不許可が予想されるときに打てる手|在留特別許可で時間・地位・実体・主張・訴訟を使う
2026/10/11
不許可が予想される事案でも、判決確定までの時間を確保し、その間に配偶者の在留上の地位と婚姻の実体を整え、公表事例に基づく主張を組み立て、それでも不許可なら訴訟で争う、という5つの手を順に打つことができます。どの手も、早く動くほど選べる幅が広がります。
「判決が出たら強制送還されると言われた」という段階でも、打てる手が残っていることは少なくありません。
本記事の要点
- 刑事判決を理由とする退去強制事由は判決の確定で生じるため、刑事段階の対応で数年の時間が生まれることがあります(時間)。
- その時間に配偶者の永住許可や帰化を進めれば、婚姻がガイドラインの「特に考慮する積極要素」に当たるようになります(地位)。
- 同居・家計・子の監護、地域社会とのつながりを記録として残すことが、立証の土台になります(実体)。
- 入管法50条5項の考慮事情とガイドライン、公表事例との比較から主張を組み立てます(主張)。
- 不許可となっても、取消訴訟や執行停止の申立てを検討できます(訴訟)。
不許可が予想されるのは、どのような事案ですか。
典型は、配偶者が別表第一の在留資格で本人に刑事処分がある事案、1年を超える実刑の事案、「特に考慮する消極要素」がある事案です。
当事務所が平成26年分から令和7年分までの公表事例を精査したところ、配偶者が「技術・人文知識・国際業務」「留学」など別表第一の在留資格で、本人に刑事処分(執行猶予付き判決を含みます)がある事例は8件あり、すべて不許可でした。また、無期又は1年を超える実刑の場合は、入管法50条1項ただし書により「特別の事情」がなければ許可されません。偽造在留カードの行使や不法就労助長、過去の退去強制歴なども、大きな消極要素になります。
ただし、これは何もしなかった場合の見通しです。以下の5つの手は、この見通しを変えるためのものです。
1つ目の手「時間」とは、何をすることですか。
判決の確定までの時間を、正当な手続の中で確保することです。刑事判決を理由とする退去強制事由は、判決が確定してはじめて生じます。
捜査段階で不起訴や罰金を目指すことは、別表第一の人にとっては入管法24条4号の2の退去強制事由そのものを避ける道です。起訴された場合も、事実や量刑に争うべき点があれば、控訴・上告で争うことは被告人の正当な権利です。控訴の提起期間は14日(刑事訴訟法373条)で、上告にも準用されます(同法414条)。被告人だけが控訴した事件では、原判決より重い刑を言い渡すことはできません(同法402条)。結果として確定までの時間も延びます。
あわせて、刑事事件中に本人の在留期間が切れると、判決とは別に不法残留が退去強制事由になります。在留期間の更新を切らさないことも、時間を守るための前提です。上訴の考え方は刑事事件の控訴で説明しています。
2つ目の手「地位」とは、何をすることですか。
確保した時間で、配偶者の在留上の地位を引き上げることです。配偶者が永住者になれば別表第二の在留資格者との婚姻(ガイドライン第2の2(2)ウ)、帰化して日本人になれば日本人との婚姻(同(1)ウ)として、いずれも「特に考慮する積極要素」に当たります。最低限、永住許可までは進めておきたいところです。
| 手段 | 主な要件・運用 | 注意点 |
|---|---|---|
| 配偶者の永住許可(入管法22条) | 原則10年在留、うち5年以上は就労資格(技能実習・特定技能1号を除く)又は居住資格 | 申請者本人の素行・生計・公的義務の履行が審査される |
| 配偶者の帰化(国籍法5条) | 法律上は引き続き5年以上の住所。2026年4月1日から運用上、原則10年以上の在留 | 納税や社会保険料の納付状況を確認する期間も延びた |
| 簡易帰化(国籍法7条) | 日本国民の配偶者たる外国人が対象 | 外国人同士の夫婦の一方を日本人にする手段ではない |
配偶者の永住・帰化の審査は、申請者本人の要件で行われますが、家族の状況も含めて確認されることがあるため、弁護士と相談しながら進めてください。どちらを目指すかは配偶者は永住と帰化どちらを目指すべきかで整理しています。
3つ目の手「実体」とは、何をすることですか。
婚姻と生活の実体を、後から確認できる記録として積み上げることです。ガイドラインは、婚姻について「夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助」していることを求めています。
- 同居を示す住民票の記載や住居の契約
- 家計の共同を示す送金、口座、生活費の負担の記録
- 子の監護養育を示す学校・保育園・通院の書類
- 地域社会での活動や、将来の雇用主などによる支援の内容
ガイドラインは、地域社会に溶け込み貢献している事情や、将来の雇用主等の第三者による支援が十分であることを、程度に応じて積極要素としています(第2の3)。判決確定までの期間を通じて継続的に残す方が、説得力のある記録になります。
4つ目の手「主張」とは、何をすることですか。
法律とガイドラインと公表事例を使って、許可すべき理由を組み立てることです。入管法50条5項は、考慮すべき事情を次のように定めています。
「法務大臣は、在留特別許可をするかどうかの判断に当たつては、当該外国人について、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなつた経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となつた事実及び人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事情を考慮するものとする。」(入管法50条5項)
条文は「家族関係」を配偶者の在留資格によって限定していません。ガイドラインも、特に考慮する積極要素があってもそれだけで許可されるわけではなく、消極要素があっても一切許可されないわけでもない、と定めています(第3)。当事務所は、公表事例を一種の裁量基準として読み込み、近い事情の許可事例と比べて合理的な理由なく異なる扱いをすることは、平等原則・比例原則に反すると主張する立場をとっています。比較の方法は公表事例を使った主張の組み立てで詳しく説明しています。
5つ目の手「訴訟」とは、何をすることですか。
不許可となった場合に、裁判所で処分の取消しを求めることです。在留特別許可をしない処分には理由を付した書面が交付され(入管法50条10項)、その後、退去強制令書が発付されます(同法47条5項3号)。
処分の取消訴訟とあわせて、送還を止めるための執行停止の申立てを検討します。もっとも、ガイドラインは退去強制令書の発付後の事情について、次のように定めています。
「在留が認められず退去強制令書を発付された外国人は、速やかに本邦から退去することが原則となるため、退去強制令書が発付された後の事情変更等は原則として考慮されません。」(在留特別許可に係るガイドライン第3・注4)
訴訟は最後の手段であり、1つ目から4つ目の手を打ったうえで臨むことが前提です。不許可の前に整えた事情と主張が、訴訟でも土台になります。
5つの手は、どの順番で、いつ始めればよいですか。
逮捕の直後から、時間と地位と実体の手を同時に始めるのが理想です。主張は入管の手続に入る前に準備を終え、訴訟は不許可の後の備えとして見通しを立てておきます。
| 手 | 主な時期 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 時間 | 逮捕から判決確定まで | 不起訴・罰金を目指す弁護、上訴、在留期間の更新 |
| 地位 | 逮捕直後から | 配偶者の永住許可・帰化の申請 |
| 実体 | 逮捕直後から継続して | 同居・家計・子の監護・地域社会の記録 |
| 主張 | 判決確定前から入管の手続中 | 50条5項・ガイドライン・公表事例に基づく申請書面 |
| 訴訟 | 不許可の後 | 取消訴訟、執行停止の申立て |
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、判決確定までの期間を使って家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。結果は個別の事情によって異なり、許可を約束できるものではありませんが、諦めずに、できるだけ早くご相談ください。
よくある質問
Q1. 判決が確定した後でも、打てる手はありますか。
あります。入管の手続では、収容令書による収容又は監理措置決定の後に在留特別許可を申請でき(入管法50条2項)、主張を尽くすことができます。ただし、認定に服した日から3日以内に申請しないと退去強制令書が発付されるため(同法47条5項2号)、期限に注意してください。
Q2. 上訴をすると、裁判所の心証が悪くなりませんか。
上訴は被告人に認められた正当な権利です。事実や量刑に争うべき点があるなら、より良い判決を求めることができます。被告人だけが控訴した事件では、原判決より重い刑を言い渡すことはできません(刑事訴訟法402条)。
Q3. 外国人同士の夫婦でも、配偶者は簡易帰化を使えますか。
使えません。国籍法7条の簡易帰化は「日本国民の配偶者たる外国人」が対象です。外国人同士の夫婦の場合は、配偶者が普通帰化(国籍法5条)か永住許可を目指すことになります。
Q4. 退去強制令書が出た後に永住許可が出ても、考慮されますか。
ガイドラインは、退去強制令書が発付された後の事情変更等は原則として考慮されないとしています(第3・注4)。配偶者の地位の引上げは、在留特別許可の判断より前に完了させることを目標に、早めに始めることが大切です。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
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