免許証の画像だけで口座は作れるのか?タイムズカー流出後、名義を悪用されたときの責任と今すぐ残すべき記録
2026/10/21
結論:現行制度では、運転免許証の画像と顔の画像を送るだけで預金口座を開設できる方法が残っており、流出した免許証の画像で他人名義の口座が作られた事例も報じられている。名義を勝手に使われただけなら、名義人が責任を負うことは原則としてない。ただ、万一の裁判では「自分は関与していない」ことを説明する立場に置かれやすく、そのときに物を言うのは、悪用が発覚する前に残しておいた警察への相談、免許証の再交付、本人申告の記録である。
この記事の要点
- 非対面の本人確認のうち、本人確認書類の画像と顔の画像を送る方法(いわゆるホ方式)は、2027年4月1日に廃止される予定である。それまでは画像だけによる口座開設があり得る。
- タイムズカーの不正アクセスでは、約660万件の会員情報が取得され、そのうち約160万件で運転免許証などの本人確認書類の情報が流出したと発表された。
- 名義を勝手に使われた「冒用型」と、自ら口座や書類を渡した「提供型」とでは、責任の有無がまったく異なる。責任が問題になるのは主に提供型である。
- 冒用型でも、口座の凍結や詐欺被害者からの請求に巻き込まれることがある。提供型ではないかと疑われたとき、事前の記録が最も強い反証になる。
- 再交付や本人申告には悪用を止める力の限界がある。それでも、記録としての価値は大きい。
免許証の画像だけで、本当に口座は開設されるのか?
結論:開設され得る。犯罪収益移転防止法施行規則は、非対面取引の本人確認方法として、写真付き本人確認書類の画像と本人の容貌の画像を送信させる方法を現在も認めている。
インターネット銀行やスマートフォンでの口座開設で用いられる、いわゆるeKYCのうち、本人確認書類を撮影した画像と、その場で撮影した顔の画像を送る方法は、犯罪収益移転防止法施行規則6条1項1号ホに定められている(以下「ホ方式」という。)。ホ方式は、ICチップを読み取る方法と比べて、書類の偽造や他人へのなりすましに弱いと指摘されてきた。
実際に、不正に入手した運転免許証の画像を金融機関に送り、別人の顔を免許証の顔に見えるよう加工したデータでオンラインの顔認証を突破して、他人名義の預金口座を開設した疑いで男が逮捕された事例が報じられている(神奈川県警。2026年3月報道)。この口座はカードローンの契約に使われたとされる。
こうした悪用を受けて、令和7年6月24日に改正施行規則が公布され、ホ方式は2027年(令和9年)4月1日に廃止される。改正後は、マイナンバーカードや運転免許証のICチップの情報を読み取る方法などに限られ、画像だけでは本人確認ができなくなる。逆にいえば、それまでの間は、流出した免許証の画像が悪用される余地が残っている。
| 本人確認の方法(非対面) | 現在 | 2027年4月1日以降 |
|---|---|---|
| 本人確認書類の画像+容貌の画像の送信(ホ方式) | 利用できる | 廃止 |
| ICチップ情報+容貌の画像の送信 | 利用できる | 存続 |
| 本人確認書類の写しの送付 | 利用できる | 原則廃止 |
| 公的個人認証(マイナンバーカード) | 利用できる | 存続 |
タイムズカーの流出で、何が起きているのか?
結論:運転免許証の画像を含む本人確認書類の情報が大量に流出し、免許証の再交付申請が各地で相次いでいる。もっとも、再交付による防止効果には限界がある。
カーシェアリングサービス「タイムズカー」を運営するタイムズモビリティは、2026年9月25日に外部からの不正アクセスを検知したと発表した。報道によれば、退会済みの会員や登録手続を完了しなかった申込者を含む約660万件の会員情報が取得され、そのうち約160万件で運転免許証などの本人確認書類の情報が流出した。流出した項目には、氏名、住所、生年月日、電話番号、メールアドレスのほか、運転免許証の画像が含まれる。同社は、クレジットカード情報の流出はないとしている。
報道によれば、流出を受けて運転免許証の再交付を申請する人が相次ぎ、各公安委員会は「相当な事情」があるとして、ほぼすべての窓口で再交付に応じている。他方で、再交付によって変わるのは顔写真と、12桁の免許証番号のうち再交付の回数を示す末尾の数字にとどまる。氏名、住所、生年月日は流出したままであり、事業者側も提示された免許証が最新のものかを確かめられない。警察庁は金融機関などに本人確認の徹底を要請している。
この流出については、集団訴訟への参加意思を募る登録サイトが開設され、多数の登録があったとも報じられている。もっとも、流出元に対する慰謝料請求と、自分の名義が悪用されたときの防御とは、別の問題である。本記事が扱うのは後者である。
名義を悪用されたら、名義人は責任を負うのか?
結論:名義を勝手に使われただけの「冒用型」であれば、名義人は原則として責任を負わない。責任が問題になるのは、自ら口座や通帳、キャッシュカード、本人確認書類を他人に渡した「提供型」である。
| 類型 | 典型例 | 刑事責任 | 民事責任 |
|---|---|---|---|
| 冒用型 | 流出・紛失・盗難した免許証の画像を使って、本人の知らないうちに口座が開設された | 原則としてない | 原則としてない(故意・過失がない) |
| 提供型 | 帰国前に口座を売った、「バイト」「融資の審査」と言われて通帳・カード・身分証の画像を渡した | 犯罪収益移転防止法28条違反、詐欺罪などの成否が問題になる | 詐欺被害者に対する不法行為責任・共同不法行為責任が問題になる |
提供型について、通帳やキャッシュカードを他人に譲り渡す行為は、対価の有無を問わず犯罪収益移転防止法28条の処罰対象である。また、第三者に譲渡する意図を隠して金融機関で口座を開設し、通帳等の交付を受ける行為について、最高裁は詐欺罪の成立を認めている(最決平成19年7月17日刑集61巻5号521頁)。民事でも、自分の口座を詐欺グループに利用させた名義人に、詐欺被害者に対する共同不法行為責任を認めた裁判例がある。
これに対し、冒用型の名義人は、口座の開設にも詐欺にも関わっていない。責任を負わせる根拠となる故意も過失もない以上、本来は責任を負わない。
冒用型でも巻き込まれる場面
問題は、冒用型の名義人であっても、外から見ると提供型と区別がつかないことである。詐欺の振込先になった口座は、名義人の氏名で凍結され、振り込め詐欺救済法に基づく手続の対象として公告される。金融機関の取引停止の対象となり、他の口座の利用や新規の取引に影響が出ることもある。警察から事情を聴かれることもあれば、詐欺被害者やその代理人弁護士から、名義人として損害賠償を請求されることもある。
こうした場面で、相手方や捜査機関がまず疑うのは「口座を売ったのではないか」「書類を渡したのではないか」という点である。名義人は「何も知らない」と述べるほかないが、言葉だけでは、提供型の名義人がよく口にする弁解と区別してもらえない。
なぜ、裁判を見据えて今のうちに記録を残すべきなのか?
結論:悪用が発覚した後に届け出ても、責任を免れるための後付けの説明と受け取られやすい。発覚前に残した記録は、作為の入り込む余地が少なく、関与していないことを示す客観的な証拠になる。
民事訴訟で名義人の責任を追及する側は、名義人が口座の開設や提供に関与したことを主張立証しなければならない。しかし実際の訴訟では、口座が名義人の氏名で開設され、本人確認書類も名義人のものであったという事実だけで、名義人の関与が強く推認されかねない。名義人の側は、その推認を崩す事情を具体的に示す必要に迫られる。
そのとき、「流出の通知を受けた直後に警察に相談していた」「同じ時期に免許証の再交付を受けていた」「本人申告をしていた」という記録があれば、悪用が起きる前から自分の書類が第三者の手に渡ったおそれを認識し、対策をとっていたことが、日付入りの第三者の記録で裏付けられる。紛失や盗難の場合も同じであり、遺失届や被害届の受理番号は、その時点で書類が自分の手元を離れていたことの証拠になる。
今すぐできることと、その記録
| 対応 | 残る記録 | 注意点 |
|---|---|---|
| 流出の通知メール・お知らせを保存する | 自分が流出の対象であることの証拠 | 削除せず、受信日時が分かる形で保存する |
| 警察に相談する(最寄りの警察署、警察相談専用電話#9110) | 相談の日時・担当者・相談内容 | 単なる流出は「遺失」に当たらず遺失届の対象にならないことがある。その場合も相談として記録を残してもらい、日時と担当者を控える。紛失・盗難であれば遺失届・被害届を出し、受理番号を控える |
| 運転免許証を再交付する | 公安委員会の再交付の記録、新しい免許証 | 悪用を止める効果は限られる。記録としての意味が大きい |
| 信用情報機関に本人申告をする(全国銀行個人信用情報センター、CIC、JICC) | 本人申告の登録 | 全国銀行個人信用情報センターの本人申告は、預金口座の開設時には照会されない。主にローン・クレジットの不正申込みへの備えである。手数料がかかる |
| 自分名義の口座・契約を定期的に確認する | 信用情報の開示結果など | 身に覚えのない契約を早く見つけるほど、被害は小さく、説明もしやすい |
| 身に覚えのない通知・請求・警察からの連絡が来たら、すぐ弁護士に相談する | (初動の対応) | 最初の説明の仕方を誤ると、後から立て直すのは難しい |
外国籍の方が特に注意すべき点は?
結論:在留カードも本人確認書類として悪用され得る。また、帰国前の口座売却は典型的な提供型であり、刑事処分が在留資格に影響する。
在留カードは写真付きの本人確認書類であり、その画像が流出すれば、運転免許証と同じく悪用のおそれがある。他方で、帰国や転居の際に「使わなくなる口座だから」と通帳やキャッシュカードを他人に売り渡す行為は、犯罪収益移転防止法28条違反になる。有罪となれば、在留期間の更新などで素行が問題とされ、日本での生活の基盤を失いかねない。「名義を勝手に使われた」のか「自分で渡した」のかは、外国籍の方にとって、刑事処分だけでなく在留の行方をも左右する。
ご相談について(相談料は一律10万円)
本記事は情報提供を目的とするものである。私は常時多忙であり、本テーマに関する個別のご相談は、相談料を一律10万円として受け付ける。
自分名義の口座が詐欺に使われたと連絡があった、身に覚えのない請求を受けた、警察から事情を聴きたいと言われた、口座や身分証の画像を渡してしまった、といった具体的な事情がある方は、早期にご相談いただきたい。冒用型であることをどの記録で示すか、提供型と疑われている場合に何を説明し何を説明しないか、外国籍の方であれば在留資格への影響をどう見込むかを、事情に即して検討する。
よくある質問
免許証の画像が流出しただけで、自分名義の口座を作られることはありますか。
あり得る。本人確認書類の画像と容貌の画像を送るホ方式が現在も認められており、流出した免許証の画像と加工した顔画像で口座が開設されたとして逮捕された事例が報じられている。ホ方式は2027年4月1日に廃止される予定である。
知らないうちに名義を使われた場合でも、責任を問われますか。
本人が関与していなければ、刑事責任も民事上の賠償責任も原則として負わない。ただし、口座の凍結、金融機関からの取引停止、捜査機関からの連絡、詐欺被害者からの請求などに巻き込まれることはある。そのとき、関与していないことを示す客観的な記録が重要になる。
免許証を再交付すれば安全ですか。
安全とまではいえない。再交付で変わるのは顔写真と免許証番号末尾の再交付回数などに限られ、氏名・住所・生年月日は変わらない。もっとも、流出を理由に再交付を受けた記録は、後日の紛争で自分が対策をとっていたことを示す材料になる。
本人申告制度に登録すれば、口座開設も止められますか。
止められるとは限らない。全国銀行個人信用情報センターは、本人申告の情報は会員の与信判断の参考資料であり、預金口座の開設時には照会が行われないと説明している。
口座や免許証の画像を他人に渡してしまった場合はどうなりますか。
通帳やキャッシュカードを他人に渡すことは犯罪収益移転防止法28条の処罰対象であり、譲渡目的を隠して口座を開設すれば詐欺罪に問われることもある。民事でも賠償責任を負う可能性がある。早期に弁護士に相談すべきである。
根拠条文・出典
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律28条(e-Gov法令検索)
- 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条1項1号ホ(令和7年6月24日公布の改正、令和9年4月1日施行)
- 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)
- 最決平成19年7月17日刑集61巻5号521頁
- @IT「タイムズカーで不正アクセス 『退会済み』含む約660万件の情報が流出」(2026年9月30日)
- 時事通信(nippon.com)免許証の再交付申請に関する記事(2026年10月)
- 秋田魁新報(共同通信配信)「成り済ましで顔認証突破か 口座不正開設疑い、男逮捕」(2026年3月4日)
- 全国銀行個人信用情報センター「本人申告制度」
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