | 配偶者は技術・人文知識・国際業務、婚姻約13年9月 | 不許可 |
| 令和4年分・その他・不許可第6事例 | 入管法違反(偽造在留カード行使) 懲役1年6月・執行猶予3年 | 家族滞在で在留中に、稼働目的で偽造在留カードを行使 | 不許可 |
| 平成28年分・配偶者が日本人の場合・不許可第4事例 | 入管法違反 懲役1年6月・執行猶予3年 | 偽造在留カードを提示、逮捕後に日本人と婚姻 | 不許可 |
(出典:出入国在留管理庁の公表事例各年分。)配偶者が日本人の事案も含まれますが、逮捕後に婚姻したもので、婚姻の時期が評価を下げたと考えられます。
配偶者が別表第一の在留資格だと、どうなりますか。
家族関係が「特に考慮する積極要素」に乗らないうえに、特に考慮する消極要素を抱えることになるため、極めて厳しい評価になります。令和7年分・配偶者が正規在留外国人の場合・不許可第1事例がその典型です。
この事例は、在日約16年、婚姻約13年9月と、家族としての歴史は長いものでした。しかし配偶者の在留資格は別表第一の「技術・人文知識・国際業務」で、夫婦の子は本国で祖父母と暮らしていました。ガイドラインは「家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性は、積極要素として考慮されます」(第2の2)としていますが、子が日本にいない以上、この点も主張しにくい状況でした。
当事務所が原典で精査したところ、配偶者が別表第一の在留資格で、本人に刑事処分(執行猶予を含みます)がある公表事例は8件あり、すべて不許可です。その8件目がこの事例です。
刑事事件の段階で、何をしておくべきですか。
事実関係を正確に示すこと、そして家族の状況を整える時間を確保することです。入管の評価は刑事記録に表れた事実を基礎に行われるため、捜査段階の供述や認定が後々まで影響します。
- カードが偽造であることを知っていたか、どのような目的で提示したかなど、争うべき点があれば捜査段階から弁護人を通じて主張する
- 勤務先や入手経緯など、関与の程度を示す事情を整理しておく
- 配偶者の在留資格と在留歴を確認し、永住許可や帰化の要件を早めに見極める
- 同居・家計の共同・子の監護など、婚姻の実体を示す資料を日頃から残す
なお、3号の5は行為そのものを退去強制事由としているため、刑事判決の確定を待って退去強制事由が生じる4号の2や4号リと同じようには時間を見込めない可能性があります。準備はできるだけ早く始めてください。
配偶者の在留資格を引き上げることに、意味はありますか。
あります。配偶者が永住者や日本人になれば、婚姻がガイドラインの「特に考慮する積極要素」に当たり、少なくとも積極要素の側に評価の柱が立ちます。消極要素を打ち消せるとは限りませんが、柱のないまま争うのとは見込みが変わります。
永住許可は原則として引き続き10年以上の在留(うち就労資格又は居住資格で5年以上)が目安で、帰化も2026年4月1日から原則10年以上の在留を求める運用です。早く到達できる方を選び、配偶者の審査で家族の状況も確認されることがあるため、弁護士と相談しながら進めてください。全体の考え方は在留特別許可と配偶者の在留資格で説明しています。
弁護士に相談すべきタイミングはいつですか。
逮捕された直後です。偽造在留カードの事件は、刑事手続と入管手続が近い時期に重なりやすく、初動の遅れがそのまま在留の結論に響きます。
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、確定までの期間に家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。厳しい類型であっても、事情を一つずつ積み上げることで道が開ける場合はあります。もっとも、結論は個別の事情によって異なり、許可をお約束できるものではありません。不法就労をめぐる類似の論点は不法就労助長と在留特別許可もご覧ください。
よくある質問
Q1. 罰金や不起訴で終われば、退去強制にはなりませんか。
入管法24条3号の5は、刑罰を受けたことではなく在留カード等に関わる行為自体を退去強制事由としています。そのため、刑事処分が軽くても該当する可能性があります。もっとも、公表事例の11件はいずれも執行猶予付き判決以上の事案でした。
Q2. 配偶者が日本人なら、許可される見込みはありますか。
日本人との婚姻はガイドライン第2の2(1)ウの「特に考慮する積極要素」に当たり得ます。ただ、在留カードに関わる刑事事件で許可された公表事例は見当たりません。婚姻が逮捕の前から安定して続いていることを示せるかどうかが重要です。
Q3. 家族滞在の妻が、働くために偽造在留カードを使ってしまいました。
令和4年分・その他・不許可第6事例は、家族滞在で在留中に稼働目的で偽造在留カードを行使し、不許可とされた事案です。早急に弁護士に相談し、刑事事件の見通しと、家族全体の在留をどう守るかを同時に検討してください。
Q4. 在留特別許可が認められなかった場合、もう何もできませんか。
退去強制令書が発付された後は在留特別許可を申請できませんが(入管法50条3項)、取消訴訟や執行停止の申立てを検討できる場合があります。見通しは事案ごとに大きく異なります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
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