刑事弁護の段階で在留特別許可のために残すべき証拠|情状証人・示談書・判決書を弁護士が解説
2026/10/11
在留特別許可の判断は刑事判決が確定した後に行われますが、その判断材料の多くは刑事事件の段階でしか作れないため、配偶者の情状証言、示談書や被害弁償の記録、量刑理由が書かれた判決書などを、刑事弁護の段階から入管手続を見据えて残しておくことが重要です。
刑事事件の弁護と入管の手続は、別々の手続として進みます。しかし、入管の審査で提出する資料の中身は、刑事事件の中で何をしたかによってほぼ決まります。何を、どのように残すべきかを整理します。
本記事の要点
- ガイドラインは、退去強制の理由となった事実を反社会性の程度に応じて消極要素とし(第2の6)、申立てだけでなく具体的な根拠や客観的な状況を見るとしています(第3)。
- 示談書や被害弁償の記録は、刑事処分を軽くするだけでなく、入管手続で事件の反社会性の程度を示す客観的な資料にもなります。
- 配偶者が情状証人として法廷で述べた監督の内容は、入管に出す陳述書と食い違わないようにしておく必要があります。
- 令和7年分の公表事例には、実刑の長さが結論を分けたとみられる事例があり、量刑を争うこと自体に在留上の意味があります。
なぜ刑事事件の段階で、在留特別許可の証拠を考える必要があるのですか。
入管の審査で使う資料の多くは、刑事事件の最中にしか作れないからです。示談も情状証言も、判決が確定した後にやり直すことはできません。
刑事判決を理由とする退去強制事由は判決の確定で生じ、在留特別許可の申請は、その後に収容されるか監理措置決定を受けてからになります(入管法50条2項)。ガイドラインは、許否の判断の仕方を次のように定めています。
「個々の事案ごとに当該外国人の申立て内容だけでなく、具体的な根拠の有無や客観的な状況も考慮した結果、各考慮事情に認められる積極要素及び消極要素を総合的に勘案し」(ガイドライン第3)
入管の段階で「反省している」「家族が支える」と述べるだけでは足りず、それを裏付ける客観的な資料が求められます。その資料の出どころが、刑事事件の記録です。
どの証拠が、在留特別許可のどの要素に役立ちますか。
刑事事件で情状として使う資料の多くは、そのまま入管手続でガイドラインの各要素の裏付けになります。最初から両方の手続を意識して集めるのが効率的です。
| 資料 | 刑事手続での役割 | 在留特別許可での役割 |
|---|---|---|
| 示談書・被害弁償の記録 | 処分や量刑を軽くする事情 | 退去強制の理由となった事実の反社会性の程度(第2の6) |
| 配偶者の情状証言の内容 | 更生環境と監督の約束 | 家族関係、婚姻の安定と成熟(第2の2) |
| 判決書(量刑理由) | 判決の内容そのもの | 事件の経緯と本人に有利な事情の公的な記録(第2の6) |
| 勤務先の上申書・雇用の予定 | 社会内での更生の見通し | 将来の雇用主等の第三者による支援(第2の3) |
| 同居・家計・子の在学の資料 | 身元引受の裏付け | 家族関係、子の利益(第2の2) |
示談書は、在留の面でどのような意味がありますか。
捜査段階で示談が成立すれば、不起訴や罰金にとどまる可能性が高まり、退去強制事由そのものを生じさせずに済むことがあります。判決に至った場合も、示談書は事件の反社会性の程度を示す資料として残ります。
「技術・人文知識・国際業務」や「家族滞在」など別表第一の在留資格の人は、窃盗・詐欺・傷害など一定の罪で拘禁刑に処せられると、執行猶予付きでも退去強制事由に当たります(入管法24条4号の2)。罰金のみであれば同号には当たりません。この境界の意味は不起訴・罰金を目指す意味で詳しく扱っています。なお、薬物事件は罰金でも退去強制事由に当たります(同条4号チ)。
示談書は原本の写しを手元に保管し、被害弁償の振込記録や領収書、謝罪文の控えも一緒に残しておきます。被害者の許しを示す文言があれば、その部分は特に重要です。
配偶者が情状証人になるとき、何に気をつければよいですか。
法廷で述べる監督の内容を具体的にし、その内容を後で入管に出す陳述書と一致させることです。二つの場面で話が食い違うと、どちらの信用も損なわれます。
- 同居の住所、本人の仕事、家計の管理など、監督の方法を具体的に述べる
- 事件の原因に即した再発防止の方法を示す
- 証言の要点をメモに残し、陳述書を作るときに照らし合わせる
- 事実と異なることや、できない約束は述べない
ガイドラインは、退去強制手続などで虚偽の内容を申告したことを消極要素としています(第2の9)。法廷で誇張した証言をすると、後の手続で本人に不利に働くおそれがあります。陳述書の書き方は配偶者の陳述書・嘆願書の書き方をご覧ください。
判決書の量刑理由は、なぜ大切なのですか。
量刑理由には、事件の経緯や役割、被害弁償、家族の監督など、裁判所が認めた事情が書かれます。入管手続で事件の反社会性の程度を説明する際の、公的な裏付けになります。
「退去強制の対象となる外国人は入管法第24条各号に掲げる退去強制事由のいずれかに該当しているところ、その理由となった事実は、その反社会性の程度に応じて消極要素として考慮されます。」(ガイドライン第2の6)
刑の重さそのものも結論を左右します。令和7年分(2025年)に入管法50条1項ただし書により許可された3件は、いずれも窃盗による懲役1年2月から1年6月の実刑判決の事案でした(懲役は当時の刑名で、現行法の拘禁刑に相当します)。他方、同年分・その他の場合・不許可第2事例は、詐欺等による懲役2年6月の実刑判決で、日本人実子の監護・養育を主張しながら不許可とされています。判決書の謄本は弁護人を通じて入手し、必ず保管してください。
判決確定までの時間に、何を積み上げられますか。
被害弁償の継続、就労の準備、家族の生活の記録、そして配偶者の在留上の地位の引上げです。刑事事件が続く間も、在留特別許可の材料は増やし続けられます。
控訴・上告は被告人の正当な権利です。量刑に争う点があれば上訴によってより良い判決を求めることができ、被告人だけが控訴した事件では原判決より重い刑を言い渡すことはできません(刑事訴訟法402条)。その結果、判決確定までの時間も延びます。在留の面からの検討は在留から見た控訴の実益で整理しています。
この期間に配偶者が永住許可や帰化を受ければ、婚姻はガイドラインの特に考慮する積極要素に当たるようになります(第2の2(1)ウ・(2)ウ)。審査に時間がかかる傾向にあるため、早く準備を始めることが大切です。
刑事と入管を同じ弁護士に任せる意味はありますか。
あります。刑事事件で何を残すかは、入管手続で何を主張するかから逆算して決める必要があり、両方を見通せる体制の方が漏れが少なくなります。
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、判決確定までの期間を使って家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。逮捕直後の初回接見から、在留資格への影響を説明し、入管手続を見据えた弁護方針を立てています。進め方は外国人の刑事事件と入管手続の一貫弁護をご覧ください。
よくある質問
Q1. 被害者と示談が成立しなかった場合は、どうすればよいですか。
示談の申入れの経過や、被害弁償を試みた記録を残してください。結果として成立しなくても、真摯に努力した事実は刑事手続でも入管手続でも説明できる事情になります。
Q2. 略式命令の罰金で終わった場合も、資料は必要ですか。
必要です。ガイドラインは、入管法50条1項ただし書に当たらない刑罰法令違反も素行の消極要素とします(第2の3)。罰金の事案でも、事件の内容と反省を示す資料を残しておくことが大切です。
Q3. 被害者のいない薬物事件では、何を残せばよいですか。
通院や治療プログラムへの参加、再使用を防ぐための生活環境の整備など、再発防止の取組みの記録が中心になります。薬物事件は罰金や執行猶予でも入管法24条4号チに当たるため、早い段階からの準備が欠かせません。
Q4. 判決書の謄本は、どうやって手に入れますか。
弁護人を通じて入手するのが通常です。入管手続では刑事事件の内容を正確に示す必要があるため、判決が出たら速やかに取り寄せ、示談書などと一緒に保管しておきます。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
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