詐欺事件と在留特別許可|配偶者の在留資格で何が変わるか、特殊詐欺の公表事例から
2026/10/11
詐欺事件で在留特別許可を得るには、配偶者の在留資格を整えることに加えて、刑事処分そのものを軽くすることが欠かせません。詐欺は公表事例上きわめて厳しい類型で、配偶者が「技術・人文知識・国際業務」の事案だけでなく、配偶者が永住者の事案でも不許可になった例があるからです。
本記事の要点
- 詐欺・電子計算機使用詐欺は入管法24条4号の2の対象罪で、別表第一の在留資格の人は、執行猶予付きでも拘禁刑に処せられれば退去強制事由に当たります。
- 詐欺罪の法定刑には罰金がないため、別表第一の人にとっては、不起訴を目指せるかどうかが最初の分かれ目です。
- 平成26年分から令和7年分の公表事例のうち、刑事処分に詐欺を含む8件で許可されたのは1件だけでした。
- 配偶者が永住者でも、婚姻期間が短い事案や重い実刑の事案は不許可となっており、婚姻の実質と量刑の両方が問われます。
詐欺事件は、どの退去強制事由に当たりますか。
別表第一の在留資格の人は、拘禁刑に処せられれば執行猶予付きでも入管法24条4号の2に当たります。在留資格を問わず、1年を超える実刑であれば4号リに当たります。
4号の2が列挙する刑法第二編第三十七章(詐欺及び恐喝の罪)には、詐欺や電子計算機使用詐欺が含まれます。そして詐欺罪の法定刑には罰金がありません。窃盗や傷害と違い、罰金で終わらせて4号の2を避けるという道がないため、別表第一の人にとっては、不起訴を目指せるかどうかが決定的に重要になります。
| 本人の在留資格 | 処分 | 退去強制事由 |
|---|---|---|
| 別表第一(技術・人文知識・国際業務、留学、家族滞在など) | 不起訴 | 当たらない |
| 別表第一 | 拘禁刑(全部執行猶予を含む) | 4号の2 |
| 別表第二(永住者、定住者など) | 全部執行猶予、1年以下の実刑 | 4号の2・4号リとも当たらない |
| 在留資格を問わない | 1年を超える実刑 | 4号リ(在留特別許可には50条1項ただし書の「特別の事情」が必要) |
条文の「処せられた」は判決の確定を指すものとして運用されており、上訴中はまだ事由が生じていません。
公表事例では、詐欺事件はどう判断されていますか。
ほとんどが不許可です。当事務所が平成26年分から令和7年分の公表事例を原典で精査したところ、刑事処分に詐欺(詐欺未遂、電子計算機使用詐欺を含みます)を含む事例は8件で、許可は1件、不許可は7件でした。
| 公表事例 | 刑事処分 | 配偶者等 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 令和3年分・配偶者が正規在留外国人の場合・不許可第3事例 | 詐欺 懲役2年6月(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当)・執行猶予4年 | 永住者(婚姻約7月) | 不許可 |
| 令和6年分(6月9日まで)・同・不許可第3事例 | 詐欺・電子計算機使用詐欺・道路交通法違反 懲役1年6月・執行猶予3年 | 技術・人文知識・国際業務(婚姻約3月) | 不許可 |
| 令和6年分(6月10日以降)・同・不許可第1事例 | 組織的犯罪処罰法違反・詐欺 懲役4年6月の実刑 | 永住者(婚姻約8年10月)、前科・在留特別許可歴あり | 不許可 |
| 令和5年分・その他・許可第7事例 | 大麻取締法違反・詐欺未遂等 懲役3年・執行猶予5年 | 本人は永住者、日本人内妻と日本人実子を監護養育 | 許可(定住者) |
唯一の許可例は、本人が永住者で、日本人の実子を監護養育していた事案でした。犯罪類型ごとの比較は【犯罪別】在留特別許可の許可・不許可事例153件の分析をご覧ください。
配偶者が「技術・人文知識・国際業務」の事案は、なぜ不許可になったのですか。
配偶者が別表第一の在留資格であるため、婚姻がガイドラインの「特に考慮する積極要素」に当たらなかったことが大きいと考えられます。
令和6年分(6月9日まで)・配偶者が正規在留外国人の場合・不許可第3事例は、関係機関からの通報を端緒とし、在日約8年、不法滞在約2年9月、婚姻約3月、子なしで、詐欺等により執行猶予付きの判決を受けていました。ガイドラインが婚姻を特に考慮するのは、配偶者が日本人・特別永住者か別表第二の在留資格の場合に限られます。配偶者が別表第一で、本人に刑事処分(執行猶予付き判決を含みます)がある公表事例は8件あり、すべて不許可です。詳しくは配偶者が「技術・人文知識・国際業務」のときの在留特別許可で取り上げています。
配偶者が永住者なら、詐欺事件でも許可されますか。
それだけでは足りません。ガイドラインは、別表第二の在留資格者との婚姻について、婚姻の安定と成熟まで求めています。
「当該外国人が、入管法別表第二に掲げる在留資格で在留している者と法的に婚姻している場合(退去強制を免れるために、婚姻を偽装し、又は形式的な婚姻届を提出した場合を除く。)であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること」(在留特別許可に係るガイドライン第2の2(2)ウ)
令和3年分の不許可第3事例は、配偶者が永住者でも婚姻が約7月で子がなく、「相当期間共同生活」したとはいいにくい事案でした。令和6年分(6月10日以降)の不許可第1事例は、婚姻約8年10月で子もいましたが、懲役4年6月の実刑、前科、在留特別許可歴が重なっています。配偶者の在留資格は出発点にすぎず、婚姻の実質と刑の重さがあわせて評価されます。
特殊詐欺に関わった場合は、どう評価されますか。
反社会性が高いとみられ、公表事例では本人が永住者であっても不許可になっています。
令和4年分・配偶者が日本人の場合・不許可第3事例は、窃盗により懲役2年8月の実刑で、特記事項に「特殊詐欺に関わり、窃盗を繰り返していたもの。」とあります。令和4年分・その他・不許可第3事例は、詐欺・窃盗により懲役2年の判決を受けた永住者で、「銀行職員等になりすまし、他人のキャッシュカードを騙し取ったもの。」とされています。ガイドラインは、退去強制の理由となった事実について次のように定めています。
「その理由となった事実は、その反社会性の程度に応じて消極要素として考慮されます。」(在留特別許可に係るガイドライン第2の6)
役割が末端であったこと、報酬がわずかであったこと、被害弁償をしたことなどは、刑事裁判で量刑を左右するだけでなく、在留の判断でも反社会性の程度を示す事情になります。刑事弁護の段階で丁寧に立証しておく必要があります。
判決が確定するまでに、何をしておくべきですか。
刑事処分を少しでも軽くすることと、配偶者の在留上の地位を引き上げることを並行して進めます。
一審判決に事実や量刑で争う点があれば、控訴・上告は被告人の正当な権利です。被告人だけが控訴した場合、原判決より重い刑にはなりません(刑事訴訟法402条)。上訴の考え方は刑事事件の控訴で説明しています。結果として判決確定までの時間が延び、その間に配偶者の永住許可や帰化の申請を進められます。審査は長期化する傾向にあるため、早く動くほど選択肢が残ります。
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、判決確定までの期間に家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。全体の考え方は在留特別許可と配偶者の在留資格にまとめています。
詐欺事件で逮捕されたら、いつ弁護士に相談すべきですか。
逮捕の直後です。詐欺は罰金で終わる道がないため、起訴前の弁護活動が在留にとって最も重要な局面になります。
- 本人と配偶者の在留資格を確認し、4号の2・4号リのどちらが問題になるかを見極める
- 関与の程度や故意の有無を確認し、不起訴の可能性を探る
- 被害弁償や示談を進め、執行猶予や刑期の短縮につなげる
- 判決確定までの見通しを立て、配偶者の永住許可・帰化の準備を始める
厳しい類型であることは確かですが、打てる手はあります。諦めずにご相談ください。
よくある質問
Q1. 「留学」の学生が特殊詐欺の受け子として逮捕されました。執行猶予なら日本に残れますか。
「留学」は別表第一の在留資格なので、詐欺で拘禁刑に処せられれば、執行猶予付きでも入管法24条4号の2に当たります。判決の確定によって事由が生じると運用されています。在留を守るには、起訴前の段階で不起訴を目指せるかが重要です。
Q2. 詐欺事件で罰金になることはありますか。
詐欺罪の法定刑には罰金がないため、有罪となれば拘禁刑です。別表第一の人が4号の2を避けるには、不起訴となるか、無罪を得る必要があります。
Q3. 妻が永住者です。夫の詐欺事件で、在留特別許可は期待できますか。
配偶者が永住者であることは積極要素ですが、それだけでは足りません。公表事例では、配偶者が永住者でも婚姻約7月の事案や、懲役4年6月の実刑の事案が不許可になっています。婚姻の実質を示す資料と、量刑を軽くする弁護活動の両方が必要です。
Q4. 被害弁償をすると、在留の判断にも影響しますか。
被害弁償は刑事裁判の量刑に影響し、刑の重さは入管法50条1項ただし書に当たるかどうかを左右します。また、退去強制の理由となった事実は反社会性の程度に応じて評価されるため、弁償の事実はその評価にも関わります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
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