中国人夫婦(技術・人文知識・国際業務と家族滞在)の場合|刑事事件と在留特別許可の見通し
2026/10/11
夫が「技術・人文知識・国際業務」、妻が「家族滞在」という夫婦のどちらかが刑事事件で拘禁刑に処せられると、在留特別許可は公表事例上きわめて厳しく、判決確定までに事件を起こしていない側を永住者か日本人にまで引き上げられるかが、見通しを左右します。
在日中国人の家庭でよく見られるこの組合せは、夫婦の在留資格がどちらも入管法別表第一に属します。そのため、家族関係がガイドライン上の「特に考慮する積極要素」に乗らないという構造的な弱さを抱えています。以下の内容は国籍を問わず当てはまります。
本記事の要点
- 技術・人文知識・国際業務も家族滞在も別表第一の在留資格であり、一定の罪で拘禁刑に処せられれば執行猶予付きでも退去強制事由に当たります(入管法24条4号の2)。
- ガイドラインが婚姻を特に考慮する積極要素とするのは、配偶者が日本人・特別永住者又は別表第二の在留資格の場合に限られます。
- 配偶者が別表第一の在留資格で本人に刑事処分がある公表事例は8件あり、本人が家族滞在の事案を含め、すべて不許可です。
- 事件を起こしていない配偶者を永住者か日本人にすること、刑事弁護で拘禁刑を避けることの二つが、実際に打てる手です。
技術・人文知識・国際業務と家族滞在の夫婦は、ガイドライン上どう扱われますか。
夫婦の婚姻は、ガイドラインの「特に考慮する積極要素」には入りません。婚姻を特に考慮するのは、配偶者が日本人・特別永住者である場合と、別表第二の在留資格である場合だけだからです。
「当該外国人が、入管法別表第二に掲げる在留資格で在留している者と法的に婚姻している場合」(在留特別許可に係るガイドライン第2の2(2)ウ)
別表第二は、永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者です。技術・人文知識・国際業務も家族滞在も別表第一に属するため、夫婦の絆がどれほど強くても、評価の出発点が異なります。家族滞在の仕組みは家族滞在とは(在留特別許可で付与される場合)で説明しています。
夫婦のどちらかが刑事事件を起こすと、退去強制事由に当たりますか。
窃盗・詐欺・傷害、過失運転致死傷などの罪で拘禁刑に処せられれば、執行猶予付きでも当たります。夫でも妻でも同じです。
| 判決の内容 | 夫婦とも別表第一の場合 | 根拠 |
|---|---|---|
| 窃盗・詐欺・傷害等で拘禁刑(執行猶予付き) | 退去強制事由に当たる | 入管法24条4号の2 |
| 同じ罪で罰金のみ | 同号には当たらない | 同号は拘禁刑を要件とする |
| 薬物事件で有罪(罰金・執行猶予を含む) | 退去強制事由に当たる | 入管法24条4号チ |
| 1年を超える拘禁刑の実刑 | 退去強制事由に当たり、在留特別許可には特別の事情が必要 | 入管法24条4号リ、50条1項ただし書 |
条文の「処せられた」「有罪の判決を受けた」は、判決の確定を指すものとして運用されています。刑事事件を理由とする退去強制の手続は、原則として判決の確定後に動き出します。
公表事例では、どのような結論になっていますか。
配偶者が別表第一の在留資格で、本人に刑事処分がある事案は、平成26年分から令和7年分までの公表事例で8件あり、すべて不許可です。そのうち5件は配偶者が技術・人文知識・国際業務でした。
| 公表事例 | 本人の刑事処分 | 配偶者 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 令和5年分・配偶者が正規在留外国人の場合・不許可第2事例(本人は家族滞在) | 入管法違反(不法就労のあっせん、資格外活動) 懲役(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当)10月・執行猶予2年、罰金30万円 | 技術・人文知識・国際業務 | 不許可 |
| 令和6年分(6月9日まで)・同類型・不許可第3事例 | 詐欺・電子計算機使用詐欺等 懲役1年6月・執行猶予3年 | 技術・人文知識・国際業務 | 不許可 |
| 令和7年分(2025年)・同類型・不許可第1事例 | 入管法違反(偽造在留カード行使) 懲役1年6月・執行猶予3年 | 技術・人文知識・国際業務 | 不許可 |
| 令和6年分(6月10日以降)・同類型・許可第3事例 | 道路交通法違反 懲役1年2月・執行猶予3年 | 定住者 | 許可(定住者) |
最後の行は、配偶者と子が定住者だった事案です。執行猶予付きの判決という点は同じでも、配偶者が別表第二であれば許可に至っています。配偶者が技術・人文知識・国際業務の場合の詳しい分析は配偶者が「技術・人文知識・国際業務」のとき在特はどうなるかをご覧ください。
妻が事件を起こした場合、夫の地位はどう引き上げられますか。
夫が技術・人文知識・国際業務で長く働いているなら、永住許可が第一の候補です。在留歴によっては帰化も選択肢になります。
永住許可のガイドラインは、原則として引き続き10年以上の在留、うち5年以上は就労資格又は居住資格での在留を目安としています。技術・人文知識・国際業務は就労資格なので、来日から10年に近い夫であれば、判決確定までの間に永住者になれる可能性があります。帰化は、国籍法5条1項1号が住所5年を定めていますが、2026年4月1日から運用上、原則10年以上の在留が求められています。
夫の申請は夫自身の要件で審査されますが、家族の状況も含めて確認されることがあるため、弁護士と相談しながら進めてください。永住と帰化のどちらを選ぶかは配偶者は永住と帰化どちらを目指すべきかで比較しています。
夫が事件を起こした場合、家族滞在の妻はどうすればよいですか。
妻の地位を短期間で永住者や日本人に引き上げるのは、正直に言って容易ではありません。この場合は、刑事弁護で拘禁刑を避けることの比重がいっそう大きくなります。
家族滞在は、永住許可の目安である就労資格にも居住資格にも当たらないと考えられるため、家族滞在のままでは永住の要件を満たしにくいのが実情です。妻が就職して就労資格に変更する(入管法20条)、在留歴が長ければ帰化を検討するといった方法はありますが、いずれも時間を要します。妻の在留が夫の扶養に支えられている以上、夫の判決そのものを軽くする努力が、家族全体の在留を守る最も直接的な方法になります。
刑事弁護の段階で、何を目指すべきですか。
まずは不起訴か罰金です。入管法24条4号の2は拘禁刑に処せられたことを要件としているため、罰金にとどまれば同号には当たりません(薬物事件は罰金でも4号チに当たります)。
起訴された場合でも、控訴・上告は被告人の正当な権利です。被告人だけが控訴した事件では、原判決より重い刑を言い渡すことはできません(刑事訴訟法402条)。争うべき点を争った結果として、判決確定までの時間が延び、その間に配偶者の永住や帰化の手続を進めることができます。
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、判決確定までの期間を使って家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。ただし結果は事案ごとに異なり、許可を約束できるものではありません。
よくある質問
Q1. 家族滞在の妻が万引きで罰金になった場合も、退去強制になりますか。
入管法24条4号の2は拘禁刑に処せられたことを要件とするため、罰金のみであれば同号には当たりません。ただし、刑罰法令違反は在留特別許可の判断ではガイドライン第2の3の消極要素になります。
Q2. 夫婦に子どもがいれば、許可されやすくなりますか。
この類型では、子の存在だけで結論が変わるとは言えません。公表事例には、配偶者が技術・人文知識・国際業務で未成年の子がいながら不許可となった例があります。子が日本の学校で相当期間教育を受けているなどの事情は、別途主張を検討します。
Q3. 夫が永住許可を受ければ、妻の在留特別許可は必ず出ますか。
出るとは限りません。ただ、夫が永住者になれば、婚姻はガイドライン第2の2(2)ウの特に考慮する積極要素に当たり、評価の出発点が変わります。罪の内容や婚姻の実質と合わせて総合的に判断されます。
Q4. 判決が出た後でも、間に合いますか。
判決が確定する前であれば、打てる手は残っています。第1審判決に対する控訴の提起期間は14日です(刑事訴訟法373条)。確定後は入管の手続に移るため、判決を受けたらすぐにご相談ください。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
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